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第八章

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 村が一先ずの平穏を取り戻した頃――

 小刻みに震え、怯えた表情で跪くのは地世の七草フリンジ。
 彼の前には玉座に坐する、地世王プエラリアが。
 両目を閉じた、いつも通りの半笑いで、

「ねぇ、フリンジくん♪」

 軽やかな笑い声で声を掛け、
「キミがする事は、いつもいつもいつもいつも失敗ばかりだね♪ 自称とは言え「地世の智将」が聞いて呆れるね♪」
「…………」
 返す言葉も無い様子の彼を笑顔で見下ろし、

「今回は最悪の場合でも、彼女の身がラディくんの手に落ちないように「最終手段も講じてある」って言ってたけど……そもそも隔絶空間に体が保管されたらどうするんだい?」
「!」
「キミが送る地法の信号も届かなくなるんだよ?」
 ギョッとした顔を上げるフリンジ。

『そっ、それは!』

 咄嗟に釈明しようとしたが、その内心では、
(かっ、考えて無かったぁあぁぁ~~~!)
 失念に頭を抱えていた。

 するとプエラリアは見透かしたかのように、気味が悪い程の変わらぬ笑顔で右手をスッと上げ、顔の高さまで上げると指を打ち鳴らすポーズ。
 その姿に、

『ッ!』

 自身の死を直感するフリンジ。
(あ、あの指が打ち鳴らされた当方はぁ~!)
 不可避の死を目前に思考が停止した彼の怯えた目は、

「!?」

 何かを目にして固まった。
 死を告げるプエラリアの手を横から伸びて来た手甲(てっこう)が覆い、処刑を思いとどまらせたのである。
 被せた人物はプエラリアの玉座に並び座る、
「…………」
 無言の、全身鎧の何者か。

 フルフェイスの兜ゆえに素顔は分からない。

 素性が分からないどころか、上下関係も不明ではあったが、プエラリアは「地世の王の決断」に異を唱えられたのに憤慨するどころか「クスッ」と小さく笑い、全身鎧が意思表示した事に気を良くした様子で、

「彼を「助けてあげろ」とキミは言うのかい♪」

 穏やかな笑顔で、意外そうに問うた。
 一方、全身鎧に救われた形となったフリンジ。
 命拾いした事に「さぞ感謝している」と思いきや、真摯に跪き伏せて隠した顔は、

(クッ! このぉ当方がぁ助けられたですとぉ! 地世の智将(※自称)と謳われた当方がぁコイツなんぞにぃい!)

 堪え切れぬ悔しさから歪みまくっていた。

 命を救われておきながらの、コイツ呼ばわり。

 正体を知っている様子で敵対心を燃やしていると、全身鎧はプエラリアの右手に被せた自身の左手を静かに外し、

「ん?」

 不思議そうな顔で見つめるプエラリアに首を横に振って見せ、
(?)
 異変に気付いたフリンジが顔を上げると、全身鎧は無言で人差し指を一本立てて見せた。
「!」
 以心伝心、真意を察するプエラリア。

「アハハハハ♪」

 高らかに笑い出し、意味が分からぬ様子で跪くフリンジを前に、
「殺すのはいつでも出来るからぁ、最後に「ワンチャンあげろ」とキミは言うんだねぇ♪」
 意図を知らされた彼は、

(こぉっ、これ以上ない屈辱でぇす!)

 全身鎧に対する怒りが顔に出そうになったが、
「良かったねぇフリンジくん♪ 汚名返上の機会を貰えたよ♪ 慈悲に感謝するんだね♪」
 地世王プエラリアの声に、

(!)

 辛うじて自制を働かせ、
「ははっ! 仰せのままに!」
 一見すると忠誠を以て深々と頭を下げたが、その腸(はらわた)は、

《何故にコイツにまで頭を下げねばならぬのだぁ!》

 全身鎧に対する反発心から、怒りで煮えくり返っていた。
 その源は嫉妬であろうか、謁見の間を後にしたフリンジは廊下を大股で足早にズカズカと歩きながら、上座に並び座る二人の姿を思い奥歯をギリリと噛み鳴らし、

(あの御方(プエラリア)の隣には当方こそが相応しいのだァ!)

 勢い変わらず私室に入ると、
(こうなれば当方が直接乗り込んで、あの女(サロワート)を暴走させ、ヤツ(全身鎧)の意に反する事になろうと勇者もろともぉ!)
 クローゼットのマントを苛立ちと共に羽織り、並々ならぬ決意の宿った表情でテラスに出て、

『オマエ達ィ! 当方の為に死んでみせるのです!』

 眼下には合成獣の大群が。
 主の命に呼応するように、

「「「「「「「「「「ギャァワワァーーーーーーッ!」」」」」」」」」」

 雄叫びを一斉に上げる。

(もはや失敗は許されないのです!)

 地世の七草フリンジ出陣。
 自ら手掛けた「強力な合成獣の群れ」を従えて。
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