ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-99

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 運河に掛かる橋を渡って町へ入るラディッシュ達――

 並ぶ家々は独自の木組みで造られ、窓辺や玄関には花が飾られ、公園の花壇にも色とりどりの花が咲いていて、町は童話に出て来そうな愛らしい町並みであった。

 移動はもっぱら徒歩か、水路を使った小舟らしく、馬車は見当たらず、入った飲食店のメニューも魚介類が中心で、総じてイリスが言った通り「水の都」であった。

 三方を海に囲まれた国の、エルブ国出身ドロプウォートも初めて目にする、口にする魚介類や調理法ばかり。
 しかし、

『美味しいですわぁ~♪』

 頬を押さえて感嘆を漏らし、隣に座るチィックウィードは、手元に置かれた皿の上に乗る、見た事の無い調理をされた魚に警戒心露わ、

「おさかな……なぉ……」

 珍しく、訝し気な顔。
 そもそも内陸で育てられた彼女は、魚と言う物を食べた事が無かったのである。
 しかしホクホク顔で食べ進める母(仮)、父(仮)、仲間たちの姿に触発され、

「なぉ……」

 恐る恐る、白身魚にフォークを突き立て、
「…………」
 しばし見つめた後に腹を括って意を決し、

「はぁむぅ!」

 一口パクリ。
 途端に、

『んふぅうぅ~♪』

 至福に目を細め、愛娘(仮)の笑顔に父(仮)ラディッシュは目尻を下げ、
「そっかそっかぁ~チィちゃんはお魚を食べるの初めてかぁ~♪」
「ハジメテなぉ~♪」
「これからは魚料理も作ってあげるからね♪」
「なぉ~♪」
 幼子の素直な喜びように、仲間たちもほっこりした笑みを見せると、料理のレパートリーの増加を思い立った彼はさっそく、

「ねぇねぇ、イリィ!」
「んぁ?」
「アクア国って、どこの町もこんなに魚介類が美味しいの?!」

 暗に「食べ歩き」を示唆すると彼女は、
「んあぁ~まぁ多分そぅだろうさねぇ~」
 何とも歯切れの悪い反応。

 そんなイリスに即応したのは、ニプルウォート。
 からかいのネタを見つけた彼女は、
「多分ってぇさ~アンタの国だろぅ、イリィ♪」
 ツッコミに、イリスは「キッシッシッ」と笑いながら、

「アタシぁ病弱で、外に出た事が無かったって言ったさぁねぇ~」
(((((((!)))))))
「アンタ達と出会う前のアタシが持ってた知識は、全部、本から得た物さねぇ」

 苦笑交じりに魚料理を一口食べ、
「くぅ~こんなウマイ料理があるならぁ、もっと早く出れば良かったさねぇ~♪」
 城から抜け出したのが一大決心であったのを窺わせると、彼女の満足そうな笑顔を見つめていたラディッシュが、

「…………」

 改まった様子でスプーンを静かに置き、
「ねぇイリィ……一つ聞いてイイ?」
「んぁ? 何だい?」
「その……」
 奥歯に物が挟まる物言いに、

「今更かしこまる間柄でもないさぁねぇ~」

 彼女の笑みに背中を押される形で、
「じゃぁ……」
 事の成り行きを静観する仲間たちを前に、

「どうしてイリィは城から抜け出したの?」
((((((!))))))

 それは仲間たちも、気にはなっていた事。
 すると彼女は「そんな事か」と言わんばかり「キィシッシッ」と笑い、

「前にも言ったさねぇ♪ アタシぁ自分が知らない世界の料理を食って、」
『それだけじゃありませんですわよねぇ?』

 すかさず割って入ったのはドロプウォート。
 付き合いも長くなれば気心も知れ、おふざけ無しで、

「それが理由で「王族の責」から逃げ出した人が、国や民の為に戻ろうなどとは思わない筈ですわ」

 仲間たちからも同意の眼差しを向けられた彼女は、
「コイツは参ったさねぇ……」
 ヤレヤレ笑いで小さく呟き、

(誤魔化しや言い逃れの類いは、流石に無粋な場面さねぇ……)

 思い改め、
「嘘は言ってないさねぇ。半分はホントの話ぃ」
 自嘲気味の小さな笑みを浮かべて後、

「外の世界を見てみたかった」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「なぁドロプ」
「何ですの?」
「アンタに「前に言った苦言」は、アタシ自身への裏返しでもあるのさねぇ」
「裏返し?」

「婿取り、さねぇ」
「「「「「「「!」」」」」」」

「床に伏していた時にぁ「健康を取り戻したい」と願い、取り戻したら取り戻したで、今度は王族の責として「婿取り」の文字が頭をチラつく」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「けど、それ自体は悪い話じゃないさぁねぇ、国や民の安寧に繋がる話。けどさねぇ……」

 イリスは天井を見上げ、

「床に伏していた間に本で見た「無限に広がる世界」ってヤツを、アタシはこの眼で、耳で、五感で感じたくなっちまったのさねぇえ。世継ぎ問題で「籠の鳥」にされっちまう前にぃ♪」

 まだ見ぬ世界に想いを馳せ、まるでその世界が目の前に広がっている様な笑顔を見せたが、
「それもコレまで、さねぇ♪」
 視線を仲間たちに戻すなり「キッシッシッ」と笑って、

「国に不穏が蔓延(はびこ)っている以上、そぅ好き勝手もしてられないさねぇ♪」
「…………」

 ラディッシュは笑顔の下に隠された寂しさを察し、
「なんか、その……ごめんね、イリィ……」
「んぁ?」
「興味本位で訊くような話じゃなかった、よねぇ……」
 視線を落とすと、彼女は辟易笑いで「よしとくれぇさねぇ」と再び一笑、

「これが「アタシの務め」なのさねぇ♪」

 しかしその笑顔は、やはり何処か寂し気に見え、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 仲間たちも食事を忘れて視線を落とすと、周囲の客席から、

「おいおい聞いたかぁ訊いたかぁあぁ?」
「何の話だ?」
「病床に伏していた姫様の話だよ。行方不明になられたそうだぞぉ」
「ホントかよぉ!」

 客たちの会話が漏れ聞こえて来て、
((((((((!?))))))))
 思わず小さく苦笑し合う、話題のイリスと仲間たち。

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