392 / 706
第六章
6-44
しおりを挟む
一夜明け――
晴れ渡った青空の下、フルール国を目指してひた走る、勇者一行を乗せた馬車。
その幌付き荷台の中では、
『かぁ~また負けたさぁねぇ~~~!』
カードゲームに興じるイリスが、今日も連戦連敗街道を突き進んでいた。
しかしその一方でゲームに付き合いながらも、
「「「「…………」」」」
そこはかとなく「よそよそしい」と言えば良いのか、わだかまりの様な物を感じさせるパストリス達。
その微妙な空気は荷台だけでなく、御者台の三人も。
「「「…………」」」
異様な沈黙の中、ドロプウォートが場を気遣った作り笑顔で、
「きょ、今日も良い天気でぇ、良かったですわねぇ~ニプルぅ♪」
反対側に座るニプルウォートも、ラディッシュを間に挟んで、
「お、おぅさぁ♪ 雨が降ったらカビが生えちまうからねぇ♪」
微妙にかみ合わない会話。
「「…………」」
そんな二人の間に挟まれた「無言のラディッシュ」こそが、この重い空気の発生源であった。
二人の「お茶を濁した会話」も耳に届いていない様子で、前方の一点を見つめて手綱を握り、
「…………」
少し暗い表情で何かに思い耽る姿に、イリスを除いた仲間たちは、
「「「「「「「…………」」」」」」」
掛ける言葉が見つけられず、
(((((ナニを、言われたんだろぉ……?)))))
連敗に悔しがるイリスをチラ見、昨夜の出来事を思い返した。
夕食後、女子会の効果か、イリスは和気あいあいとした女子トークに花を咲かせていたが、しばしの時間の後、
「さぁてぇ♪」
やおら笑顔ですっと立ち上がり、弾んでいた会話の突然の中座に、
(((((?)))))
女子組が「何事か」と見つめる中、彼女はラディッシュとターナップ男子組の下へ歩み寄り、
「なぁ、ラディ」
「?」
「ちょいと、ツラぁ貸してくれないさぁねぇ♪」
「う、うん……イイけどぉ……?」
立ち上がるとイリスは森の奥へと歩き始め、彼も後に続いた。
にわかにザワつき始める仲間達。
(な、何ですのぉ……?)
(何だい……?)
(なんなんでぇす……?)
(何でありんしょう……?)
(パパとイリおねぇちゃん、ケンカなぉ……?)
(兄貴……)
何ごとか会話を交わしながら森の奥へと消えて行く二つの背を、心配、不安、嫉妬など、様々な感情を、五者五様に交えながら見つめていたが、
『『『『『!!!?』』』』』
次の瞬間、五人はギョッとした。
イリスが突然、ラディッシュの胸倉を掴み上げ、彼の背を巨木に叩き付けたのである。
何がきっかけでその様な事態になったのか、聞き取れなかった会話からでは推測不明であるが。
只ならぬ二人の空気は何人(なんぴと)の介入も許さぬ気配を持ち、幼いチィックウィードでさえ、そのヒリついた空気に駆け寄る事が出来ずにいた。
二人の間で、どの様な会話が交わされたのか。
本人達が語らぬ以上、仲間たちに知る術(すべ)は無く、モヤモヤした気持ちを抱えたまま現在に至っていた。
すると重々しい空気の中、唐突に、
『昨日は悪かったぁさねぇ、ラディ♪』
荷台のイリスが満面の笑顔で何の前振りもなく、御者台のラディッシュの背後から抱き付き、ドロプウォートとニプルウォートがギョッとした一方で、背中に感じた小ぶりながらも確かな二つの「柔らかな膨らみ」に、
『うわぁああぁぁあ!』
驚いた彼は操作を誤り荷馬車は激しく揺れ、危うく振り落とされそうになる御者台の四人と、荷台で転がる仲間たち。
しかし、馬車は辛うじて転倒を免れ、
『しっ、死ぬかと思ったぁさぁねぇ』
真っ青な顔するイリスに、
『『『『『『『それはこっちのセリフだぁ!!!』』』』』』』
勇者組は苦笑の一斉ツッコミ。
すると彼女は、流石に少々バツが悪そうに「ははは」と笑って見せながら、
「いやぁ~凹んでるラディを励まそうと思ってさぁねぇ~、昨日ちぃとばっかキツめに叱っちまったからさねぇ♪」
((((((しかった?))))))
仲間たちの疑問をよそに、ラディッシュは静かに首を横に振り、
「イリィは悪くないよ」
前置きをした上で、
「僕こそ、暗い顔をしててゴメン。勇者が仲間たちを不安にさせちゃいけないよねぇ」
仲間たち一人一人の顔を見回し、
「みんなに心配かけないように、勇者としてもっと頑張るから……って言っても何を、どう頑張れば良いかは分かんないけどね♪」
いつも通りの笑顔に、
「「「「「「…………」」」」」」
一先ずの安堵を得る仲間たちであった。
とは言え、二人の間で何が話されたかは結局分からず仕舞い。
馬車はそれぞれの想いを乗せ、フルール国を目指してひた走った。
晴れ渡った青空の下、フルール国を目指してひた走る、勇者一行を乗せた馬車。
その幌付き荷台の中では、
『かぁ~また負けたさぁねぇ~~~!』
カードゲームに興じるイリスが、今日も連戦連敗街道を突き進んでいた。
しかしその一方でゲームに付き合いながらも、
「「「「…………」」」」
そこはかとなく「よそよそしい」と言えば良いのか、わだかまりの様な物を感じさせるパストリス達。
その微妙な空気は荷台だけでなく、御者台の三人も。
「「「…………」」」
異様な沈黙の中、ドロプウォートが場を気遣った作り笑顔で、
「きょ、今日も良い天気でぇ、良かったですわねぇ~ニプルぅ♪」
反対側に座るニプルウォートも、ラディッシュを間に挟んで、
「お、おぅさぁ♪ 雨が降ったらカビが生えちまうからねぇ♪」
微妙にかみ合わない会話。
「「…………」」
そんな二人の間に挟まれた「無言のラディッシュ」こそが、この重い空気の発生源であった。
二人の「お茶を濁した会話」も耳に届いていない様子で、前方の一点を見つめて手綱を握り、
「…………」
少し暗い表情で何かに思い耽る姿に、イリスを除いた仲間たちは、
「「「「「「「…………」」」」」」」
掛ける言葉が見つけられず、
(((((ナニを、言われたんだろぉ……?)))))
連敗に悔しがるイリスをチラ見、昨夜の出来事を思い返した。
夕食後、女子会の効果か、イリスは和気あいあいとした女子トークに花を咲かせていたが、しばしの時間の後、
「さぁてぇ♪」
やおら笑顔ですっと立ち上がり、弾んでいた会話の突然の中座に、
(((((?)))))
女子組が「何事か」と見つめる中、彼女はラディッシュとターナップ男子組の下へ歩み寄り、
「なぁ、ラディ」
「?」
「ちょいと、ツラぁ貸してくれないさぁねぇ♪」
「う、うん……イイけどぉ……?」
立ち上がるとイリスは森の奥へと歩き始め、彼も後に続いた。
にわかにザワつき始める仲間達。
(な、何ですのぉ……?)
(何だい……?)
(なんなんでぇす……?)
(何でありんしょう……?)
(パパとイリおねぇちゃん、ケンカなぉ……?)
(兄貴……)
何ごとか会話を交わしながら森の奥へと消えて行く二つの背を、心配、不安、嫉妬など、様々な感情を、五者五様に交えながら見つめていたが、
『『『『『!!!?』』』』』
次の瞬間、五人はギョッとした。
イリスが突然、ラディッシュの胸倉を掴み上げ、彼の背を巨木に叩き付けたのである。
何がきっかけでその様な事態になったのか、聞き取れなかった会話からでは推測不明であるが。
只ならぬ二人の空気は何人(なんぴと)の介入も許さぬ気配を持ち、幼いチィックウィードでさえ、そのヒリついた空気に駆け寄る事が出来ずにいた。
二人の間で、どの様な会話が交わされたのか。
本人達が語らぬ以上、仲間たちに知る術(すべ)は無く、モヤモヤした気持ちを抱えたまま現在に至っていた。
すると重々しい空気の中、唐突に、
『昨日は悪かったぁさねぇ、ラディ♪』
荷台のイリスが満面の笑顔で何の前振りもなく、御者台のラディッシュの背後から抱き付き、ドロプウォートとニプルウォートがギョッとした一方で、背中に感じた小ぶりながらも確かな二つの「柔らかな膨らみ」に、
『うわぁああぁぁあ!』
驚いた彼は操作を誤り荷馬車は激しく揺れ、危うく振り落とされそうになる御者台の四人と、荷台で転がる仲間たち。
しかし、馬車は辛うじて転倒を免れ、
『しっ、死ぬかと思ったぁさぁねぇ』
真っ青な顔するイリスに、
『『『『『『『それはこっちのセリフだぁ!!!』』』』』』』
勇者組は苦笑の一斉ツッコミ。
すると彼女は、流石に少々バツが悪そうに「ははは」と笑って見せながら、
「いやぁ~凹んでるラディを励まそうと思ってさぁねぇ~、昨日ちぃとばっかキツめに叱っちまったからさねぇ♪」
((((((しかった?))))))
仲間たちの疑問をよそに、ラディッシュは静かに首を横に振り、
「イリィは悪くないよ」
前置きをした上で、
「僕こそ、暗い顔をしててゴメン。勇者が仲間たちを不安にさせちゃいけないよねぇ」
仲間たち一人一人の顔を見回し、
「みんなに心配かけないように、勇者としてもっと頑張るから……って言っても何を、どう頑張れば良いかは分かんないけどね♪」
いつも通りの笑顔に、
「「「「「「…………」」」」」」
一先ずの安堵を得る仲間たちであった。
とは言え、二人の間で何が話されたかは結局分からず仕舞い。
馬車はそれぞれの想いを乗せ、フルール国を目指してひた走った。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる