上 下
445 / 706
第六章

6-97

しおりを挟む
 仲間たちが何かに息を呑む一方で、何も感じられない置いてけ堀のイリス。
 怪訝な顔して、
「何だい何だいアンタ達ぁ何かあるのさねぇ? ここは王族しか入れない通路さぁねぇ? 何もある筈が、」
 無いと断言しようとした言葉は口から出るより先、進行方向数十メートル先、弱い照明下の仄暗い闇に浮かぶ、幾つもの「赤黒い光」の存在に、

「いッ!?」

 打ち消された。
 それは言わずもがな、

『『『『『『『『オセンジュウぅうぅ!!!』』』』』』』』

 驚愕の声を上げると、薄暗闇の中から赤黒い目の主である「多種多様な汚染獣」の方々が犬歯や鋭い爪を剥き出し一斉に駆け迫り、

『王族しか入れないんじゃなかったのぉ!!!』

 泣き喚くラディッシュに、

『コッチが訊きたいさねぇ!!!』

 泣き喚き返すイリス。
 モメ始める二人に血相を変えたドロプウォートはすかさず、

『言い合いしている場合ですわのぉお!!!』

 苦笑の苦言を呈して戦陣に駆け立ち、
「迎え討ちますわぁ!」
 刀の柄に手を掛けた。
 しかし、
「!?」
 ここは空間的な融通が利かない地下通路。

『刀が振るえませんのですわぁあぁぁ!』

 頭を抱えたが、急激に迫りつつある汚染獣の群れに焦りを覚えた彼女は眼の色を変え、

『なればァア!!!』

 気合いを込めて右手を振りかざし、
『全てを燃やし尽くすまでなのですわァ!!!』
 盛大な天技を発動させようと構えた。
 先に呈された苦言も忘れた、暴走寸前の彼女に、

『ナニしようとしてるさねぇーーーッ!!!』

 激昂するイリス。
 慌てて首根っこを掴んで強引に引っ張り、

『このぉお大馬鹿ぁ! 揃ってドザエモンになりたいさねぇ!』

 泣き笑いで説教すると、自身の迂闊さに気付いたドロプウォートは迂闊を誤魔化す為に、
『でぇ、でしたらぁどうしろとぉでもぉ!!!』
 正に逆ギレ。
 しかし今は「罵り合い」をしている場合ではない。
 イリスは迫りつつある汚染獣の群れを見据え、

『そんなモンは決まってるさねぇえ!!!』

 毅然と咆哮すると、
「逃げるが勝ちさねぇ」
 真っ先に枝道へと逃げ込んだ。

『『『『『『『ちょっぉおぉお?!!!』』』』』』』

 慄くラディッシュ達。
 迷宮のように入り組んだ地下道で案内人とはぐれては、汚染獣から逃れられても、はぐれた時点でイコールの「死」。
 勇者組は迫る数多(あまた)の敵を前に、討伐の職責も忘れ、

『『『『『『『おいてくなぁーーーーーーッ!!!』』』』』』』

 逃げた彼女の背を一斉に追った。
 薄暗い地下迷宮の中を全力疾走するイリスと、その背を見逃さないよう懸命に追う勇者一行。
 その後方には、卑しい唾液を垂れ流し迫る汚染獣の群れ。

≪世界を護る勇者たちにとって屈辱的光景≫

 ではあったが、そのような体裁を気にしている場合では無い。
 イリスを先頭に地下迷宮を駆け回り、一つ目の角を曲がると新た群れに遭遇、二つの角を曲がると更に新たな群れと遭遇し、遭遇と逃走を繰り返しながら、

『群れがぁどんどんどんどん大きくなって来てるんですけどぉおぉーーーっ!!!』

 泣き喚く勇者と、

『ウッサイさねぇ! ヤツ等の糞になりたくなかったら死に物狂いで走るさねぇ!!!』

 品の無い物言いで叫ぶ、一国の姫君。
 いつか何処かで見た光景ではあったが、今は感傷に浸る余裕も無ければ、懐古する余裕も無い。

 正に命懸け。

 しかしそんな状況下にありながら、
「オニゴッコなぉ♪ オニゴッコなぉ♪」
 同人誌作業で目にした一場面の再現に、喜び走るはチィックウィード。
 娘(仮)の「場違いな喜びよう」に、
「喜んでる場合ですわのぉーーーっ!」
 流石の母(仮)も苦笑の苦言を呈すと、

『外に出るさねぇーーーっ!』

 イリスが必死の声を上げ、
「「「「「「「!」」」」」」」
 一行は遂に外へと飛び出し、飛び出すと同時、

『コイツ等を外に出す訳にはいかない出口を潰さねぇーーー!』

 彼女の叫びに仲間たちは即座に、

≪天世より授かりし恩恵を以て、我が眼前の敵を打ち滅ぼさん!≫

 合唱するように前小節を叫んで、その身を白銀の輝きに包むと、

『あっ、ちょっとぉ皆ぁ待ってぇ!』

 制止を口にしたラディッシュに気付く余裕も無く、各々天技を以て出入り口を破壊した。
 中でも突出した一撃を見舞ったのは、言わずもがな。

【ドロプウォート】

 元よりスペックが高い彼女は、本人的に通常レベルのつもりであっても破壊力は抜群。
 そこへ来て焦りも加わり、仲間たちは出入り口を崩落させて汚染獣たちが出て来られない程度で済ますつもりであったが、彼女は毎度の如くチカラが入り過ぎ、放った一撃は地下通路を維持する「補強の天技」をも破壊。

 支えであった天法を失った通路は「衝撃と外圧」に耐え兼ね、見るも無残。
『『『『『『『『・・・・・・』』』』』』』』
 唖然と見つめる勇者たちの前で弱いところから連鎖的に大崩落を起こし、謎の汚染獣の群れ共々、多量の土砂と水に瞬く間に没した。

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 誰も、何も言わないしばしの沈黙中、

『またぁまたぁやり過ぎてしまいましてですわぁあぁぁっぁあぁーーー』

 頭を抱えるドロプウォート。
 とは言え秘密の地下通路の崩落現場で、いつまでも落ち込んでいる場合では無く、

「反省するなら後にするさねぇ! 早くここからずらかるんだよぉ!」

 イリスは凹む彼女の腕を引っ張り上げながら、
「こんな所ぉ誰かに見られたらぁ密入国の意味が無くなっちまうさねぇ!」
「「「「「「「!」」」」」」」
 ラディッシュ達はイリスを先頭に脱兎の如く、その場から逃走した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。 しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。 彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...