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第八章

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 町の人々とのギクシャクした関係が改善されぬまま日々が過ぎ――

 事故処理がひと段落した頃、容姿を中世人の姿に戻したリンドウが、

『アーシ(天世人)達が居るのはぁ町の人達の精神衛生上良くないのしぃ♪』

 冗談めかした物言いと精一杯の笑顔で、ラディッシュ達に出立を促した。
 正体を明かす羽目になった事に「後悔は無い」と笑顔で言い切るも、何処か寂しげでありつつ。

 やがて勇者一行が出立の折、見送りに集まる町の人々。
 しかし、

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 リンドウの正体を知る前の気心は皆無で、まるで「不敬にあたる」のを気にして、義務感から集まったような、よそよそしさ。

 だからと言って無視して出発する訳にはいかず、馬車の手綱を握るラディッシュは、
「…………」
 旅立ちのきっかけを見い出せずに居ると、荷台のリンドウが過剰とも思える満面の笑顔で、

『いつまでも町の入り口に居たらぁ邪魔になるしぃ~♪』
(!)

 きっかけを貰った彼も、
「そ、そうだねぇ♪」
 多少ぎこちないながらも笑顔を返し、町の人々に向け、

「御世話になりました♪」

 仲間たちと頭を下げたが、返って来たのは、

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 何とも微妙な反応の数々。
 双方、気マズイ空気の中、

「で、では、僕達はこれで!」

 逃れるように、早々に馬車を走らせようとすると、

『ママもぉみんなもぉヘンだよぉ!』

 憤慨露な声を上げたのは、一人の女児。
 リンドウの手により母親と共に命を守られた、女の子であった。

 幼いながらも大人を圧する怒りようで以て、
「どうしてぇちゃんとぉアリガトウってぇいわないのぉ! たすけてもらったらアリガトウでしょ!」
((((((((((!))))))))))
 痛い所を衝かれた顔を見せる、町の大人たち。

 その表情からラディッシュ達は知った。

 町の大人たちが抱えていたのが「天世人に対する嫌悪感」ではなく、素直に感謝を伝えらなかった「罪悪感であった」と。
 我が身を顧みず助けてくれたリンドウが「町を蹂躙したハクサン」と同じ天世人と知り、思わず、反射的に、彼と姿をダブらせ嫌厭(けんえん)してしまったのだが、いざ冷静を取り戻してみれば、命を救われておきながら「大人として実に不誠実」な、人としても「恥ずべき振る舞い」の数々。

 彼女は、町の人々を犠牲に「悪しき大願成就」を果たそうとしたハクサンとは違うのである。

 とは言え、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 一度振り上げてしまった拳を「今更ゴメンナサイ」と素直に下せぬのが大人の見栄、面倒臭い悪癖。

 母親は町の大人の戸惑いを代弁するが如く、
「そ、そんな簡単な話じゃないよぉ」
 諭す物言いをしたが、

『そんなのオカシイよぉ!』

 幼子は即座に反発。
 すると、
「そ、そうだよな……」
 町の大人たちの中から同調の声が。

 彼女の素直に心を動かされ、
「その子の言う通りだ……」
「確かにそうよね……」
 声は、心の片隅で「謝罪のきっかけ」を待っていた大人たちの間に瞬く間に広がり、女の子と笑顔で感謝を口々にしつつ、

《リンちゃん、また遊びにおいでぇ♪》
「!」

 呆気に取られていたリンドウは思わず感涙したが、満面の笑顔で涙を振り払い、
『必ずぅまた来るしぃーーー♪』
 走り出した馬車の荷台から手を振った。

 憑き物が落ちた町の人々も笑顔で手を振り応え、チィックウィードやパストリスたち勇者組も笑顔で手を振り返すと、反発されたことで斜に構えていたゴゼンとヒレンも、
「「…………」」
 何処か照れ臭そうに「それとなく」を装い、手を振った。

 以降、天世の三人は荷台内に引き籠る事は無くなり、移動を続ける馬車から復興半ばのあるブル国の町々を、額に汗して作業する人々を、延々と眺め続けた。
「「「…………」」」
 同胞の暴挙を止められなかった自責を、一つ一つ心に刻み付けるように。

 馬車は一路、アルブル国北の国境を目指してひた走る。

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