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第六章

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 仲間たちからも向けられる、答えを求める眼差しに、
「…………」
 逃げ場が無いと悟った彼はポツリと、
「方法は分からないですけど……その……地世に行ってみようと思ってます……」
 それは天世に対する「裏切り」とも取られ兼ねない行為であり、

『『『『『『『『『『ッ!!!?』』』』』』』』』』

 大きくどよめく謁見の間。
 仲間たちも動揺を隠せない中、

『静まれぇーーーッ!!!』

 カルニヴァ王が一喝。
 異様に静まった場にて、彼は平静な眼差しで以て、
「理由を伺えるか、勇者殿」
 その言葉には、偽りや誤魔化しを許さぬ重みがあり、

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 緊張が場を支配する中、仲間たちの誰もが、ラミウムを探しに行くつもりなのかと思っていたが、彼から訥々(とつとつ)と語られた理由は意外な物であった。

「僕は「今の時代の勇者」として、今の地世の「本当の姿」を見ないといけない、そんな気がするんです」
((((((((((!))))))))))

「僕は「中世」に降り、そして「天世」を見て来ました。でも「地世」については一側面しか知らない」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

「王位に就いてしまったら、それが出来なくなってしまう……から……」
「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 沈黙の下、

『なるほどな』

 最初に声を発したのは、カルニヴァ王。
 彼は中世における大国の王の一人として「頭ごなしに否定」するでなく、

「しかしほど良い時宜であったやも知れぬぞ、勇者殿」
「え?」
「これを機に、仲間たちとよく相談してみてはどうか?」

 名君としての懐の深さを窺わせ、
「…………」
 短く、黙考するラディッシュ。

 すると何か思い至った様子の彼は、静かに、
「ありがとうございます、カルニヴァ陛下」
 仲間たちと向き合う機会を与えてくれた気遣いに感謝し、

「ちゃんと話し合ってみます」
「その方が良かろぅ。しかしな、」
「しかし?」
「どの様な結論を出すにせよ、諸王と共に「アルブルの玉座」は空けて、待っておるからな♪」
「!」

 からかいも多分に含んだ笑みに、ラディッシュは多少たじろぎつつ、

「あは、あははは……ぜ、善処しまぁすぅ」
「うむ。頼んだぞぉ勇者どのぉ♪」

 カルニヴァ王は満足げに、勇者たちを見回し、
「しかし……勇者殿の一行は変わらず「多種多様な女子」の集まりで……」
 感嘆、呆れ、多少のやっかみも混じったからかいを口にしかけたが、

「ん?」

 何かに気付き、

「勇者殿よ、少し良いか?」
「?」
「プ……もといカドウィードは如何なした?」

 部下たちの前で「彼女の旧名」を口にしかける迂闊を演じるほど、内心で戸惑い、所在を尋ねると、

『はぁ~~』

 勇者組の中から、一人の女性の大きなため息が。
「相も変わらず、オナゴに関して鈍きにありんすなぁ~」
 声を上げたのは当然の如く、カドウィード。
 そんな彼女に目を留め、

『おっ、おまっ?!!!』

 絶句する、カルニヴァ王。
 男社会に浸りきった「イケメン男装女子」であった筈の彼女の変貌ぶりに、

「な……」

 言葉を失う彼は、問いを絞り出すように、
「かっ……カドウィード……なの……かぁ?!」
「以外の誰に見えると言えんしょぅ?」

「イヤイヤイヤイヤ変わり過ぎであろぉ!」

 揺らぎを知らぬ巌(いわお)の様な「武人の王」が見せた狼狽に、
「ぅふふふふ♪」
 彼女は愉快げに、妖艶な笑みを浮かべ困惑笑いのラディッシュにしな垂れかかり、

「オナゴは「好いた男」の為んしたらぁ幾らでも変われるモノでぇありんすぇ」

 その姿に、
(俺の下に居た時より遥かに幸せなのだなぁ)
 嬉しさと同時に寂しさ半分、苦笑するカルニヴァ王。
 共に過ごした「男装時代の彼女」との日々を、懐かしく思い返していると、

『オニイサマぁ!』

 ウトリクラリアが唐突に、首元に抱き付いた。
 長話に飽きたのか、それとも兄を独占され続けている事に対する嫉妬心からか。
「困ったの物だなぁ」
 愛情を持った、ヤレヤレ笑いを浮かべるカルニヴァ王。

 武に秀でた名君でありながらも、彼女に対しては何処までも優しく、
「客人の前では行儀よくし、陛下と呼べとも申しておるのに」
 苦言を呈し、実の兄妹が見せる「愛の形」に、

「「「「「…………」」」」」

 感慨深いものを感じるラディッシュ達。
 そこに至るまでの「二人の苦悩」を、目の当たりにして来たから。
 一方のイリス。
 事前情報は仲間たちから聞かされてはいたが、聞くと見るとでは、心情に違いがあり、王道恋愛モノが大好物な彼女は「フィクションではない兄妹愛」を目の当たりにし、

(色々あるのさぁねぇ~)

 感慨深く思っていた。
 そんな中、

『オシゴトのジャマしちゃ「ダメ」なぉ!』

 ウトリクラリアに釘を刺したのは、幼きチィックウィード。
 見た目年齢で一回り以上に上である彼女に向けて、ぷんすか怒って指を差し、

「オウサマは、オシゴトチュウなぉ!」

 おねえちゃんぶった口振りで指摘すると、指摘された彼女はカルニヴァ王に抱き付いたまま、同年代の女児の如き売り言葉に買い言葉で、

「クラリアはぁオニイサマのオクサンなのぉ! オクサンだからイイんだモン!」
「オクサンでもぉ、ダメなのはダメなぉ!」

 術の反動で精神年齢が対抗してしまった事を理解出来ないチィックウィードが尚もツッコミを入れると、

『けっ、ケンカはダメなのぉでぇすぅ!』

 パストリスが間に割って入り、奇しくも「三つ巴のロリ」。
 精神年齢、実年齢、見た目年齢、三者三様に『幼女』である三人が全面対決。
 当人達はいたって真剣に言い合いをしているのだが、その愛らしい三つの必死顔に、

((((((((((微笑まぁ~♪))))))))))

 思わず目尻が下がるラディッシュ達や、カルニヴァ国の人々。
 その生温かい眼差しに、
(!)
 ハッと気付く、一応大人のパストリス。

(ボクもぉ「ロリ扱い」されてるのでぇす?!)

 納得いかないと言わんばかり、怒りの矛先を変え、

『どぅしてぇ皆でぇ微笑ましい顔して見るでぇすぅ!』

 憤慨して見せたが、憤慨して見せれば見せるほど、むしろ見ている側は愛らしさが増し、
「「「「「「「「「「うんうん♪」」」」」」」」」」
 孫を見つめる祖父母のような眼差しで頷いた。
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