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第六章

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 城へ向かったラディッシュとドロプウォート――

 しばしの時間の後に戻った二人は、
「「…………」」
 何故か終始無言であった。

 イリスが隣室で眠りに就く中、二人が戻るのを待ち侘びていた仲間たちは、
「「「「「「…………」」」」」」
 ひたすらに言葉を待ったが待てど暮らせど語られぬ結果に業を煮やし、

『帰って来るなり何で黙ってるのさぁ?!』

 ニプルウォートが先陣を切り、
「行方不明だった皇女様の凱旋だろぅ? 何でそんなに辛気臭いのさ」
 長い沈黙をじれったそうに批判すると、批判されたラディッシュとドロプウォートは沈痛な表情で頷き合って後、意を決したように重々しく、

「皇女様は、その……」
「居たのですわ……」
「そりゃそうだろさ。だからイリスが、」
「そうじゃないんだ、ニプル」
「へ?」

 ラディッシュの遮りに、
「それぁどう言う意味なんスか、ラディの兄貴ぃ?」
 横からターナップが仲間たちと怪訝顔で答えを求めると、彼は何ごとか気遣う様子で、

「だから……その……皇女様は「行方不明」だった訳じゃなく……」
「「「「「?」」」」」

 奥歯に何か挟まった、濁した言葉尻をドロプウォートが補足するように、
「既に亡くなっていたのですわ、毒殺されて」
『『『『『なっ!?』』』』』
 驚く仲間たち以上に、

『どう言う事さぁねぇえ!!!』

 明後日の方から声が。
「「「「「「「!」」」」」」」
 一斉に振り向くラディッシュ達。
 そこに居たのは壁を支えに立ち尽くす、

(((((((イリィ!)))))))

 隣室で眠っていた筈の、彼女であった。
 未だ体調がすぐれないのか、話の内容も手伝ってか、真っ青な顔した彼女はフラつく足取りで、
「今の話はどう言う意味さねぇラディ!」
 重ねて問いながら倒れそうになり、

『イリィ!』

 ラディッシュは咄嗟に駆け寄り抱き支え、
「そ、それは……」
 口籠ると、ドロプウォートが凛然と、動揺を隠せない彼女に躊躇なく、

「そのままの意味ですわ」
「そっ、その、ままぁ?!」

 ためらいによる話の長引きは「無意味に傷を広げるばかり」と判断し、
「皇女様が行方不明になったと言うのは方便で、実際には「毒殺された皇女様」に代わる次期国王選定までの「時間稼ぎ」だったのですわ」
「なん……だってぇ……」
「国民の不安抑制と、隙を伺う他国への牽制を含め、選定が確定した後のしかるべき時宜に「正式公表するつもり」だったそうですわ」
「そんな……」
「葬儀の為に「天法で保護」され安置されている御遺体とも、謁見後に対面して来ましてですわ」
「そ、それじゃぁ……」
(アタシぁいったい?!)

 次第に視線を落とす彼女に、ドロプウォートは「追い打ちを掛ける一言」になると理解しつつ、
(この場面での嘘偽りはむしろ「イリスへの裏切り行為」ですわ)
 覚悟を決めると、

「亡くなった皇女様は「貴方とは別人」でしたわ」
『ッ!?』

 更なる衝撃を受けるイリス。
 次々湧き上がる一言では言い表せない様々な感情はラディッシュの腕の中から、

『ならぁアタシは誰だってのさねぇ!』

 溢れ出すと堰を切り、
『アタシの中にある幼少からのこの記憶は! 経験は! いったい何だってぇのさねぇ!』
 堪らず訴えるように叫び、

『教えておくれよラディ!!!』

 ラディッシュの体を激しく揺さぶった。
 しかし本人ですら分からない事を彼が答えられる筈も無く、
「ご、ごめん……」
「ッ!」
「…………」
(こんな時に僕は……気休めの言葉の一つ掛けてあげられない……)
 不器用で、口下手な自身を呪い、口を噤(つぐ)むしか出来ずに居ると、答えを得られなかった彼女は懸命に答えを求め、ドロプウォートを、そして仲間たちを睨むように次々見回したが、

「「「「「「…………」」」」」」

 彼女たちとてラディッシュと同じ。
 明確な答えの提示など、出来よう筈が無かった。
 自分が「自分ではない」と知った時の衝撃が如何ほどであるか、それは本人にしか分かり得ぬ事であり、
「…………」
 答えを得られぬイリスは張り裂けんばかりに、

『アァアァァァァアッァアッァアーーーーーーッ!』

 悲鳴のような奇声を上げてラディッシュの腕を振りほどき、

『あぁ頭がぁぁぁぁあぁぁ!!!』

 頭を抱え卒倒した。

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