上 下
556 / 706
第八章

8-38

しおりを挟む
 やがて迎えた全作新刊発売日――

 王都フローレスの中心から外れた、少し寂れた感のある喫茶店に、

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 集まり一つのテーブルを囲む、謎の一団。
 接客を生業とするウエートレスでさえ訝しげに見つめるその客たちは、言わずもがなラディッシュ達であったが、何故かカツラにヒゲ、メガネを着用し、

《完璧な変装♪》

 一同は自画自賛。
 騒ぎが起きず、素性を隠せた様子に満悦であったが、実際はと言うと、

(((((何、あの人達ぃコワぁ……)))))

 従業員や客たちは、ドン引き。
 違う意味で悪目立ちし、敬遠されていたのが真実であった。

 そうとは知らぬ、勇者一行。

 ヒーローと呼ばれる資質を持つ者たちは、感覚が一般常識から少しズレた所にあるのかも知れない。
 それはさて置き、付け髭ラディッシュは満を持し、

『それで「どう」だった?!』

 続くオカッパ眼鏡のリンドウも、

「アーシとラディが見に行った本屋は大盛況だったのしぃ♪」

 勇者組と天世組の十人はクジ引きでチーム分けをし、町に複数有る書店で販売状況を確認したのち集まって居たのであった。
 関わった本の発売を初めて経験した「カツラのヒレン」と「ヒッピーゴゼン」は興奮気味に、

『あの「人だかり」を見るまでは胃がキリキリしたわよ!』
『だョねぇ♪ 毎回アレ(ド緊張)なぁんてぇ、女王ちゃんの胃はハガネだョねぇ~♪」

 感嘆と達成感を口にすると、

『コレなのでぇすぅ~♪』

 笑顔のパストリスが感慨深げに頷きながら、
「買ってくれた「読者さん」のぉあの嬉しそうな、楽しそうな表情を見てしまうとぉ、タイヘンだったでぇすけどぉ、次も頑張りたいと思ってしまうのでぇすぅ♪」
 しみじみ語る彼女に、

『『『マゾぉ?!』』』

 冷静にツッコム、天世の三人。
 そう感じる程のハードワークであったのを単に揶揄しただけなのだが、彼女は冗談を真に受け勢い余って立ち上がり、

『ボクはマゾじゃないのでぇすぅ!』

 必死に弁明。
 しかし、

『!』

 熱を以て立ち上がってしまった彼女は、ハッとした。
 仲間たちの苦笑の笑顔に加え、
(マゾぉ?!)
(マゾだってぇ)
(あんな愛らしい容姿なのにねぇ)
 漏れ聞こえて来た客たちのヒソヒソ話に。

 途端に羞恥で顔を真っ赤に染め上げ、

『ひぃひぃうぅ!』

 即座に座って頭を抱え込んだ。
 醜態を晒してしまい、反省しきりに縮こまるロリの頭を、

「ダイジョウブなぉ~♪ シッパイぁダレでもぉするモノなぉ~♪」

 お姉ちゃん振って優しく撫でる幼女。
 立場逆転に仲間たちが困惑笑いを浮かべる中、

『そっ、そう言えばぁ♪』

 ラディッシュが報告会を仕切り直そうと声を上げ、
「全作品同時発売を見てて「気が付いた事」があるんだけどぉ……」
 すると仲間たちも「彼が言わんとする何か」に、

「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」

 思い当たった顔を見せ、絶賛落ち込み中のパストリスと、宥め中のチィックウィードも、
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」
 顔を見合わせ一斉に、

「「「「「「「「「「(作家が)ドウイツジンブツなのがバレてたぁ♪」」」」」」」」」」

 思わず笑い合った。
 知らぬは作家女王フルールと、担当編集リブロンばかり。

 ラディッシュ達は密かに様子を見に行った書店の、開店直後の客たちの様子を思い返した。
 どこの書店も開店前から多くの「待ち客」が並び、店が開くと同時に雪崩込み、やがて聴こえて来た第一声が、

《本当に全部、間に合わせてるわ!》

 感嘆と、歓喜の声。
 そこへすかさず、

『シィーーーッ!』

 沈黙を促す他の客たち。
 補足するように、「公然の秘密」を再認識し合うように、

「それは言わない約束でしょ!」
「ペンネームを、あえて変えてる陛下の気遣いを無駄にする気なのぉ!」
「あっ、そうだったわ! 感動して、ついうっかり!」

 その会話は、各所の書店を分かれて調査した勇者組と天世組の誰もが、一度となく耳に、目にした光景であった。
 自国の民を想い奮闘する女王と、女王の気遣いを無駄にしない為に「あえて気付かぬフリ」をする国民の姿に、

『(女王陛下には)黙っていてあげようね♪』

 感銘を受けたラディッシュが促すと、仲間たちも笑顔で頷いた。
 それとは別に、
(((…………)))
 思う所があった天世の三人。

 天世を束ねる立場にある三人にとって「両者の関係性」は、何とも、羨ましく思える物でもあった。
 しかし、
(無い物ねだり、しぃねぇ……♪)
 リンドウは小さく自嘲すると、

「ねぇねぇ、アーシ思ったんだけどぉ」
「「「「「「「「「?」」」」」」」」」

 集まる視線に、彼女は浮かんだ「素朴な疑問」を口にした。

《女王の本(同人誌)とぉ、普通の本(商業誌)とぉ、何が違うのしぃ?》
(((((((((!?)))))))))

 ギョッとするラディッシュ達。
 改めて問われた「基本的な部分の問い」に、

「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」

 絶句して固まり、

(((((((((チガイって、ナニ?!)))))))))

 思考の迷宮に嵌まり込んだ。
 忙しさに感(かま)け、女王フルールやリブロンに言われるがまま受け入れ、考える事を放棄していたから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...