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第六章

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 推しの作家を前にした、勇者組の女子達は有頂天。
 
 男子に内緒の「女子の秘め事」、「女子の嗜み」と言う発想は何処へやら。

 熱烈に握手を求めたり、手持ちの愛読書にサインを求めたりと、ラディッシュとターナップ、そして状況が理解出来ないチィックウィードを置き去りに。
 そんな中、

『何をそんなに浮かれてるさぁねぇ~』

 呆れ口調は、イリス。
 本音は、推しの作家ユリユリであるリブロンを前に、

(アタシもぉユリユリ先生のサインが欲しいさぁねぇーーー!)

 大絶叫していたが、斜に構えた自らのキャラを意識するあまり、
「もぅ少し大人になったらどぅさねぇ~」
 ヤレヤレと言った口振りで、
「チィ坊を見ぃなやぁ、呆れてるさぁねぇ~」
 半笑いを浮かべつつ、心では泣いていた。

 そんな彼女を、
「「「「・・・・・・」」」」
 見透かしたジト目で見据えるドロプウォート、パストリス、ニプルウォート、カドウィード。
 見据えられ、
(!?)
 内心でギクリとするイリス。

 ユリユリ先生の作品の「隠れ大ファン」でありながらの背信行為に、バツが悪そうに眼を泳がせ、その後ろめたさを誤魔化す様に、
「なっ、何さぁねぇアンタ達ぃその眼はぁ?! いっ、言いたい事があるならぁハッキリとぉ、」
 強がりを多分に交え「言ってみろ」と言おうとすると、女子四人は平静に、ともすれば冷淡に、

「「「「服の下に隠してるのは何(なんですのぉ・なのでぇす・なのさぁ・でありんすぅ)?」」」」
『のぉ!?』

 あからさまな狼狽えを見せるイリス。
 隠していたのは仲間たちから「胸やけしそう」と揶揄さ、隠れてコッソリ読み耽っていた、

≪ユリユリ先生の大作≫

(まっ、まさかコイツ等ぁ気付いてるっぅ?!)

 反射的に胸元を押さえ、
『なっ、何を言ってるのさぁねぇ、アンタ達ぃぁ! こっ、ここには何もぉ、』
 無いと言い張るより先、キラリと目を光らせたチィックウィードが彼女の背後から、

「いただきなぉ♪」

 光の如き素早さで彼女の胸元から本を抜き取り、

『ちっ、チィ坊ぉお! 何するさねぇ!』

 慌てて取り戻そうとした手を、彼女はスルリとかいくぐり、
「ここに「ユリユリ」ってぇ、かいあるなぉ♪」
 皆に見えるよう本を高々掲げて、表紙に書かれた作家名を指差した。

『のぉはっうぅ!!!』

 羞恥の赤面顔でフリーズするイリスと、
「「「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」」」
 沈黙する大人たち。
 同情するに値する「彼女の羞恥」を慮(おもんぱか)り。

 意図せず秘め事を暴露された時の「恥ずかしさ」と言うモノを、イヤと言うほど理解出来たから。
「…………」
 もはや言い逃れも出来ない様子で、石化したかの如く固まるイリス。

 そんな彼女の様子を気マズそうに窺う大人たちの姿から、流石のチィックウィードもイタズラで済まされない行為であったと悟り、
「え、えぇ~と……なぉ……」
 バツが悪そうに視線を泳がせていると、固まっていたイリスがやおら静かに歩き出し、イタズラっ子の手から「密かな愛読書」をゆっくり取り返すと、リブロンの下に静々と歩み寄り、
「さ……サイン……書いてもらってイイ……さぁね……」
「は……はい……」
 重苦しい空気の中での、短い会話の数分後、

『いやぁ~ヤッパリ素直が一番さぁねぇ~♪』

 ヤケクソと思えなく無い上機嫌の笑顔で、書いてもらったサインを見つめるイリス。
 しかし、それから更にしばし後、

「はぁ~~~」

 彼女は満面の笑顔から一転した、暗く深い、大きな、それはとても大きな球息を吐いていた。
 茜色に染まった小川の土手に一人座り、落ち込んだ表情で佇みながら。
 有頂天まで上り詰めた彼女が、何故に再びどん底へ落ちたのか。

 その理由はサインをもらった後に遡る。
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