上 下
432 / 706
第六章

6-84

しおりを挟む
 優位に立っていた筈のリクエスターが飛び退くと同時、
{!}
 ローブの胸元を、白と黒の光跡がかすめ飛んで行き、

{なっ、くっ!}

 堪らず更に大きく距離を取り、着地するなりチィックウィードを睨む様な動きを見せ、
{今のは天法と地法の同時行使では?! マルチタスクですとぉ!}
 驚きは、彼女が全身から放つ気配の変質だけでなく、

{な?!}

 異変は、その容姿にも。
 愛らしき少女からは天使の笑顔が消え失せ、替わりに、

{{…………}}

 冷酷が浮かぶ口元の上、感情が感じられぬ白銀に輝く右目と、漆黒に輝く左目が、リクエスターをジッと見据えていた。
 そんな彼女を一言で形容するなら、

{別人?!}

 その一方で、
{そうですかそうですか、貴方も本気を隠していたと言う訳ですか}
 嬉し気に頷きもし、
{それにしても……}
 身構える幼女の全身を眺め、

{貴方は何です?}

 好奇は尽きないようであった。
 しかし、
{{…………}}
 何も答えないチィックウィード。
{…………}
 一瞬の静寂の後、リクエスターは急に構えを解き、短剣を袖の奥へと戻しながら、

{今日は、ここまでのようですね}
{{…………}}

 残念そうにボヤくと、チィックウィードの後方森の奥から、

『チィちゃーーーん!』

 聞き覚えのある、呼び声が。
 不安を纏った声ではあったが、彼女はリクエスターを見据えて微動だにせず、その半面で攻撃もして来ない様子に、
{!}
 彼は何かを察した。
 そして愉快そうに、

{そうですかそうですか。その禍々しき姿を、御仲間には「知られたくない」と言う訳なのですね}

 森の闇に姿を次第に溶け込ませながら、
{ですが次に相まみえた時には、御手合せ願いたいものですね}
 完全に姿を消して行き、そこへ、

『チィちゃん!』

 駆け付けるラディッシュと仲間たち。
 最も血相を変えた母(仮)ドロプウォートが立ち尽くす小さな背に、飛びつくように、

「怪我はありませんですわのぉ! 嫌な事をされませんでしたのぉ! 今の変態は何者ですわの!」

 抱き付き矢継ぎ早に問うと、小さな背はクルっと振り返り、
「オカシをくれたかわりにぃアソンデあげてたなぉ♪」
 そこには、いつもと変わらぬ天使の笑顔が。

 安堵の息を吐く母(仮)。

 我が子(仮)の目線の高さまで屈むと、両眼を真っ直ぐ見つめ、

「お菓子をくれるからって、知らない人に付いて行ってはダメなのですわ」

 親らしい苦言を呈し、
「ゴメンナサイなぉ♪」
(((((♪)))))
 愛らしく謝る子の姿に仲間たちは目じりを下げたが、

「チィちゃんも「無駄な殺生」はしたくはありませんでしょ?」

 母親が子にする「一般的な注意」から、かけ離れた笑顔の苦言に、

(((((え?!)))))
「うん♪ したくないなぉきをつけるなぉ♪」
「うんうん♪ チィちゃんはエライですわねぇ♪」

 笑い合う親子(仮)に苦笑交じり、

(((((・・・・・・)))))

 ツッコみたい気持ちを懸命に堪えるラディッシュ達。
 とは言え、幼い彼女に降り掛かったのは「誘拐」と言う名の、決して許されない犯罪行為である。

 無事であったとは言え、本来なら上を下への大騒ぎとなっている筈が、被害者(?)が新生七草チィックウィードと言う事もあり、むしろ犯罪者が憐れに思われる和やかな空気の中、
「…………」
 ただ一人、視線を落とす人物が。

 それは、イリス。

 会話に混ざらず、重々しく口を開き始めた彼女は、
「チィ坊……」
「にゅ?」
 笑顔のチィックウィードと同じ目線の高さまで屈み、

「アタシのせいで面倒ごとに巻き込んじまって済まなかったさねぇ……まさかアクア国の正規の冒険者ともあろうモンが、目的の為に「幼子をかどわかす」とは思ってなかったのさねぇ……」

 悲し気に表情を曇らせると、
「チィはツヨイからぁヘイキなぉ♪ それにパパがいってた、なぉ♪」
「ラディが? 何を?」
 問う彼女にチィックウィ―ドはニコリと笑い掛け、

「アクトウは「どこのクニにもいる」なぉ♪」
「!」

 幼子の一言に、救われた思いの「とある秘密を抱えたイリス」。
「そうだ……そうだったさねぇ……」
 自身の気弱を小さく嘲笑い、ささやかながら明るさを取り戻した表情で、

「その通りさぁねぇ。悪党に足を引かれて、自分の心まで「闇堕ち」させてたらぁ世話ナイさねぇ」
「うん♪ そのとおぉり、なぉ?」

 意味が分かっていない様子の「幼子の励まし」に、いつもと変わらぬ笑顔で「キッシッシッ」と笑い、
「大人のアタシが励まされてちゃぁ、それこそ世話ナイ話さぁねぇ♪」
 仲間たちも笑みを見せ合った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

無才印の大聖女 〜聖印が歪だからと無能判定されたけど、実は規格外の実力者〜

Josse.T
ファンタジー
子爵令嬢のイナビル=ラピアクタは聖印判定の儀式にて、回復魔法が全く使えるようにならない「無才印」持ちと判定されてしまう。 しかし実はその「無才印」こそ、伝説の大聖女の生まれ変わりの証であった。 彼女は普通(前世基準)に聖女の力を振るっている内に周囲の度肝を抜いていき、果てはこの世界の常識までも覆し——

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...