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第六章

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 蟻の巣のように張り巡らされた通路を迷う様子も無く進むイリス――

 そんな彼女の背に続くラディッシュ達は感動し、
「凄いねぇイリィは」
「何がさねぇ?」
「だって、僕たち「今から一人で戻れ」って言われても、来た道さえ分からないよぉ?」
 仲間たちも同意の頷きを見せたが、

「あぁ、そう言うことさねぇ」

 イリスは小さく笑い、
「アタシが「病弱だった」のは話したさぁねぇ?」
「う、うん……」
(今の傍若無…………元気な姿を見てると、とても信じられない話だけどぉ……)
 尻すぼみな返事から、彼の心中を察した仲間たちも、

((((((…………))))))

 同意の、物言いたげな眼差しを前行く背に向けた。
 すると、
(?!)
 不穏当な気配を背で感じた彼女が立ち止まって振り返り、訝し気に、

「何か言いたい事があるさぁねぇ?」

 咄嗟に、

『『『『『『『イエイエべつにぃ♪♪♪』』』』』』』

 あからさまな誤魔化し笑いで、お茶を濁す勇者組。
「…………」
 少々腑に落ちないイリスではあったが、自ら話の腰を折って問いただすのは「負け」な気がして、
(まぁイイさねぇ)
 前を向いて歩き始め、

(((((((たすかったぁ~)))))))

 内心でホッと胸を撫で下ろす。
 へそを曲げた彼女の扱いが如何に面倒臭く、機嫌を治すのにどれほど骨が折れる仕事であるか、嫌と言うほど知っていたから。
仲間たちのそんな気苦労をよそに、

「部屋からも満足に出られなかったアタシぁ本ばかり読み耽ってさねぇ……」
「「「「「「「…………」」」」」」」
「読み過ぎて、ついには読む本が無くなっちまって地図とかにも手を出して。そん時に、この地下道に関して書かれた「王族以外閲覧禁止」の御留本(おとめほん)も読んで……いつか……いつか外に出られた時のことを夢見てぇさねぇ~」

 夢を叶えて語る笑顔の彼女の横顔は、何処か誇らし気で、
≪よっぽど嬉しかったんだなぁ≫
 仲間たちが温かく見つめていると、

(!)

 視線に気付いた彼女は、心情が顔から駄々洩れであったのに気付き、
(かっ、軽口が過ぎたさねぇ!)
 羞恥で赤面しながらプイっと顔を背け、

『もっ、物思いに耽るオンナの顔をマジマジ見るんじゃないさねぇ!』

 照れを不機嫌で装い苦言を呈し、見透かしたラディッシュ達が苦笑し合っていると、

『?!』

 何かに気付いたニプルウォートおもむろに、
「な、なぁイリィ……」
「んぁ?」
 天井を見上げながら、
「この地下道は、地上の気配を感知できたりするのか?」
「何だぁい藪から棒に?」
 イリスは未だ羞恥を残す赤面顔で振り返り、

「こっちから地上を感知できるって事ぁ「逆もしかり」だからさねぇ。天技の≪隔絶≫に似た術を施してあるさぁねぇ」
「つまりは「感知できない」って」
「んまぁ有り体に言えば、そう言う事さねぇ?」
「って事は、この感覚は?」
「は?」

 不思議顔のイリスを尻目に、進行方向に視線を移した途端、

『『『『『『!!!?』』』』』』

 ラディッシュ達も何かを感じ取り、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 緊張を纏った表情で正面を見据えた。

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