上 下
563 / 706
第八章

8-45

しおりを挟む
 たまたま遭遇した復興作業を手伝い始めて数日――

 現場の作業員たちにもすっかり顔を覚えられ、

『リンちゃん、おはようさぁん♪』
『リンちゃん、今日も良い天気だねぇ♪』

 行き交う人々に笑顔で声を掛けられ、

『そうしぃねぇ♪ 作業日和しぃいぃ♪』

 その都度、マメとも思える笑顔を返す作業員姿のリンドウ。
 他の天世の二人もそれなりに顔は知れたが、その癖(へき)ゆえに「女性からすこぶる評判の悪いゴゼン」と、一部に「熱狂的なファン(ツンデレマニア)」を持ってしまったヒレン。

 町の人達にとって「素性の知れない身」でありながら易々と受け入れられたのは、信頼を置かれているラディッシュたち勇者組の同伴者であるのも大きかった。
 陽は傾き、町が茜色に染まり始めた頃、拠点としてラディッシュが建てた仮設テントに、

『今日も一日終わったしぃ~♪』

 笑顔で帰って来たのはリンドウ。
 続けて、

『ふぃ~やっと解放されたョぉ~』

 男ばかりの現場から辟易顔で帰って来たのはゴゼン。
 ヒレンも、
「なんで私が、埃まみれで仕事をしないといけないワケぇ~」
 愚痴っぽく帰って来たが、その表情は口にした悪態と相反する充実が窺えた。
 勇者組の面々も、

「「「「「「ただいまぁ~♪」」」」」」

 続々と帰宅を果たす中、エプロン姿でお玉を手に、

『みんなぁお帰りぃお疲れ様ぁ♪ ご飯の用意が出来てるよぉ~♪』

 笑顔で迎えるのはラディッシュ。
 本人も復興作業を手伝っていない訳ではないが、家事を理由に、他のメンバーよりも早めに帰宅していたのであった。

 天世の三人が加わっても変わらぬ「夕飯は全員揃って」の御約束。

 食事をしながら今日あった出来事などを語り合う中、リンドウが気になる一言を発した。
 決して重々しくではなく、雑談の一つと感じる程度の何の気なしで、

『中世の仕事ってぇ、ドコもぉこんなに忙しいのしぃ?』
「「「「「「「「「?」」」」」」」」」
「アーシはぁ少し急ぎ過ぎな感じがするのしぃ~♪」

 ソレほどの仕事をこなせている自画自賛が透けて見える、ドヤを感じる笑顔の語り口に、仲間たちは「あはは」と笑い、彼女が感じた「急ぎ過ぎ」を誰一人として真剣に受け止める者は居なかった。
 口にした、リンドウ本人でさえ。

 しかし「第三者的な目」を持った新参者は時として「常態化してしまった異変」に、場慣れした従事者より先に気付ける事がある。
 リンドウの気付きも「軽い冗談話」として流してしまったが、彼女が抱いた違和感は決して間違いでは無かった。

 急ぎ過ぎにより生じたヒズミは、静かに、人知れず、しかしながら確実に歩みを寄せつつあった。
 やがてソレは、唐突に牙を剝く。
 最も歪みが蓄積された箇所に重篤な症状となって。

 異変に気付いたのは、復興作業の現場監督。
 好天に恵まれ、いつもと変わらぬ復興作業が進むさ中、彼は作業場を巡回し、

「ん?」

 複数の作業音に交じる「ミリッミリッ」と言う、耳慣れぬ微かな音を聴いた。
(何の音だ?)
 音を辿って見上げてみれば、そこは建設中の教会。

 王都の新たなシンボルとして、復興のシンボルとして、人々の思いが籠った、威風堂々たる佇まいを見せ、ビルの高さ十階相当にあたる外壁工事の為に、高い足場が組まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...