上 下
560 / 706
第八章

8-42

しおりを挟む
 ひたすらポージングする暑苦しい門番兄弟を目の端に、カルニヴァ国への入国意義を改めて問われ、
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
 心情的な部分で即答できない勇者組と天世の二人。
 カルニヴァ王との謁見とは、別の話で。

 その様子に、

『『のふぉ?!』』

 見知らぬ優男(やさおとこ)から「卑下された」と感じる門番兄弟。
 神経図太いようでありながら、細やかなようで、

『勇者殿の御連れでぇ手加減も考えていたでアールがぁ!』
『キサマには我らの筋肉でぇ教育が必要なのでアールゥ!』

 怒り心頭な御様子で掴み掛かろうとしたが、

『ちょぉーーー待つしぃ!』

 間に割って入ったのは、リンドウ。
 いきなりの横槍に、

『『?!』』

 門番兄弟は驚いて動きを止め、大の男たちを手玉に取った気分の鼻高々リンドウを、
「「…………」」
 急激に取り戻した冷静で見下ろしながら、

「「このケバケバしいチンチクリンは何でアール???」」

 奇怪な生き物でも見つけたような、不思議顔をした。
 その「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」と「拍子の抜けた声」に、思わず「プッ」と吹き出し笑うゴゼンと、咄嗟に背を向けるヒレン。
 背を向けたのは「リンドウを一応気遣った」のか、それとも笑いを堪える変顔を隠したのか不明であるが、向けられた背は、

「…………」

 小刻みに揺れていた。
 ラディッシュたち勇者組も、

《笑ってはリンドウに悪い……》

 門番兄弟の反応に覚えた笑いを必死に堪えて居ると、

『ダレがぁケバイちんちくりん、しぃーーーッ!!!』

 リンドウ大噴火。
 彼女の心情を想えば、怒りも当然である。

 一見すると派手に見えるメイクもファッションも、言葉遣いさえも、元老院や百人の天世人の中で蠢く魑魅魍魎たちと目には見えぬ丁々発止を散々繰り広げ、培って来た、彼女なりの戦闘スタイルなのだから。
 数分後、

「「たぁ……タイヘン失礼したのであーる……りんどうさまぁ……」」

 大きな体を小さく縮め、静々と門を開ける門番兄弟。
 見るも無残に、顔を腫れさせ。
 一方で、息も切らさず着衣の乱れすら無く、

『分かったらぁ早く開けるのしぃ!』

 不機嫌収まらぬリンドウ。
 如何な「中世のチカラ自慢」と言えど、百人の天世人の序列二位を相手に敵う道理は無いのである。
 リンドウ曰く「御仕置き」と称する、殴る、蹴る、散々した後にされたネタバラしに、

『『!!!』』

 満身創痍で平謝りした門番兄弟。
 報告を受けた現王カルニヴァは、

『ハーーハッハッハッ!』

 玉座の手すりを叩いて大笑い。
 笑い過ぎの涙が止まらぬまま、

『いやぁはやぁ配下が失礼致した天世の方々よぉ♪』

 形ばかり跪く天世の三人を前に、
「詫びと言っては何だがぁ、今宵は盛大な宴を用意させよぅ♪」
 宮廷料理の大宴会と聞き、

「「♪♪♪」」

 すっかり機嫌を良くするリンドウと、男尊女卑の色濃い国に塞ぎがちであったヒレン。
 二人の態度の現金な豹変に、ラディッシュたち勇者組が苦笑する中、

『むさっ苦しい漢ばっかりぃのぉ~?!』

 不平、不満を口にしたのは、やはりゴゼン。
 何処までも自身の欲望に忠実な姿勢に勇者組は思わず笑ってしまったが、天世の女子二人は同胞の再びの「恥曝し」に、

((この女タラシはぁ!!!))

 怒りを新た、

((説教タイム(しぃ・よぉ)!))

 頭ごなしの文句を雨あられと、降り注ごうとした。
 しかし、

「「!?」」

 察したカルニヴァ王がそれを手で制し、ニッと笑ってゴゼンを見据え、

「我が婚約者にも良い顔をされぬが「漢ばかりの酒宴」と言うのも、存外悪くないモノ」なのですぞ、ゴゼン殿よぉ♪」

 不敬に腹を立てるどころか、敬遠されることには慣れている様子で愉快気に「ハッハッハッ」と笑って見せた。

 ようは「気に入られた」のである。

 ネチネチとした腹の探り合いが嫌いなカルニヴァ王にとって、良くも悪くも裏表を感じさせないゴゼンは、むしろ好感を以て迎えられたのであった。
 それでも、

「えぇ~~~?!」

 露骨に訝しんだ顔をしたが、いざ蓋を開けてみれば、

『ウヒャハァホォーイ♪ 漢だらけのぉ飲み会サイコゥョウーーー♪』

 恋の駆け引きや、斜に構える必要も無い酒宴を思う存分に堪能。
 陽気に飲んで歌って、踊って、飲み食いしまくり。

 挙句はカルニヴァ国の王やゴツイ兵士たちに混ざり、半裸状態に。

 彼は地球で言うところの「脱衣じゃんけん」に、大はしゃぎであった。
 漢だらけのバカ騒ぎに、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 冷めたジト目を向けるリンドウ、ヒレン、勇者組の女子たち。
 早々に見切りをつけた様子で、

《この国から学ぶ事はなさそうだわ》

 飲食に徹していた時、ラディッシュとターナップの男子二人は、
((…………))
 ドロプウォートとパストリスの目を気にして、女子組と大人しくテーブルを囲んでいたが、その心の内では、

((楽しそうだなぁ……))

 思いのまま「はしゃげる彼」を、少し羨んでいた。
 エンドレスなお祭り騒ぎのさ中、空座のままとなっていたカルニヴァ王の隣の席。
 本来であれば后となる「妹のウトリクラリア」が座する席であったが、彼女は「勇者一行の来訪」を知り、私室の奥に引き籠ってしまっていたのであった。
 理由は、

《勇者様一行に合わせる顔が無い》

 幼児退行の症状が徐々に緩和されて来ていた彼女であったが、症状が緩和され、自分を取り戻すにつれ、人前で晒してしまった「幼女な振る舞いの数々」に羞恥を覚え、特に「顕著な幼女」を、余すところ無く晒してしまった勇者組には、

《どんな顔して会えと言うのぉ!?》

 穴があったら入りたいとは、この事である。

 様々な想いと共に、大騒ぎの夜は更けて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

処理中です...