ステ振り間違えた落第番号勇者と一騎当千箱入りブリュンヒルデの物語

青木 森

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第六章

6-93

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 ドロプウォートはイリスの声に切っ先を止め、
「…………」
 頭目に向けるのと同じ「怒れる母の眼」を向け、
「何ですのイリィ。貴方、見逃せとでも……」
 一触即発。
 余談を許さない、緊迫を纏った空気に仲間たちがハラハラする中、怯む様子もないイリスがいつになく真剣な眼差しで、
「そんなつもりは毛頭ナイさね」
 ドロプウォートの懸念を切って捨て、彼女に負けず劣らずの怒りを以てして、

『臣民の不始末は皇女たる「アタシのケジメ」さねぇ!』

 歩み寄ると右手を差し出し、刀を貸すよう求めた。
『アクアの皇女だとぉおぉ!!!?』
 今更のように驚きを口にする頭目。イリスが故国の姫殿下と知り。
 しかし、

「…………」

 何ごとか得心が行った様子で、ニヤリと笑い、
「なるほどなぁ。破格の報酬は、この意味かよぉ」
「なッ!」
 怒りを増すイリス。
 彼らの行った愚行、蛮行には「何の矜持も無かった」と改めて知り、

『金に釣られてのォ悪行三昧ッ! テメェらは恥を知るさねぇえ!』

 今にも斬り掛からんとする気迫で切諌すると、
「!」
 黙したまま見つめる仲間たちの視線に気付き、
「その……済まなかったさねぇ、驚かしちまっただろぅ? 今まで素性を明かさなかったのぁそう言うワケだったのさねぇ。ガラじゃないとはアタシがぁ一番思ってるさぁねぇ」
 少々照れくさそうな、自嘲気味の笑みに、

『今更ですわのぉ?』

 ドロプウォートがヤレヤレ笑いを浮かべ、
「へ?」
 キョトン顔に、
「とうに気付いていまして、ですわぁ♪」
「のぉなぁ?!」
 イリスは驚き、ラディッシュ達を見回すと、
「「「「「「♪」」」」」」
 笑顔で大きく頷き、

「だって、同郷の人の悪事にあれほど落ち込む人って♪」
「普通は居ないさぁ♪」
「気付かれてないと思ってた、オメェの方がどうかと思うぜぇ♪」
「げにぃ、ありんすなぁ~♪」
「でぇすでぇすねぇ~♪」
「なぉなぉぅ~♪」

 仲間たちからの「想定外なダメ出し」に、
「アタシの今日までの気苦労はぁあぁ~~~!」
 イリスは頭を抱え、

「気付かれないようにと気を張るアタシが「一番馬鹿みたい」じゃないさねぇ!」

 気恥ずかしさを憤慨で誤魔化したが、むしろラディッシュ達は、
(((((((アレで?!)))))))
 ツッコミたい気持ちは各々あった。
 しかし今は、その様な時ではなく、イリスは小さく息を吐くに合わせて羞恥を一先ず収め、
「…………」
 気持ちを改め立ち上がり、

「ドロプ……」

 その声色から、表情から、覚悟を悟ったドロプウォートもまた、
「ハイ、ですわ……」
 真摯な面持ちで刀を差し出し、受け取るイリス。
「…………」
 切っ先を頭目に、静かに向け、

「アクア国の皇女の責を以て、今一度問うさねぇ」
「…………」

 余談は許さぬ眼差しで、
「アタシの命を狙った「真の雇い主」は、本当にお父様と、お母様なのさねぇ」
「…………」
 彼は何も答えず、何も答えない代わりに「フッ」と小さく笑い、その含んだ笑みに、
(そう来たさねぇ……冒険者としての仁義に従い、仲間たちの罪をも背負うと……)
 心粋(こころいき)には若干の感銘を受けつつ、彼が見せた覚悟に応えるように、

「そうさね」

 静かに頷き、刀を持つ手にチカラを込めた。
 すると、
『ウチが記憶を読んじまおぅさ?』
(!)
 腕まくりしながら歩み寄って来たのはニプルウォートであり、

「!?」

 慄きを隠せない頭目。
 そんな事をされては沈黙は無意味となり果て、全てが白日の下に晒され、自身が受け入れた極刑も意味を成さなくなってしまうから。
すると、

『その必要ないさぁねぇ』

 毅然と制する、イリス。
「…………」
 拒む彼女を見つめるニプルウォートは、言葉を選びながら、
「本当に、それで良いのか? このままコイツを斬っちまったら黒幕が誰か、誰が敵で、誰が味方か、分からないままになっちまうさ?」
 しかし彼女は「構わない」とだけ答え、
(ありがてぇ……)
 心の中で感謝する頭目。
 自身の「最期の心粋」に応えてくれた、彼女の気遣いに。

 問うたニプルウォートも、それが分かるが故に再考を促さず、
「やれやれ甘いねぇ、まぁ好きにしなぁさ」
 苦笑と共に背を向けると、イリスは「最後の恩情」とばかり、
「名は何と言うさねぇ」
 その問いにさえ、

「答えられると思うか?」

 薄っすら嘲笑う横顔に、
(愚問だったさぁねぇ……王族に、勇者一行に、天世に、弓を引いた者の身元が知れたら、親類縁者に何が起こるか……)
 沈黙を貫く、揺るぎない決意の彼に凛とした表情を崩さず、むしろ崩さぬよう過剰なまでの寡黙を以て、

≪アクア国の王族の責としてオマエを断罪するさねぇ≫

 刀を振り被ると、刑を目前にした頭目が唐突に、静かな物言いで、
「一つだけ、イイか?」
「……なんだ?」
 上段に構えたまま、見下ろし問うイリス。
 冷淡なまでの、鬼神の如き表情の彼女に見下ろされてもなお、死を受け入れた様子の彼は静かな物言いで、

「これ以上、辛い思いをしたくなかったら国に帰るのは止めときな」
「…………」
「これはアクア国の民としての、最初で最期の忠言だ」

 しかし彼女は変えぬ表情のまま、

「それは「聞けぬ話」さぁねぇ」
「…………」
「アタシは、その「アクア国の皇女」さねぇ。アタシにも「果たすべき役割」があるのさぁねぇ」
「そうか……そりゃそうだな……」

 自身がこの世で最期に語った言葉が、お節介、蛇足、余計なお世話であったのを自嘲気味に小さく笑うと、

『覚悟ォ!!!』
 ヒュン!

 イリスは切っ先から風切り音を鳴らし、一刀の下に彼を斬り伏せた。
 声なく地に横たえる頭目。
 自身の血に沈む同胞を、冷淡を維持出来なくなったイリスが悲し気に見下ろしていると、

『貴方の覚悟、御見事でしたわ』

 ドロプウォートが静かに歩み寄り、血が滴る刀を受け取りながら、
「王族としての責、しかと見届けさせて頂きましてですわ」
 すると、

『?!』

 イリスが彼女の肩に顔を埋め、
「少し……貸してくれさね……」
 仲間たちから表情を隠しながら、

「自国の民を……こんな形で斬る羽目になるなんてさねぇ……」

 その声は震え、泣いている様であった。
「「「「「「「…………」」」」」」」
 何も言わず、見守るしかない仲間たち。
 彼女の心が落ち着きを取り戻す、その時まで。

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