429 / 706
第六章
6-81
しおりを挟む
一夜明け――
アルブル国へ向かう出立前に、消耗品の買い出しに出掛ける事にしたラディッシュ達。
周りをウロつくアクア国の冒険者たちの動向は気にしつつ、道中で必要となる品々の種類によって組み分けし、効率重視で村内を巡る事に。
食品部門の班長にはラディッシュが、医薬品はパストリス、重量物のある日用品はターナップがなり、残りのメンバーは誰が誰の班に入るか、公平を期す為にクジ引きで決めたが、狙われているイリスだけは半強制的に日用品の班に。
理由は、ターナップの存在感。
見るからにガタイの良い彼の傍に居れば「迂闊な手出しをして来ないだろう」との、一致した意見の結果であった。
しかし当のイリスは、あからさまな不服顔。
「アタシぁ料理の師匠(ラディッシュ)から「食材の目利き」を学びたかったんだがねぇ~」
表の理由の他に、ハッキリとした理由が自身にも分からない、
(ラディとは、別行動なのかい……)
そこはかとない寂しさを感じたが、そうは言っても狙われているのは自身であり、その為に、仲間たちに不自由を強いている自覚もあるが故に、
「まぁ、仕方がないさぁねぇ」
渋々受け入れ、各班それぞれ買い出しに向かった。
そんな中、
「…………」
どことなく緊張した面持ちで歩くラディッシュ。
少々ぎこちない笑顔で、
「なっ、何かぁ、二人だけで歩くのって、久しぶりな気がするね」
前を行く、見覚えのある背中に声を掛けると、
「ふ、ふぇ?!」
素っ頓狂な声で振り返ったのは、ドロプウォート。
クジ引きでラディッシュのパートナーとなれた彼女であったが、久々の二人きりに、互いに距離感を掴みあぐねていた。
声を掛けられた彼女もまた、ギクシャクとした足取りで、
「そっ、そですわねぇ♪」
ぎこちない笑顔を返しつつ、
「!」
離れて歩いているのが気に掛かり、また勿体無くも思え、
(なっ、並んで歩かないのはぁヘン、ですわよねぇ?! け、決して「邪(よこしま)な考えあって」では、ありませんのですわ!)
誰に対する問いなのか、言い訳なのか、声を掛けられた事を足掛かりに、
「そっ、それで、初めに何を買いましてですわのぉ?!」
小走りで彼の隣に並び、歩幅を合わせて歩き始め、
「そっ、そだねぇ、生鮮食品は後回しにして、加工食品から買おうと思うんだぁ♪」
「そっ、それが良いですわのねぇ♪」
「…………」
「…………」
会話は続かず、
「「…………」」
黙する二人。
互いにほんのり桜色に染まった顔して、少々うつむき加減で歩く。
傍から見れば、初々しい付き合いたてのカップルのよう。
「「…………」」
しかし黙して並び歩いていると、沸々と思い起こされるのは、互いに晒し合った「赤面物の黒歴史」の数々。
共に過ごす時間が、家族並みに長くなったが故か、
((なんでぇあんな事をぉおぉ~~~っ!))
二人して、赤信号のように真っ赤な顔をして歩いていると、狙いすましたように露店の店主から、
『そこのぉ初々しい「恋仲の御二人」さぁん♪ 記念に何か買ってってくんなぁ♪』
愛想の良い声が飛んで来たが、今の二人にとっては追い討ちにしかならず、
「「ッ!?」」
二人は羞恥に染まった赤面顔で反射的に、
『『こぉっ恋仲じゃない(よぉ・ですわぁ)!!!』』
その雷鳴の如き剣幕に、
「ひぃ!」
店主は短い悲鳴を上げて後退り、
(おっ、俺はここで死ぬのかぁあ?!)
自らの死を悟った。
その怯え顔に、
((!))
ハッと正気に戻る、二人。
咄嗟に出てしまった激昂であったとは言え、無関係の人間を恐怖に落とし入れてしまった照れ隠しに、
『ごっ、ゴメンナサぁイ店主さぁん!』
『脅かすつもりは無かったのですわぁ! お詫びに何か買って行きますわぁ!』
猛省しながら目に付いた品を素早く取って一方的に支払いを済ませると、
『『失礼しましたぁーーー!』』
逃げるようにその場を後にした。
そして逃げながら、
(((僕・私)は、何を緊張して(たんだろ・ましたの)ぉ?))
先ほどまでの自身の張り詰めようが可笑しく思えて来て、
「ぷっ、アハハハハ♪」
ラディッシュが噴き出す様に笑い出すと、釣られてドロプウォートも笑い出し、
「寄り道なんてしてる場合じゃないよねぇ、ドロプ♪」
「ですわねぇ、ラディ♪ ニプル達に嫌味を言われてしまいましてですわぁ♪」
期せずして普段の調子を取り戻した二人は、目的の店を目指した。
困惑顔で見つめる露店店主に、背中を見送られながら。
その様子を物陰から、
「「「「「「…………」」」」」」
ジッと窺うのは、仲間たち。
二人の色恋を危惧しての覗き見であったが、自然な笑顔を見せ合う二人の姿に、
「「「「「「…………」」」」」」
出歯亀している自分たちの姿が次第に恥ずかしく思え、
「あ、アタシらもぉ買い物をしようさねぇ?」
「そ、そぅさなぁ?」
「げ、げにぃありぃんすなぁ?」
「で、でぇすでぇすねぇ?」
「そ、そうっスねぇ?」
担当する買い物に三々五々散って行った。
≪オトナのセカイはムズカシイなぉ≫
首を傾げる、幼きチィックウィードを伴って。
アルブル国へ向かう出立前に、消耗品の買い出しに出掛ける事にしたラディッシュ達。
周りをウロつくアクア国の冒険者たちの動向は気にしつつ、道中で必要となる品々の種類によって組み分けし、効率重視で村内を巡る事に。
食品部門の班長にはラディッシュが、医薬品はパストリス、重量物のある日用品はターナップがなり、残りのメンバーは誰が誰の班に入るか、公平を期す為にクジ引きで決めたが、狙われているイリスだけは半強制的に日用品の班に。
理由は、ターナップの存在感。
見るからにガタイの良い彼の傍に居れば「迂闊な手出しをして来ないだろう」との、一致した意見の結果であった。
しかし当のイリスは、あからさまな不服顔。
「アタシぁ料理の師匠(ラディッシュ)から「食材の目利き」を学びたかったんだがねぇ~」
表の理由の他に、ハッキリとした理由が自身にも分からない、
(ラディとは、別行動なのかい……)
そこはかとない寂しさを感じたが、そうは言っても狙われているのは自身であり、その為に、仲間たちに不自由を強いている自覚もあるが故に、
「まぁ、仕方がないさぁねぇ」
渋々受け入れ、各班それぞれ買い出しに向かった。
そんな中、
「…………」
どことなく緊張した面持ちで歩くラディッシュ。
少々ぎこちない笑顔で、
「なっ、何かぁ、二人だけで歩くのって、久しぶりな気がするね」
前を行く、見覚えのある背中に声を掛けると、
「ふ、ふぇ?!」
素っ頓狂な声で振り返ったのは、ドロプウォート。
クジ引きでラディッシュのパートナーとなれた彼女であったが、久々の二人きりに、互いに距離感を掴みあぐねていた。
声を掛けられた彼女もまた、ギクシャクとした足取りで、
「そっ、そですわねぇ♪」
ぎこちない笑顔を返しつつ、
「!」
離れて歩いているのが気に掛かり、また勿体無くも思え、
(なっ、並んで歩かないのはぁヘン、ですわよねぇ?! け、決して「邪(よこしま)な考えあって」では、ありませんのですわ!)
誰に対する問いなのか、言い訳なのか、声を掛けられた事を足掛かりに、
「そっ、それで、初めに何を買いましてですわのぉ?!」
小走りで彼の隣に並び、歩幅を合わせて歩き始め、
「そっ、そだねぇ、生鮮食品は後回しにして、加工食品から買おうと思うんだぁ♪」
「そっ、それが良いですわのねぇ♪」
「…………」
「…………」
会話は続かず、
「「…………」」
黙する二人。
互いにほんのり桜色に染まった顔して、少々うつむき加減で歩く。
傍から見れば、初々しい付き合いたてのカップルのよう。
「「…………」」
しかし黙して並び歩いていると、沸々と思い起こされるのは、互いに晒し合った「赤面物の黒歴史」の数々。
共に過ごす時間が、家族並みに長くなったが故か、
((なんでぇあんな事をぉおぉ~~~っ!))
二人して、赤信号のように真っ赤な顔をして歩いていると、狙いすましたように露店の店主から、
『そこのぉ初々しい「恋仲の御二人」さぁん♪ 記念に何か買ってってくんなぁ♪』
愛想の良い声が飛んで来たが、今の二人にとっては追い討ちにしかならず、
「「ッ!?」」
二人は羞恥に染まった赤面顔で反射的に、
『『こぉっ恋仲じゃない(よぉ・ですわぁ)!!!』』
その雷鳴の如き剣幕に、
「ひぃ!」
店主は短い悲鳴を上げて後退り、
(おっ、俺はここで死ぬのかぁあ?!)
自らの死を悟った。
その怯え顔に、
((!))
ハッと正気に戻る、二人。
咄嗟に出てしまった激昂であったとは言え、無関係の人間を恐怖に落とし入れてしまった照れ隠しに、
『ごっ、ゴメンナサぁイ店主さぁん!』
『脅かすつもりは無かったのですわぁ! お詫びに何か買って行きますわぁ!』
猛省しながら目に付いた品を素早く取って一方的に支払いを済ませると、
『『失礼しましたぁーーー!』』
逃げるようにその場を後にした。
そして逃げながら、
(((僕・私)は、何を緊張して(たんだろ・ましたの)ぉ?))
先ほどまでの自身の張り詰めようが可笑しく思えて来て、
「ぷっ、アハハハハ♪」
ラディッシュが噴き出す様に笑い出すと、釣られてドロプウォートも笑い出し、
「寄り道なんてしてる場合じゃないよねぇ、ドロプ♪」
「ですわねぇ、ラディ♪ ニプル達に嫌味を言われてしまいましてですわぁ♪」
期せずして普段の調子を取り戻した二人は、目的の店を目指した。
困惑顔で見つめる露店店主に、背中を見送られながら。
その様子を物陰から、
「「「「「「…………」」」」」」
ジッと窺うのは、仲間たち。
二人の色恋を危惧しての覗き見であったが、自然な笑顔を見せ合う二人の姿に、
「「「「「「…………」」」」」」
出歯亀している自分たちの姿が次第に恥ずかしく思え、
「あ、アタシらもぉ買い物をしようさねぇ?」
「そ、そぅさなぁ?」
「げ、げにぃありぃんすなぁ?」
「で、でぇすでぇすねぇ?」
「そ、そうっスねぇ?」
担当する買い物に三々五々散って行った。
≪オトナのセカイはムズカシイなぉ≫
首を傾げる、幼きチィックウィードを伴って。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~
udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。
それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。
唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。
だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。
――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。
しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。
自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。
飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。
その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。
無断朗読・無断使用・無断転載禁止。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる