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第八章

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 門兵の二人が女性の素顔に驚きを露にしていた頃――

 ラディッシュ達は宿の一室で、雑魚寝で夢の中。
 それぞれが内に憂慮を抱えながらも、盛大な歓迎会と言う名の宴会に飲まれ、疲れ果てて爆睡していたのだが、未だ陽が昇りきらぬ明け方にも関わらず、

 ドンドンドン!
『勇者様方ぁ!』

 容赦なく叩き起こされる、中世を幾度となく救った英雄たち。
「「「「「「「…………」」」」」」」
 疲れが抜けきらない様子の眠気眼(ねむけまなこ)を擦っていたが、ヨロヨロと起き上がった後、呼ばれた理由を聴くなり、

『『『『『『『!?』』』』』』』

 疲れも眠気も一瞬で吹き飛んだ顔して宿から一斉に飛び出した。
 別室で休んでいた天世の二人に声を掛けるのも忘れる程に血相を変え、伝えられた南門へ駆ける勇者組。

 現場に辿り着くと、
「「「「「「「!」」」」」」」
 そこには緊急招集されたと思われる警備兵数名が既に居て、横たえる女性を前に、

「「「「「…………」」」」」

 一様に困惑顔をしていた。
 対応に苦慮しているのか、女性は未だ地面に寝かされたままではあったが、流石に「忍びない」と思われたのか、誰かが用意した布団代わりの薄布の上に寝かされていた。

 扱いを慎重にせざるを得ない女性。
 そんな彼女の顔を見たラディッシュたち勇者組は、

『『『『『『『サロワートぉ!』』』』』』』

 思わず声を上げた。
 宿に来た兵から何者であるか、予め聞いていたにも拘らず。

 土埃にまみれ、ボロボロの服を纏った姿で意識を失う女性は、勇者組や、この村とも縁の深い地世の七草、魔王軍幹部の彼女であった。
 警備兵たちが対応に苦慮したのも、当然の結果と言える。

 程なく村長や、村の長老たちも駆け付けたが、
「「「「「「…………」」」」」」
 彼らも一様に困惑の顔。

 相手は満身創痍の女性。

 本来ならば即座に村に受け入れ、宿の手配や、治療の手配を行うところであるが、彼女が「地世の七草サロワート」であるのは、村の誰もが知るところ。
 先に起きた「サロワートを連れ戻す為の襲撃」が頭をよぎり、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 村の誰もが戸惑いを隠せない。

 だからと言って「村の子供たちの恩人」でもある彼女を、いつまでも放置している訳にもいかず、村を守る立場と良心の板挟みで、

((((((((((どうしたら……))))))))))

 すると複雑な心中を察したラディッシュが、
「…………」
 意識を失ったままの彼女を唐突に抱きかかえ、

((((((((((勇者様ぁ?!))))))))))

 驚く村人たちを尻目に彼は、
「ドロプ」
「?!」
「馬車を持って来てくれない?」
「!」
 即座に彼の意図を理解し、

「行ってきますわ!」

 駆けだすドロプウォート。
 一方で、

「あ、あのぉ……勇者様?」

 状況が呑み込めない村長たちには、

「村の外の一角をお借りして大丈夫ですか?」
((((((((((!))))))))))

 窺うような声色から意味を理解した村長は長老たちと頷き合い、意思の一致を見ると、
「こ、子供たちの恩人でもありますし……む、村の外でしたら……」
 少々歯切れ悪くも了承した。

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