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第六章

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 一夜明け――

 晴れ渡った青空の下、フルール国を目指してひた走る、勇者一行を乗せた馬車。
 その幌付き荷台の中では、

『かぁ~また負けたさぁねぇ~~~!』

 カードゲームに興じるイリスが、今日も連戦連敗街道を突き進んでいた。
 しかしその一方でゲームに付き合いながらも、
「「「「…………」」」」
 そこはかとなく「よそよそしい」と言えば良いのか、わだかまりの様な物を感じさせるパストリス達。

 その微妙な空気は荷台だけでなく、御者台の三人も。
「「「…………」」」
 異様な沈黙の中、ドロプウォートが場を気遣った作り笑顔で、

「きょ、今日も良い天気でぇ、良かったですわねぇ~ニプルぅ♪」

 反対側に座るニプルウォートも、ラディッシュを間に挟んで、

「お、おぅさぁ♪ 雨が降ったらカビが生えちまうからねぇ♪」

 微妙にかみ合わない会話。
「「…………」」
 そんな二人の間に挟まれた「無言のラディッシュ」こそが、この重い空気の発生源であった。

 二人の「お茶を濁した会話」も耳に届いていない様子で、前方の一点を見つめて手綱を握り、
「…………」
 少し暗い表情で何かに思い耽る姿に、イリスを除いた仲間たちは、
「「「「「「「…………」」」」」」」
 掛ける言葉が見つけられず、

(((((ナニを、言われたんだろぉ……?)))))

 連敗に悔しがるイリスをチラ見、昨夜の出来事を思い返した。
 夕食後、女子会の効果か、イリスは和気あいあいとした女子トークに花を咲かせていたが、しばしの時間の後、

「さぁてぇ♪」

 やおら笑顔ですっと立ち上がり、弾んでいた会話の突然の中座に、
(((((?)))))
 女子組が「何事か」と見つめる中、彼女はラディッシュとターナップ男子組の下へ歩み寄り、

「なぁ、ラディ」
「?」
「ちょいと、ツラぁ貸してくれないさぁねぇ♪」
「う、うん……イイけどぉ……?」

 立ち上がるとイリスは森の奥へと歩き始め、彼も後に続いた。
 にわかにザワつき始める仲間達。

(な、何ですのぉ……?)
(何だい……?)
(なんなんでぇす……?)
(何でありんしょう……?)
(パパとイリおねぇちゃん、ケンカなぉ……?)
(兄貴……)

 何ごとか会話を交わしながら森の奥へと消えて行く二つの背を、心配、不安、嫉妬など、様々な感情を、五者五様に交えながら見つめていたが、

『『『『『!!!?』』』』』

 次の瞬間、五人はギョッとした。
 イリスが突然、ラディッシュの胸倉を掴み上げ、彼の背を巨木に叩き付けたのである。

 何がきっかけでその様な事態になったのか、聞き取れなかった会話からでは推測不明であるが。
只ならぬ二人の空気は何人(なんぴと)の介入も許さぬ気配を持ち、幼いチィックウィードでさえ、そのヒリついた空気に駆け寄る事が出来ずにいた。

 二人の間で、どの様な会話が交わされたのか。

 本人達が語らぬ以上、仲間たちに知る術(すべ)は無く、モヤモヤした気持ちを抱えたまま現在に至っていた。
すると重々しい空気の中、唐突に、

『昨日は悪かったぁさねぇ、ラディ♪』

 荷台のイリスが満面の笑顔で何の前振りもなく、御者台のラディッシュの背後から抱き付き、ドロプウォートとニプルウォートがギョッとした一方で、背中に感じた小ぶりながらも確かな二つの「柔らかな膨らみ」に、

『うわぁああぁぁあ!』

 驚いた彼は操作を誤り荷馬車は激しく揺れ、危うく振り落とされそうになる御者台の四人と、荷台で転がる仲間たち。
 しかし、馬車は辛うじて転倒を免れ、

『しっ、死ぬかと思ったぁさぁねぇ』

 真っ青な顔するイリスに、

『『『『『『『それはこっちのセリフだぁ!!!』』』』』』』

 勇者組は苦笑の一斉ツッコミ。
 すると彼女は、流石に少々バツが悪そうに「ははは」と笑って見せながら、

「いやぁ~凹んでるラディを励まそうと思ってさぁねぇ~、昨日ちぃとばっかキツめに叱っちまったからさねぇ♪」
((((((しかった?))))))

 仲間たちの疑問をよそに、ラディッシュは静かに首を横に振り、
「イリィは悪くないよ」
 前置きをした上で、

「僕こそ、暗い顔をしててゴメン。勇者が仲間たちを不安にさせちゃいけないよねぇ」

 仲間たち一人一人の顔を見回し、
「みんなに心配かけないように、勇者としてもっと頑張るから……って言っても何を、どう頑張れば良いかは分かんないけどね♪」
 いつも通りの笑顔に、

「「「「「「…………」」」」」」

 一先ずの安堵を得る仲間たちであった。
 とは言え、二人の間で何が話されたかは結局分からず仕舞い。
 馬車はそれぞれの想いを乗せ、フルール国を目指してひた走った。
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