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第六章

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 馬車を走らせ半日ほど経った頃――

 進行方向に、アルブル国境近くの違法村が見えて来て、
「いよいよ、だね……」
 御者台で手綱を握る手にチカラが入るラディッシュと、
「ですわねぇ……」
「だな……」
 同様に息を呑むドロプウォートとニプルウォート。

 原因は「イリスの件」と言うよりも、主に「今は亡きハクサン」のせい。

 彼の「不埒な下半身」が招いた悪行三昧のお陰で、怒れる村娘や親たちに追い回された経験は数知れず、今から訪れる村もその一つであり、久々の立ち寄りとはなるが、体験者を含めた荷台の仲間たちも、
「「「「「…………」」」」」
 緊張した面持ちで息を呑む中、馬車は簡素な門をくぐり抜け、
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
 遂に村の中へ入った。
 しかし、

「「「「「「「「・・・?」」」」」」」」

 ラディッシュ達の不安をよそに、村内はいたって平穏そのもの。
 違法村の一つと言う事もあり、見るからに脛にキズ持つ「イカツイ男女」が多めなことを除けば、普通の田舎村と何ら変わらぬ日常を見せていた。
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
 苦労に苦労を重ねられた、あの「苦悩の日々」を改めて思い返し、沸々と湧き上がるは、

((((((((ハクサンめぇ!!!))))))))

 怒り。
 故人を相手に、怒りを再燃せずには居られなかった。
 特に、直接被害を被った経験を持つメンバーは。
 反論できない「亡くなった人」を悪く言うのは、人として、勇者一行として「品位に欠ける」と指摘されそうではあるが。

 とは言え不要の騒ぎが起きない事に、一先ずの安堵を覚えるラディッシュ達。

 荷馬車を預り所に預け、
「それじゃ「アルブル国の現状情報」と「イリスの襲撃者」に関する情報を集めに行こうか?」
 勇者一行は村内をそぞろ歩き始めた。
 しかし歩き始めて間も無く、

(な、何か、村の人達から注目されてるような……)

 居心地の悪さを感じるラディッシュ。
 それもその筈、一癖二癖ありそうな住人が住む村の中を、オドオド歩くイケメンや、やたらと豊満な女騎士、目つき鋭い僧侶やロリに幼女に花魁など、色とりどりの異色が集まり歩いていては周囲の目を引くのは当然で、

(まっ、前とは違った意味で悪目立ちしてるぅ?!)

 居心地の悪さを感じたラディッシュは、不穏な空気に耐え兼ね、
「ぼっ、僕たちって浮いてなぁい?」
 引きつり笑顔で仲間たちに同意を求めたが、ドロプウォートはドコ吹く風で、

「堂々として居れば良いのですわ、ラディ」

 ニプルウォート達も、

「おぅさ。ウチ達に、後ろ暗い所は「もう無い」のさぁ」
「そぅなのでぇす♪ 心配は不要なのでぇす♪」
「そうっスよ、兄貴」

 暗に「ハクサン不在」を笑顔で示し、ターナップは頷きながら、
「それにっスねぇ」
 少し声を潜め、

(向こうだって「無用の騒ぎ」を起こして、諜報活動に支障をきたしたくは無い筈っスよぉ♪)
「あっ、そうかぁ♪」

 パッと晴れやかな笑顔を見せるラディッシュであったが、その矢先、

『おぅおぅチョット待てぇやぁ♪』

 荒くれ者の村は仲間たちが思っていたほど、懐がそんなに深くはなかった。
 見るからにガラの悪い、モブな男女が数名登場して行く手を遮り、

(やっぱり御登場じゃないかぁ!)

 心で泣き笑うラディッシュを前に、
「大人しく捕まってぇ俺らの、」
 御決まりの三文セリフをキメるが先か、

『『『『『『『スンませぇんしたぁあぁぁあぁぁーーーーーーっ!』』』』』』』

 往来のど真ん中で顔をボコボコに腫らせ、必死の土下座。
 蜘蛛の子を散らす様に、一斉に逃げ去って行った。
 格の違いを見せつける、勇者一行(※ラディッシュを除き)。

 ターナップは息の一つも乱さず、呆れた様子で両手に付いた埃をパンパンと掃い落としながら、

「何処に行っても、あぁ言う「弱い者イジメ」な連中は居るんスねぇ~」
「同人誌作業でなまった体の「ほぐし」にもなりませんのですわぁ~」
「まぁったく腹ごなしにもなりゃしないさぁ~」
「ほんにぃ詰りんせぇんなぁ~」
「弱い者イジメは罰を受けるのでぇすぅ~」
「ウケるぉ♪ ウケるなぉ~♪」

 辟易する仲間たちに、
(誰が「弱い者」ぉ?)
 苦笑の、お説教の出番すら与えてもらえなかったラディッシュ。

 すると同様に出る幕の無かったイリスが周囲を見回し、
「まぁ騒ぎの御蔭でしばらくは、のんびり情報収取が出来そうさぁねぇ♪」
 ニカッと笑って見せ、
「?」
 釣られる様に周囲を見回した彼は、
(なるほどぉ)
 得心が行った。

 異次元の強さを目の当たりし、目を逸らす村のイカツイ住人たちの姿に。

 しかしラディッシュ達は気付いていなかった。
 木が隠れるなら、森の中。
  遠巻きに見つめる盗賊まがいの村人たちに交じり、息を潜めるように紛れる、ハッキリと「邪(じゃ)の意志」を宿した眼の連中が居たことに。
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