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第六章

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 草木一本生えていない荒野を馬車で進むラディッシュ達――

 手下の罪をも背負って罰を受けた頭目の亡骸は、彼が最期に見せた心粋(こころいき)に敬意を表する形で手厚く埋葬し、アクア国を目指して北上していた。

 手綱を引きながら、
「本当に大丈夫なんだよねぇ、イリィ?」
 荷台のイリスに、何事かを少々不安げに問うラディッシュ。
 すると、いつも通りカードゲームに興じながらも、未だ落ち込みから完全回復していない様子がそこはかとなく窺える彼女が、少々無理の見える笑顔で、

「あぁ、心配ないさねぇ。その地下通路は王族の中でも一部のモンしかその存在を知らない、幾つも無数に張り巡らされた地下通路の一つさねぇ。ソイツを使えば関所を通らず、間違いなく入国出来るさねぇ」
「…………」

 その説明に、違和感を抱いたターナップ。
 庶民感覚から、
「オメェは「アクア国の姫さん」なんだろぅ? 何で、そんな逃げ隠れするみてぇな帰国をしねぇといけねぇんだ?」
 パストリスも同じ疑問を持っていたのか、
「でぇすでぇすね?」
 首傾げに、

「分かっちゃいないさぁねぇ~」

 イリスは苦笑交じり、
「国外逃亡した皇女が大手を振って関所を通って帰ってご覧なぁ、赤っ恥をかくだけで済まない部署や人間が、一つや二つで済まないさぁねぇ」
「「!」」
「それに、」
「「それに?」」
「…………」
 彼女が口籠ると、心中を察したカドウィードが、

「ほっほっほっ♪」
「「?」」

 妖艶に微笑みながら扇子で口元を隠し、
「誰が敵でぇ、誰が味方かぁ分からぬ現状でぇ、関所を通って入国するは「あまりにリスキー」とぉ思いしゃぁせぇんぇ?」
 陰謀に巻き込まれた経験を持つ彼女の答えに、

「「確かに!」」

 そしてハッともする二人。
 自分たちの問いが、イリスに「自国民の全てが容疑者だから」と、遠回しに言わせようとしていたのにも気付き、

「わ、悪ぃイリィ。察するべきだった……」
「ゴメンさなぁいなのでぇすぅ……」

 凹む二人にイリスは小さく笑って見せながら、
「構わないさぁねぇ。それが、今のアタシが置かれた現実さねぇ」
 笑顔は何処か悲し気で、

「「「「「「「…………」」」」」」」

 やがて馬車は、パラジット国最北の関所に辿り着いた。
 そこに居たのは、国籍を示す制服がバラバラな警備の兵士たち。

 制服から判断するにエルブ国を始めとして、フルール国、カルニヴァ国、アルブル国、そしてパラジット国。

 人手が足りていないのか、それともパラジット国が勇者同盟四国の管理下にある事を「怨恨根深い周辺諸国」へ知らしめ、復讐と言う名の侵略の抑止力とする為か。
 そんな怨念渦巻く地に在りながら、警備の兵たちは近づく馬車に対して警戒心無く、

『遠路はるばるお疲れ様です、勇者様方ぁ♪』

 歓待を以て迎え、既に通達が、
≪パラジット国に勇者アリ≫
 広まっているのを窺わせると、馬車から続々下りる一行を前に、

「やはり「アクア国の調査」に向かわれるのですか?」
((((((((やはり?))))))))

 不思議に思うラディッシュ達。
 勇者一行にとっては「イリスの帰国の手助け」であったが、それと気付かぬ兵士たちは、

「不穏な動きありと、こちらも報告は受けております」
((((((((!))))))))

『しかしながら警備はお任せ下さい!』
『不遜な輩の侵入など一兵たりとて逃しません!』
『皆様も、どうかお気を付けて!』

 調査に向かうと決めつけた物言いに、流石に居た堪れなくなったラディッシュが、

「いや、あの、その、」
『それで馬車はどうされますか?!』
 誤解を解く間もなく問われてしまい、

「…………」
(アクア国に入国するのは一緒なんだし説明の手間が省けてまぁイイかぁ)

 思い改め、
「隠密性の高い入国になりそうなので、皆さんの所で預かっていただけると助かのですが……」
 あくまで低姿勢でお伺いに、

『『『『『『お任せ下さぁい♪』』』』』』

 彼らは即答、力強い快諾。
 過剰なほどに、

「必ずやご期待に添いまぁす!」
「身命を賭して御預かり致しまぁす!」

 我先にと決意を訴え、むしろラディッシュ達の方がその圧に耐え兼ね、
「い、いえいえ別にそこまでぇ、皆んさんには皆さんの「果たすべき職責」がある訳ですからぁ」
 気遣いを見せつつ、

≪もしかして暇なのか?≫

 とも思ったが、そうではなかった。
 彼らの本音は、辺境の地での「華の無い任務」に嫌気が差し、

≪これを縁に中央勤務に帰りたい!≫

 透けて見えたのは、兵士としての矜持の欠落であり、その様な物を見せられて黙って居られる筈のない人物が一人。

『ちょっと宜しいですわのぉ!』

 声を上げたのは、ドロプウォート。
 ズイッと一歩、歩み出ると怒り心頭の御様子で、

『そもそも兵たる者は!』

 お説教は身分、国籍関係なく、分け隔てなく延々と続いた。
 苦笑のラディッシュが止めに入る、その時まで。

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