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第九章

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 不穏な空気が漂う曇り空の下――

 曇天を薙ぎ払うべく、

『みんなぁーーーっ♪ 愛してるしぃーーーーっ♪』
『『『『『『『『『『愛してるしぃーーーーーーっ♪』』』』』』』』』』

 リンドウのライブは今日も大盛況。
 そんな熱狂を横目に、警備に加わるインディカは目を皿のように見開き、

(犯人はオレっちぁ絶対ぇとっ捕まえるっスゥ!)

 少々気負い過ぎとも思える気概を以て、ライブ会場の客席を、ステージ上を、ステージの裏を、気配の探知能力を駆使し、血眼になって探っていた。
 一分、一秒、些細な変化も見逃さぬようにと。

 全ては、最初からあったかどうかも疑わしい「ヒレンからの信頼」を取り戻す為。

 建前としてリンドウの護衛を任されていたターナップも会場内には居たが、兄貴分である彼にも何も話していなかった。
 ヒレンの沽券、名誉に関わる、繊細な問題でもあるが故に。

 全体像が見えない中ではデリカシーを欠いたインディカと言えど、流石に迂闊な事を口に出来なかったのである。
 
 相手が「想い人」であるから、なおさらに。
 しかし彼の熱意、気概に反し、怪しい気配の動きは見られず、

『みんなぁーーーっ♪ ありがとぉしぃーーーーっ♪』
『『『『『『『『『『ありがとぉしぃーーーーーーっ♪』』』』』』』』』』

 その日のライブも大盛況の下、無事に終演を迎え、キラキラ輝く汗と笑顔のリンドウはステージ上から客席側の階段を使って降りながら、

『みんなぁーーーっ、またぁ来てぇしぃーーーーっ♪』
『『『『『『『『『『またぁ来るしぃーーーーーーっ♪』』』』』』』』』』

 声援が注ぐ、客席を貫く花道を通って、観客一人一人に挨拶するかの如く笑顔で手を振り退場しようとした、その時、

『!』

 背後から迫る「何か」に気付く。
 姿は見えない。
 気配も薄い。

 それでも感じるのは、強い殺意。
 全神経が観客たちに向いていた為に、

(反応が遅れたしぃ!)

 気配は既に目と鼻の先。

 驚きつつも何かしらの一撃を浴びるのを、瞬時に受け入れるリンドウ。
 このような日が来るのを、覚悟はしていたから。
 そんな彼女の前に割って入るように、

『何をボサッとしてるのよアンタはァア!』

 飛び出して来たのは、

『ヒレぇン!』

 とは言えヒレンにとってもあまりに唐突な出来事であったのか、彼女は向かって来る殺気に対して身を挺するが精一杯の様子であったが、

『御旗のアンタに何かあったら困ると言ったでしょ!』

 自らの行為の理由を早口で弁明。
 それだけではない「本心の優しさ」を、あえて口にしない辺り、なんとも彼女らしくはあったが迫る殺意は容赦なく、リンドウを守る彼女と交錯。

 サクッ!

 何かが肉を貫く嫌な音が鈍く響き、
「うっ、ウクゥ!」
 悶絶寸前の唸りを上げたのは、
《インディカ》
 地面に滴り落ちる彼の鮮血に、

『アンタ何で!?』

 助けられた形になったヒレンが慄く中、彼は苦痛に顔を歪めながらも眼前の何もない空間に手を伸ばし、

『コソコソ隠れてんじゃねぇえ!』

 何かを剥ぎ取る動きを見せると、

『『『『『『『『『『ッ!』』』』』』』』』』

 露になったのは、見た事が無い男。

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