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第八章

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 自由を制限されて文化が停滞し、ともすれば「後退している」と言えなくもない天世の一方、着実に、自由な発想の下に発展を遂げている中世。
 ゴゼンの素性を知っていればこそ分かる、彼が抱いたであろう「一言で言い表せぬ思い」に、称賛の笑顔は「寂しげ」にも見えた。

 それぞれの立場から、三者三様の思いを抱く中、

『!』

 リンドウは遅ればせながら二人の存在に気付き、集まった撮影者たちの輪の中心で輝く汗を拭いながら、

『みんなゴメンしぃ、ここまでしぃ♪ 迎えが来たみたぁいしぃ♪』

 弾ける笑顔で、残念を口に三々五々散って行く背に、

『またねぇーーー♪』

 キラめく笑顔は超弩級のストライク。
 老若男女、性別問わず、

『『『『『『『『『『ッ!?』』』』』』』』』』

 撮影者たちは高鳴る胸の鼓動を手で押さえ、

((((((((((リンドウさまぁ~♪))))))))))

 信者(熱烈マニア)誕生、神(アイドル)爆誕の瞬間であった。
 去り際に渡された「次なる撮影会の確約」を胸に、

「「「「「「「「「「♪♪♪」」」」」」」」」」

 浮かれた足取りで帰路に就く町の人々。
 その中には、親方の姿も。
 抜け駆けや、過剰な接触を試みる不届き者は居ない。

《それはナゼか?》

 理由は一つ。

 彼ら、彼女たちは《信者》になったから。

 真なる信奉者とは《神》と言う名の『推し』に、不敬など働かないのである。
 しかし「当のリンドウ」は序列順位を上げる為の、あくまで信仰離れが著しい「天世の布教活動の一環」のつもり。

「楽しい布教だったしぃ~♪」

 清々しい笑顔を見せながらラディッシュとゴゼンの下にやって来たが、
(ちょっと待つし?!)
 とある閃きが脳裏をよぎり、散々チヤホヤされた時間を反芻しながら、

「これを繰り返せば「アーシの信徒」も確実に増やせるしぃ♪」

 元老院に対抗できる「数のチカラ」に不敵な笑みを浮かべたが、そんな彼女の皮算用をゴゼンは苦笑いで以て、
「信徒って言うより、信者(※オタクの意として)じゃねぇ♪」
 真理を衝いた一言に、

「何が違うのしぃ?」

 言葉の「裏の意味」に気付けないリンドウは、

「どぉ、どぅ言ぅ意味しぃ???」
「さぁねぇ~♪」

 ゴゼンは話をはぐらかし、

「まぁ、どの道ぃ「天世の布教活動」にぁなってナイと思うョん、リンドウちゅぁん♪」
「へ?」
「だって、集まってたみんなぁリンドウちゃんの事を「レイヤーさん」って呼んでたっしょぉ?」

 知った風な口ぶりで「覚えたての言葉」を口にしたが、有頂天であった彼女の耳には届いていなかった様子で、

「れ、れいやぁ?!」

 キョトン顔。
 その顔に困惑笑いを浮かべるラディッシュは、彼女が行っていたのが「天世の布教」ではなく、「コスプレショー」であったと知った時の落胆を想い、

(なんて説明すればショックが少ないんだろぉ?)

 気遣いから言葉選びをしていたが、その間隙を縫ってゴゼンが遠回しな言い回しを選ばず、

『「仮装」と思われてたんョ、リンドウちゃんは♪』

 真相を暴露。
 ラディッシュの懸念が現実に、

『かぁっ、仮装ぉおしぃ!?』

 衝撃を受けるリンドウ。
 そんな彼女に追い打ちを掛ける、からかいを多分に含んだ物言いで、

「ガチなヤツの「天世人の仮装」ってねぇ♪」
「のぉおぉしぃ?!」

 言葉になっていない驚きを口にする彼女であったが、驚きよりも、

(…………)

 楽し気なゴゼンの「口振り」や「振る舞い」が甚だ癪に障り、
(何がそんなにぃオカシイしぃ~っ!)
 苛立ちを覚え、不機嫌を増していく横顔に、

(リンドウさんが、またヘソを曲げちゃう!)

 危機を感じたラディッシュは、話の矛先を逸らそうと精一杯の笑顔で、
「そっ、そう言えばリンドウさぁん! お腹が鳴るくらい空腹だったのに今は大丈夫なんだねぇ♪ 何か食べたとかぁ?!」
 必死の引きつり笑顔で尋ねると、怒り爆発寸前であった彼女は、

『!?』

 気付きを見せたかと思うと、顔色をみるみる「青」に急変させ、
「りっ、リンドウさぁん……?」
 不安になったラディッシュが声を掛けた途端、

《・・・》

 声も漏らさず卒倒し、

『うわぁあぁぁぁリンドウさぁーーーん!』

 驚きのあまりラディッシュが頭を抱えた一方、漫画のような倒れ方にゴゼンは抱腹絶倒、腹を抱えて大笑い。
 そんな彼の姿に、

『何が可笑しいんでぇすかぁ、ゴゼンさぁーん! 笑ってる場合ですかぁあ!』

 泣き怒りで苦言を呈する、ラディッシュ。
 数々の苦悩を抱えていたリンドウにとって「アイドルとしての時間」は、意識を失う極度の空腹も忘れる「夢のような時間」だったようである。
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