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第六章

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 一夜明け――
 
 アルブル国へ向かう出立前に、消耗品の買い出しに出掛ける事にしたラディッシュ達。
 周りをウロつくアクア国の冒険者たちの動向は気にしつつ、道中で必要となる品々の種類によって組み分けし、効率重視で村内を巡る事に。

 食品部門の班長にはラディッシュが、医薬品はパストリス、重量物のある日用品はターナップがなり、残りのメンバーは誰が誰の班に入るか、公平を期す為にクジ引きで決めたが、狙われているイリスだけは半強制的に日用品の班に。
 理由は、ターナップの存在感。

 見るからにガタイの良い彼の傍に居れば「迂闊な手出しをして来ないだろう」との、一致した意見の結果であった。
 しかし当のイリスは、あからさまな不服顔。

「アタシぁ料理の師匠(ラディッシュ)から「食材の目利き」を学びたかったんだがねぇ~」

 表の理由の他に、ハッキリとした理由が自身にも分からない、
(ラディとは、別行動なのかい……)
 そこはかとない寂しさを感じたが、そうは言っても狙われているのは自身であり、その為に、仲間たちに不自由を強いている自覚もあるが故に、

「まぁ、仕方がないさぁねぇ」

 渋々受け入れ、各班それぞれ買い出しに向かった。
 そんな中、
「…………」
 どことなく緊張した面持ちで歩くラディッシュ。
 少々ぎこちない笑顔で、

「なっ、何かぁ、二人だけで歩くのって、久しぶりな気がするね」

 前を行く、見覚えのある背中に声を掛けると、
「ふ、ふぇ?!」
 素っ頓狂な声で振り返ったのは、ドロプウォート。

 クジ引きでラディッシュのパートナーとなれた彼女であったが、久々の二人きりに、互いに距離感を掴みあぐねていた。
 声を掛けられた彼女もまた、ギクシャクとした足取りで、

「そっ、そですわねぇ♪」

 ぎこちない笑顔を返しつつ、
「!」
 離れて歩いているのが気に掛かり、また勿体無くも思え、
(なっ、並んで歩かないのはぁヘン、ですわよねぇ?! け、決して「邪(よこしま)な考えあって」では、ありませんのですわ!)
 誰に対する問いなのか、言い訳なのか、声を掛けられた事を足掛かりに、

「そっ、それで、初めに何を買いましてですわのぉ?!」

 小走りで彼の隣に並び、歩幅を合わせて歩き始め、

「そっ、そだねぇ、生鮮食品は後回しにして、加工食品から買おうと思うんだぁ♪」
「そっ、それが良いですわのねぇ♪」
「…………」
「…………」

 会話は続かず、

「「…………」」

 黙する二人。
 互いにほんのり桜色に染まった顔して、少々うつむき加減で歩く。
 傍から見れば、初々しい付き合いたてのカップルのよう。

「「…………」」

 しかし黙して並び歩いていると、沸々と思い起こされるのは、互いに晒し合った「赤面物の黒歴史」の数々。
 共に過ごす時間が、家族並みに長くなったが故か、

((なんでぇあんな事をぉおぉ~~~っ!))

 二人して、赤信号のように真っ赤な顔をして歩いていると、狙いすましたように露店の店主から、

『そこのぉ初々しい「恋仲の御二人」さぁん♪ 記念に何か買ってってくんなぁ♪』

 愛想の良い声が飛んで来たが、今の二人にとっては追い討ちにしかならず、
「「ッ!?」」
 二人は羞恥に染まった赤面顔で反射的に、

『『こぉっ恋仲じゃない(よぉ・ですわぁ)!!!』』

 その雷鳴の如き剣幕に、

「ひぃ!」

 店主は短い悲鳴を上げて後退り、
(おっ、俺はここで死ぬのかぁあ?!)
 自らの死を悟った。
 その怯え顔に、

((!))

 ハッと正気に戻る、二人。
 咄嗟に出てしまった激昂であったとは言え、無関係の人間を恐怖に落とし入れてしまった照れ隠しに、

『ごっ、ゴメンナサぁイ店主さぁん!』
『脅かすつもりは無かったのですわぁ! お詫びに何か買って行きますわぁ!』

 猛省しながら目に付いた品を素早く取って一方的に支払いを済ませると、

『『失礼しましたぁーーー!』』

 逃げるようにその場を後にした。
 そして逃げながら、
(((僕・私)は、何を緊張して(たんだろ・ましたの)ぉ?))
 先ほどまでの自身の張り詰めようが可笑しく思えて来て、

「ぷっ、アハハハハ♪」

 ラディッシュが噴き出す様に笑い出すと、釣られてドロプウォートも笑い出し、

「寄り道なんてしてる場合じゃないよねぇ、ドロプ♪」
「ですわねぇ、ラディ♪ ニプル達に嫌味を言われてしまいましてですわぁ♪」

 期せずして普段の調子を取り戻した二人は、目的の店を目指した。
 困惑顔で見つめる露店店主に、背中を見送られながら。
 その様子を物陰から、

「「「「「「…………」」」」」」

 ジッと窺うのは、仲間たち。
 二人の色恋を危惧しての覗き見であったが、自然な笑顔を見せ合う二人の姿に、
「「「「「「…………」」」」」」
 出歯亀している自分たちの姿が次第に恥ずかしく思え、

「あ、アタシらもぉ買い物をしようさねぇ?」
「そ、そぅさなぁ?」
「げ、げにぃありぃんすなぁ?」
「で、でぇすでぇすねぇ?」
「そ、そうっスねぇ?」

 担当する買い物に三々五々散って行った。
 ≪オトナのセカイはムズカシイなぉ≫
 首を傾げる、幼きチィックウィードを伴って。
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