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第八章

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 旅立ちの決意の日からさほど間を置かず――

 親方たちの手により、少しサイズを拡張した荷馬車に乗るラディッシュ達。
 見送りに立った村長や村人たちの背後には、未だ戸惑いを隠せないリンドウの元信者(コアなファン)たちの姿も。
 彼女の素性が知れてしまった事で両者の間に出来た溝は、

((((((((((…………))))))))))
(…………)

 遂に埋まらず、この日を迎えてしまった。
 荷台のリンドウは寂しさ、悲しさを内に抱えながらも、表面上はいつもの明るさを以て出発の時を待っていると、傍らから、

『仕方ねぇんじぁゃねぇ♪』

 見透かしたような軽薄口調を掛けて来たのは、ゴゼン。
 彼女は心痛が顔に出ていたと気付かされ、内心では驚きつつ、

「んなっ、ナンしぃ?!」

 振り向き様にしらばっくれると、
「俺らはぁ天世人だぁしょぉ? 連中(中世人)とはぁ、住む世界がぁそもそも違うんよぉ♪」
 軽薄な笑いに、

『ッ!』

 神経を逆なでされた気分になるリンドウ。
 まやかしであったとは言え、彼女にとって信者(コアなファン)達と過ごした時間は宝物であり、それを穢された思いに駆られ、
(アーシの子達の事を知った風な口でぇ!)
 何事か言い返そうとした、その鼻息を、

『怒ったところで「変えようのない事実」でしょ? ムカつくけど、ソイツの言う通りよ』

 挫くような声を上げたのは、ヒレン。
「ムカつくってぇヒレンちぅわん、ヒドイぃ」
 苦笑のゴゼンを尻目に本から目も離さず、片手間の様相で苦言を呈したが、二人の言い分に「一理ある」のは確か。

 天世人と中世人の間に横たわるのは「絶対的上下関」であり、主従関係のような側面があるのも否めず、また本人的にもその覚えはあり、
(ムクッ……)
 リンドウは悔し気にうつむき、押し黙るしか出来なかった。

 その落ち込みようを、一瞬だけチラ見するヒレン。
(…………)
 スグさま視線を本に戻し、

「理解できたんなら静かにしてくれない? 騒がしくて本もゆっくり読めやしないわ」

 一聴すると冷たく聞こえる「二人からの苦言」であったが、ラディッシュ達にはわかっていた。
 それが気遣いから生まれた「二人流の励まし」である事を。
 長い年月、同じ時間を共に過ごして来た間柄だからこそ言い合える、歯に衣着せぬ物言いであり、身に覚えのある不器用さに、

(みんな素直じゃないんだからぁ♪)

 御者台のラディッシュは小さく笑うと、

『そろそろ出発するね♪』

 手綱を鞭のようにしならせ馬たちに合図を送り、馬車はゆっくり動き始めた。
 見送りの村長たちに、笑顔で手を振るチィックウィードやパストリス、荷台の仲間たち。
 村長たちも手を振り応えていると、次第に離れて行く馬車の姿から「今生の別れ」を感じたリンドウの元信者の一人が、

「おっ、俺たち……このまま何も言わず見送ってイイのか……?」

 後悔を滲ませた呟きに、他の信者も、

「良くねぇだろぉ!」

 秘めていた想いを曝け出すが如く、

「リンドウちゃんは俺たちに「輝き」を見せくれた!」
「そうだ! リンドウちゃんは俺たちにとって天世人である以前に「唯一無二の神(アイドル)」なんだぁ!」
「辛気臭い顔して旅立ちを送ってイイ筈がないわぁ!」

 元信者たちの結束は燃え広がって行き、

『『『『『『『『『『そうだぁ!!!』』』』』』』』』』

 天高く拳を突き上げた頃、
「…………」
 荷台でうつむくリンドウ。

 得も言われぬ寂しさ、悲しさから、流れる外の景色も見る事が出来ず、
「…………」
 ただ黙って床の木目を見つめていたが、そんな彼女の耳に、

『『『『『『『『『『リンドウちゃーーーん!!!』』』』』』』』』』

 無数の声が。
「?!」
 失意の中からハッと我に引き戻され、吸い寄せられるように後方を見やると、

『!?』

 そこには血でも吐きそうな形相で懸命に叫ぶ「信者に戻った者たち」の姿が。

『ッ!』

 心を揺さぶられた彼女は反射的に荷台の端に駆け、落ちんばかりに身を乗り出し、

『みんなぁああぁっ!!!』

 必死に手を伸ばすと、信者たちは遠ざかっていく彼女に向かって満面の、精一杯の笑顔と声で、

『『『『『『『『『『行ってらっしゃいリンドウちゃーーーん♪ いつまでも待ってるしぃーー♪♪♪』』』』』』』』』』
「!」

 贈られた想いの強さに、その熱さに、リンドウは胸を押さえ一瞬涙を浮かべたが、スグさま振り払ってキラッキラの、かつてない最高の笑顔で、

『必ず帰って来るからぁ待ってるしぃーーーーーー♪』
『『『『『『『『『『待ってるしぃーーーーーー♪♪♪』』』』』』』』』』

 信者たちも笑顔を返し、和解を遂げた双方の涙を乗せて馬車は走り続けた。
 御者台では、

「「「えぇ~話やぁ~~~」」」

 ラディッシュ、ドロプウォート、ニプルウォートがもらい泣き。
 荷台の仲間たちも涙する中、次第に遠くなっていった村は、
「…………」
 街道沿いの茂るに任せた木々により、遂に視界から消えてしまった。

 それでも、
「…………」
 村がある方を、見つめ続けるリンドウ。

 笑顔で見送る信者たちの姿が、未だ見えているかのように。
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