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第六章
6-78
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王都カルブレスの本通りを進む二頭立ての幌付き荷馬車――
一先ずはアルブル国の目指すも行き先が定まらない中、イリスが荷台から顔を覗かせ、
「ヤツ等の追跡を気にしてるなら、心配無用だろぅさねぇ。アレだけ、こっぴどい目に遭わされちゃぁねぇ♪」
香辛料をたらふく含んだ煙を吸い込み、のたうち回っていたアクア国の冒険者たちを思い返し、悪い顔して愉快げに「キッシッシッ」と笑って見せると、御者台のドロプウォートがそんな彼女に苦笑しながらも、
「確かにそうですわねぇ。割に合わない仕事と、骨身に沁みたでしょうしぃ」
反対側に座るニプルウォートも斜に構えた笑みで、
「それでも来るってのならぁ余程のアホウなのかぁ、それとも……」
「「「それとも?」」」
ラディッシュ、ドロプウォート、イリスが見つめる中、
「いや……何でもないさぁ」
「「「?」」」
自嘲気味な笑みの口籠りに三人は首を傾げたが、
(裏の裏まで読もうとするのがウチの悪い癖さ……コイツはぁ元の職業柄の「考え過ぎ」さ……)
彼女は「微かに感じた胸騒ぎ」を自ら否定した上で、
「それにしても随分と遠回りしちまったなぁ~アルブル国の復興を確認するだけの筈がさぁ♪」
笑ってお茶を濁し、その笑顔にラディッシュは違和感を残しつつも、
(女子の悩みをアレコレ詮索すると「キモイ」って思われちゃうかなぁ……)
思い改めると、
「そ、そうだね♪」
笑顔で応え、
「でも、エルブ王からの御使いもあったし他にも色々。それに順調にいかないのはぁ毎度のことだしね」
するとイリスが不敵な笑み二ッとを浮かべ、
「それでぇ本当の所はどぅなのさぁねぇラディ~?」
「んぇ? 何のことぉ?」
「だからさぁ~アルブル国の「王様になるって話」さぁね♪」
唐突な蒸し返しに、
『のぉおっ!!!?』
激しく動揺するラディッシュ。
拍子に手綱を引く手元を大きく狂わせ、大きく揺さ振られた荷台の中で、
「「「「ッ!!!」」」」
カクテルの素材の如くシェークされるチィックウィード、パストリス、ターナップとカドウィード。
冷や汗モノのラディッシュは慌てに慌て、
『うわぁああっぁゴメンなぁさぁあぁいぃ!!!』
手綱を握り直して馬を落ち着かせると、椅子に必死にしがみ付いて事なきを得た御者台のドロプウォートとニプルウォートは真っ青な顔して、
「「し、死ぬかと(思いましたわ・思ったさ)ぁ……」」
幌のフレームにしがみ付いて落下の難を逃れたイリスも動悸が収まらない様子で、
『ぁあ、アタシらをぉ殺す気かぁいラディ! アンタ動揺し過ぎだろぉさねぇ!』
怒ると言うより苦笑のツッコミに、
「ゴメンなさいゴメンなさぁい!」
ラディッシュは一先ず馬車を止めて荷台に振り返り、
「みんなもゴメンねぇ怪我は無ぃい?!」
「「「「…………」」」」
青ざめ無言で頷く仲間たちを見回し「一先ずは無事」であるのを確認すると、
(良かったぁ~)
安堵の息と共に、
「もっ、もぅ、イリィが急にヘンな事を言うからぁ~」
不満を露わにした。
多少、責任転嫁が否めないものの、イリスはさして気にする風も無く、フッと小さく笑って悟ったように、
「それほど動揺するって事ぁ、イヤでは無いんだろさね?」
「うっ……」
図星を突かれた顔するラディッシュ。
その反応には仲間たちも興味を示し、
((((((…………))))))
熱を帯びた眼差しを向けられた彼は、
(今更の言い訳やはぐらからしは「信頼の裏切り」になるのかなぁ……)
再び馬車を走らせつつ、小さく一つ息を吐いて覚悟を決め、
「それは、まぁね……アルブル国の人達の暮らしを、少しでも良くしてあげたい気持ちはあるし……」
重い口から本音を吐露した途端、
「あっ! も、モチロン不甲斐ない僕を「みんなが支えてくれたら」の話だよぉ!」
慌てた様子で補足すると、仲間たちは「訊くだけ野暮」と言わんばかりの笑顔で即応しようとした。
しかし、
「でもソレは、まだ先の話なんだ」
(((((?)))))
ラディッシュは自ら話の腰を折り、
「その前に、やらなきゃいけない事が色々あると僕は思うんだ」
(((((地世に行く話ぃ!)))))
熱を増した気付きをする勇者組。
幼いチィックウィードだけ、話の意味が理解出来ない様子で小首を傾げると、
『当ては、あるのかぁい?』
冷静に問う人物が一人。
それはイリス。
天世を敵に回しかねない行為の「ブレーキ役」としての、ある種の苦言に、
「う~~~ん、どうかなぁ~」
ラディッシュは、当てが「ある」とも「ない」ともつかぬ曖昧な笑顔でお茶を濁し、
「ハッキリしないさねぇ~どうなのさねぇ? アルのかい?? ナイのかぁい???」
「そうなんだけど……不確かな話で、みんなを振り回す訳にはいかないからぁ」
「何だい何だい煮え切らない答えさねぇ~」
イリスは不服顔を見せ、ふと、手綱を引くラディッシュの両脇腹に眼を留め、
(…………)
悪い顔してニヤリ。
自身の十指(じっし)をそれぞれ別の生き物のように怪しく蠢(うごめ)かし、
((((((ま、まさか……))))))
仲間たちが「とある不安」を抱いた矢先、それは現実に。
彼女は前置きなく、
『アタシに内緒とはイイ度胸さねぇラディ♪』
手綱を引く彼の背後から無防備な両脇腹を、満面の笑顔で鷲掴み、
『ヒィ!』
短い悲鳴を上げた彼の、
「ちょまぁっ! 待ってぇイリィ今はぁ!」
制止を聞き入れる耳を持たず、
「なぁらぁ正直に吐いちまうのさぁねぇーーーっ♪」
容赦なく、くすぐり始めた。
ラディッシュの両脇腹で、縦横無尽、傍若無人に踊りまわるイリスの十指。
当然の如く、
『うひゃはやぁああひゃぁらめぇえぇぇ!』
堪え切れないラディッシュは大笑いと共に手綱の操作を誤り、二頭の馬は暴れて荷馬車は再び上下左右に激しく揺れ、
中で激しく転がるカドウィードたちと、御者台に必死にしがみ付くドロプウォートとニプルウォート。
イリスも荷台のフレームに必死にしがみつき、ラディッシュが暴れる二頭に懸命に、懇願する様に、
「おぉっ落ち着いてぇえぇぇえええぇぇ!」
手綱を操り二頭が静まると、
「ふぃいぃ……」
落下の難を逃れたイリスは安堵の息を漏らしキレ気味に、
『アタシらぁを殺す気かァい、ラディ!』
「うぇえ?!!!」
理不尽極まりない逆ギレに慄くラディッシュ。
しかしその様な理不尽がまかり通る筈も無く、
『『『『『『『ダレのせぇいかぁ!!!』』』』』』』
仲間たちからの、苦笑を交えた一斉ツッコミに、
「うぅっ……」
返す言葉を失った。
言われてみれば「その通り」であり、非がある自覚もあったから。
とは言え、単なる「イタズラ心」とは別の所に「本意」があった彼女は、総スカンを産んでしまった結果に、少々バツが悪そうに顔を逸らしつつ、
「ふ……」
「ふ?」
「不確かな話でもぉ、そのぉ……」
「?」
「話せる決心が付いたらぁ、皆にぃ話すのさぁねぇ……」
「へ?」
キョトン顔のラディッシュに、彼女は少し赤い顔してじれったそうに、
『みっ、皆まで言すなぁ! ぁアタシらぁ仲間だろぉさねぇ!』
「!?」
「なっ……仲間うちで、その……「隠し事はナシ」なのさぁねぇ……」
言葉尻がしぼんで行く照れ顔に、
(もしかしてソレを僕に伝えたくて、あんな事を?!)
少々面食らうと共に、気遣いが嬉しく思え、愛らしくも思え、
(不器用過ぎでしょ♪)
口には出さず小さくクスリと笑うと、その笑みから「イタズラの本意」を知られたのを悟ったイリスは顔を背けたまま、背けた顔で、
(ぶ、不器用で悪かったさねぇ)
通じ合う二人の様子に、
(…………)
幾ばくかの嫉妬を覚えるドロプウォート。
ヤキモチから揚げ足取りの如く、
「イリィがソレを言いましてぇですわの?」
「?」
「その「仲間たち」に、何かしらの隠し事をしている貴方がぁ」
「うくっ……」
図星を突かれ、ギクリとした顔を見せてしまったイリス。
「そっ、それぁ、そのぉ、」
口籠りながら、
(アタシの抱えてる悩みなんざぁ、世界を相手にしているアンタ達に比べれば些末な話さぁねぇ……)
取るに足らない物として内に収め、
「あっ、アタシの話はぁイイのさねぇ!」
反発は見せながらも、僅かながら視線を落とした。
すると、
『まぁイイんじゃないのかなぁ♪』
(((((((?!)))))))
彼女が秘密を抱える事に、肯定的な声を上げたのはラディッシュ。
手綱を振って、馬車を再び走らせながら、
「誰だって、仲間に言えない秘密の一つや二つあるでしょ、ねぇドロプ♪」
その見透かしたような物言いに、
「うっ……」
思わず黙るドロプウォート。
自爆的に、
(い、言えませんのですわ……ラディの料理が美味しく食べ過ぎて、最近体重が……思えば他にも多々……)
思い至るとすかさずラディッシュは、
「ねぇ、ニプルぅ♪」
企み顔したニプルウォートにも先んじて釘を刺し、出鼻を挫かれた彼女も思い当たる節が数々あるが故に、
「ううっ……」
口籠ると、
『チィはぁナイなぉ♪』
チィックウィードが屈託ない、天使の笑顔を見せた。
しかし、父(仮)ラディッシュの眼は甘くは無かった。
「お菓子の「隠れてつまみ食い」とかあるでしょ♪」
鋭いツッコミに、
『ほぅっなぉ?!』
大人張りに絶句する、幼女。
母(仮)ドロプウォートからの、刺さるような批判の視線に、
「!」
思わず顔を背けると、ラディッシュは「あははは」と笑いながら、
「みんな色々あるんだしさ、秘密は「話せる時が来たら」でイイんだよぉ♪」
紳士的な考えに、
「!!!」
いたく感動する、イリス。
仲間たちからの詮索を受けずに済んだのも手伝い、彼女は喜びに打ち震え、
『オマエってヤツぁ最高だよぉ、ラディ♪』
手綱を引く純情少年の頭に、後ろから抱き付こうとし、
『『『『『『!!!?』』』』』』
慌てて羽交い締めにするカドウィード達。
背後で未然に防がれた何事かに、
「ん?!」
ラディッシュが不思議顔をする中、ドロプウォート達は心外そうな顔するイリスに、
「「「「「「イイカゲンにマナベェーーー!!!」」」」」」
苦笑のツッコミを入れ、抱き付いた後に何が起きるか気付かされた彼女は、
「テヘェ♪」
愛らしく、舌を出して誤魔化した。
一先ずはアルブル国の目指すも行き先が定まらない中、イリスが荷台から顔を覗かせ、
「ヤツ等の追跡を気にしてるなら、心配無用だろぅさねぇ。アレだけ、こっぴどい目に遭わされちゃぁねぇ♪」
香辛料をたらふく含んだ煙を吸い込み、のたうち回っていたアクア国の冒険者たちを思い返し、悪い顔して愉快げに「キッシッシッ」と笑って見せると、御者台のドロプウォートがそんな彼女に苦笑しながらも、
「確かにそうですわねぇ。割に合わない仕事と、骨身に沁みたでしょうしぃ」
反対側に座るニプルウォートも斜に構えた笑みで、
「それでも来るってのならぁ余程のアホウなのかぁ、それとも……」
「「「それとも?」」」
ラディッシュ、ドロプウォート、イリスが見つめる中、
「いや……何でもないさぁ」
「「「?」」」
自嘲気味な笑みの口籠りに三人は首を傾げたが、
(裏の裏まで読もうとするのがウチの悪い癖さ……コイツはぁ元の職業柄の「考え過ぎ」さ……)
彼女は「微かに感じた胸騒ぎ」を自ら否定した上で、
「それにしても随分と遠回りしちまったなぁ~アルブル国の復興を確認するだけの筈がさぁ♪」
笑ってお茶を濁し、その笑顔にラディッシュは違和感を残しつつも、
(女子の悩みをアレコレ詮索すると「キモイ」って思われちゃうかなぁ……)
思い改めると、
「そ、そうだね♪」
笑顔で応え、
「でも、エルブ王からの御使いもあったし他にも色々。それに順調にいかないのはぁ毎度のことだしね」
するとイリスが不敵な笑み二ッとを浮かべ、
「それでぇ本当の所はどぅなのさぁねぇラディ~?」
「んぇ? 何のことぉ?」
「だからさぁ~アルブル国の「王様になるって話」さぁね♪」
唐突な蒸し返しに、
『のぉおっ!!!?』
激しく動揺するラディッシュ。
拍子に手綱を引く手元を大きく狂わせ、大きく揺さ振られた荷台の中で、
「「「「ッ!!!」」」」
カクテルの素材の如くシェークされるチィックウィード、パストリス、ターナップとカドウィード。
冷や汗モノのラディッシュは慌てに慌て、
『うわぁああっぁゴメンなぁさぁあぁいぃ!!!』
手綱を握り直して馬を落ち着かせると、椅子に必死にしがみ付いて事なきを得た御者台のドロプウォートとニプルウォートは真っ青な顔して、
「「し、死ぬかと(思いましたわ・思ったさ)ぁ……」」
幌のフレームにしがみ付いて落下の難を逃れたイリスも動悸が収まらない様子で、
『ぁあ、アタシらをぉ殺す気かぁいラディ! アンタ動揺し過ぎだろぉさねぇ!』
怒ると言うより苦笑のツッコミに、
「ゴメンなさいゴメンなさぁい!」
ラディッシュは一先ず馬車を止めて荷台に振り返り、
「みんなもゴメンねぇ怪我は無ぃい?!」
「「「「…………」」」」
青ざめ無言で頷く仲間たちを見回し「一先ずは無事」であるのを確認すると、
(良かったぁ~)
安堵の息と共に、
「もっ、もぅ、イリィが急にヘンな事を言うからぁ~」
不満を露わにした。
多少、責任転嫁が否めないものの、イリスはさして気にする風も無く、フッと小さく笑って悟ったように、
「それほど動揺するって事ぁ、イヤでは無いんだろさね?」
「うっ……」
図星を突かれた顔するラディッシュ。
その反応には仲間たちも興味を示し、
((((((…………))))))
熱を帯びた眼差しを向けられた彼は、
(今更の言い訳やはぐらからしは「信頼の裏切り」になるのかなぁ……)
再び馬車を走らせつつ、小さく一つ息を吐いて覚悟を決め、
「それは、まぁね……アルブル国の人達の暮らしを、少しでも良くしてあげたい気持ちはあるし……」
重い口から本音を吐露した途端、
「あっ! も、モチロン不甲斐ない僕を「みんなが支えてくれたら」の話だよぉ!」
慌てた様子で補足すると、仲間たちは「訊くだけ野暮」と言わんばかりの笑顔で即応しようとした。
しかし、
「でもソレは、まだ先の話なんだ」
(((((?)))))
ラディッシュは自ら話の腰を折り、
「その前に、やらなきゃいけない事が色々あると僕は思うんだ」
(((((地世に行く話ぃ!)))))
熱を増した気付きをする勇者組。
幼いチィックウィードだけ、話の意味が理解出来ない様子で小首を傾げると、
『当ては、あるのかぁい?』
冷静に問う人物が一人。
それはイリス。
天世を敵に回しかねない行為の「ブレーキ役」としての、ある種の苦言に、
「う~~~ん、どうかなぁ~」
ラディッシュは、当てが「ある」とも「ない」ともつかぬ曖昧な笑顔でお茶を濁し、
「ハッキリしないさねぇ~どうなのさねぇ? アルのかい?? ナイのかぁい???」
「そうなんだけど……不確かな話で、みんなを振り回す訳にはいかないからぁ」
「何だい何だい煮え切らない答えさねぇ~」
イリスは不服顔を見せ、ふと、手綱を引くラディッシュの両脇腹に眼を留め、
(…………)
悪い顔してニヤリ。
自身の十指(じっし)をそれぞれ別の生き物のように怪しく蠢(うごめ)かし、
((((((ま、まさか……))))))
仲間たちが「とある不安」を抱いた矢先、それは現実に。
彼女は前置きなく、
『アタシに内緒とはイイ度胸さねぇラディ♪』
手綱を引く彼の背後から無防備な両脇腹を、満面の笑顔で鷲掴み、
『ヒィ!』
短い悲鳴を上げた彼の、
「ちょまぁっ! 待ってぇイリィ今はぁ!」
制止を聞き入れる耳を持たず、
「なぁらぁ正直に吐いちまうのさぁねぇーーーっ♪」
容赦なく、くすぐり始めた。
ラディッシュの両脇腹で、縦横無尽、傍若無人に踊りまわるイリスの十指。
当然の如く、
『うひゃはやぁああひゃぁらめぇえぇぇ!』
堪え切れないラディッシュは大笑いと共に手綱の操作を誤り、二頭の馬は暴れて荷馬車は再び上下左右に激しく揺れ、
中で激しく転がるカドウィードたちと、御者台に必死にしがみ付くドロプウォートとニプルウォート。
イリスも荷台のフレームに必死にしがみつき、ラディッシュが暴れる二頭に懸命に、懇願する様に、
「おぉっ落ち着いてぇえぇぇえええぇぇ!」
手綱を操り二頭が静まると、
「ふぃいぃ……」
落下の難を逃れたイリスは安堵の息を漏らしキレ気味に、
『アタシらぁを殺す気かァい、ラディ!』
「うぇえ?!!!」
理不尽極まりない逆ギレに慄くラディッシュ。
しかしその様な理不尽がまかり通る筈も無く、
『『『『『『『ダレのせぇいかぁ!!!』』』』』』』
仲間たちからの、苦笑を交えた一斉ツッコミに、
「うぅっ……」
返す言葉を失った。
言われてみれば「その通り」であり、非がある自覚もあったから。
とは言え、単なる「イタズラ心」とは別の所に「本意」があった彼女は、総スカンを産んでしまった結果に、少々バツが悪そうに顔を逸らしつつ、
「ふ……」
「ふ?」
「不確かな話でもぉ、そのぉ……」
「?」
「話せる決心が付いたらぁ、皆にぃ話すのさぁねぇ……」
「へ?」
キョトン顔のラディッシュに、彼女は少し赤い顔してじれったそうに、
『みっ、皆まで言すなぁ! ぁアタシらぁ仲間だろぉさねぇ!』
「!?」
「なっ……仲間うちで、その……「隠し事はナシ」なのさぁねぇ……」
言葉尻がしぼんで行く照れ顔に、
(もしかしてソレを僕に伝えたくて、あんな事を?!)
少々面食らうと共に、気遣いが嬉しく思え、愛らしくも思え、
(不器用過ぎでしょ♪)
口には出さず小さくクスリと笑うと、その笑みから「イタズラの本意」を知られたのを悟ったイリスは顔を背けたまま、背けた顔で、
(ぶ、不器用で悪かったさねぇ)
通じ合う二人の様子に、
(…………)
幾ばくかの嫉妬を覚えるドロプウォート。
ヤキモチから揚げ足取りの如く、
「イリィがソレを言いましてぇですわの?」
「?」
「その「仲間たち」に、何かしらの隠し事をしている貴方がぁ」
「うくっ……」
図星を突かれ、ギクリとした顔を見せてしまったイリス。
「そっ、それぁ、そのぉ、」
口籠りながら、
(アタシの抱えてる悩みなんざぁ、世界を相手にしているアンタ達に比べれば些末な話さぁねぇ……)
取るに足らない物として内に収め、
「あっ、アタシの話はぁイイのさねぇ!」
反発は見せながらも、僅かながら視線を落とした。
すると、
『まぁイイんじゃないのかなぁ♪』
(((((((?!)))))))
彼女が秘密を抱える事に、肯定的な声を上げたのはラディッシュ。
手綱を振って、馬車を再び走らせながら、
「誰だって、仲間に言えない秘密の一つや二つあるでしょ、ねぇドロプ♪」
その見透かしたような物言いに、
「うっ……」
思わず黙るドロプウォート。
自爆的に、
(い、言えませんのですわ……ラディの料理が美味しく食べ過ぎて、最近体重が……思えば他にも多々……)
思い至るとすかさずラディッシュは、
「ねぇ、ニプルぅ♪」
企み顔したニプルウォートにも先んじて釘を刺し、出鼻を挫かれた彼女も思い当たる節が数々あるが故に、
「ううっ……」
口籠ると、
『チィはぁナイなぉ♪』
チィックウィードが屈託ない、天使の笑顔を見せた。
しかし、父(仮)ラディッシュの眼は甘くは無かった。
「お菓子の「隠れてつまみ食い」とかあるでしょ♪」
鋭いツッコミに、
『ほぅっなぉ?!』
大人張りに絶句する、幼女。
母(仮)ドロプウォートからの、刺さるような批判の視線に、
「!」
思わず顔を背けると、ラディッシュは「あははは」と笑いながら、
「みんな色々あるんだしさ、秘密は「話せる時が来たら」でイイんだよぉ♪」
紳士的な考えに、
「!!!」
いたく感動する、イリス。
仲間たちからの詮索を受けずに済んだのも手伝い、彼女は喜びに打ち震え、
『オマエってヤツぁ最高だよぉ、ラディ♪』
手綱を引く純情少年の頭に、後ろから抱き付こうとし、
『『『『『『!!!?』』』』』』
慌てて羽交い締めにするカドウィード達。
背後で未然に防がれた何事かに、
「ん?!」
ラディッシュが不思議顔をする中、ドロプウォート達は心外そうな顔するイリスに、
「「「「「「イイカゲンにマナベェーーー!!!」」」」」」
苦笑のツッコミを入れ、抱き付いた後に何が起きるか気付かされた彼女は、
「テヘェ♪」
愛らしく、舌を出して誤魔化した。
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