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第六章

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 夜明け前――

 未だ薄暗い中、石造りで堅牢に作り替えられた村の南門の前に、複数の人影が。
 それは馬に似た動物にまたがるラディッシュ、ドロプウォート、パストリスの三人と、見送りに来たニプルウォート、カドウィード、そしてターナップと手を繋ぐチィックウィードの四人。

 ラディッシュは馬上から見送りに来た四人に、
「じゃあみんな、行ってくるね♪」
 ドロプウォートとパストリスも、
「村の守りをお願いしますですわ♪」
「行ってくるのでぇすぅ♪」
 不安を与えない笑顔を残し、手綱を引いて背を向けると、

『あっ!』

 背後からチィックウィードの短い声が。
「「「?」」」
 振り返ると、ターナップと手を繋いだままのチィックウィードが今にも大泣きしそうな顔でありながら、唇をギュッと噛み締め、本音を必死に堪えてから、

『パパぁ、ママぁ、きをつけてぇ、なぉ♪』

 その健気な姿に、
「「「…………」」」
 心を揺さぶれるラディッシュ、ドロプウォート、パストリス。

 しかし行く先で待っているのは「地世の七草」であり、どの様な罠が待ち受けているかも分からず、その様な危険な場所に愛娘(仮)を連れて行く事には流石に躊躇いを覚え、
「「「…………」」」
 離れたくない本音と、育ての親としての責務の狭間で、掛ける言葉が見出せずに居ると、ターナップがおもむろ、

『チィ坊ぉ、オメェはまだ小さぇんだ』
「!」

 諭されると思い、視線を落とすチィックウィード。
 一緒に行けないのは十分納得していたつもりであり、それを「改めて指摘」されるほど顔に出てしまっていた自身に、幼いながらショックを隠し切れずに居ると、

『オメェは、自分の気持ちに素直で構わねぇんだぞぉ?』

 それは思いもしなかった優しい問い掛け。
「え?!」
 驚き、顔を見上げると、そこにはターナップの穏やかな笑顔が。

 しかしチィックウィードは分かっていた。
 彼もまた、本心では「パストリスと一緒に行きたい」と思っているのを。
 その様な思いを堪えての気遣いをされては、自分だけ「付いて行きたい」などと口に出来ず、

「で、でもぉ……」

 戸惑いを隠せずにいると、ニプルウォートもからかいの笑みを交えながら、
「まぁ、チィが「普通のガキ」だったら止めるさぁ」
 そしてカドウィードまでもが、
「そうでありんすぇ。チィも「新生七草」の一人にぃありんすぇ」
「新生七草かぁ、そりゃイイやぁ♪」
 ターナップが愉快そうに笑ったのを皮切りに、

「アンタも、たまには良い事を言うじゃないさぁ♪」
「たまにはとはぁ失敬でありんすなぁ♪」

 笑い合う三人を前にチィックウィードは、恐る恐る、
「よ、ヨイの……なぉ……?」
 馬上の三人を見上げると、そこにはラディッシュ達の優しい笑顔があり、

『『『おいで♪』』』

 手を伸ばす姿に、チィックウィ―ドは愛くるしい笑顔で走り出した。


 明るくなり始めた森の中を馬で駆けるラディッシュ達――

 チィックウィードは、パパ(仮)であるラディッシュと。
 いつもならママ(仮)であるドロプウォートと共にするのが常であったが、今回の彼女は「エルブ国四大」として、「誓約者」として、勇者であるラディッシュを守るべき立場であるが故に、単身で先陣を切っていた。

 それが彼女にとって「苦渋と苦悩の決断」であったのは、ことさら言うまでも無い話ではあるが。

 しんがりを務めるのはパストリス。
 女子二人に守られる形に、当初は抵抗を試みたラディッシュであったが、置かれた実情と、それぞれの立場を鑑みた「二人の正論」を覆す事が結局出来ず、止む無く従った経緯があった。
 色々細々起こりつつも、おおむね順調に馬を走らせる四人。
 しかし程なく、違和感を覚え始めたドロプウォートが後続のラディッシュ達に、

『あれ程の汚染獣が行軍して来ましたのに、今は全く、その存在を感じませんですわぁ!』

 順調すぎる故に吐露したが、

『罠があるのは承知の上なんだしぃ、むしろ楽に進めてイイんじゃなぁい♪』

 御気楽とも思える物言いに、
(それはそうなのですが……)
 返答に詰まるドロプウォート。
 いつも気弱で、いつも慎重な彼から返った答えが「油断」から出た言葉なのか、それとも数々の実績を重ねた「自信」から生まれた言葉なのか、真意を図り兼ねていると、しんがりを務めるパストリスも、

『汚染獣と少しでも戦わないで済むならぁ、それでヨイのぉでぇすぅ♪』
「!」

 笑顔の至論であった。
 無益な殺生をしない為にも。
 ドロプウォートは戦う前から自ら精神を磨り減らしていた「慎重すぎ」を自嘲し、

『確かにそうですわねぇ♪』

 その憂いの晴れた笑顔に、ラディッシュに包まれ馬にまたがるチィックウィードも、

『そぅなぉ♪ そぅなぉ♪』

 愛らしい笑顔で連呼。
 幼い彼女が、大人の会話を何処まで理解しているかは不明であるが。
 かつて命懸けで何日も費やし踏破した森を、馬にまたがり逆走するラディッシュ達。
「「「…………」」」
 やがて「盗賊村」でもあった「妖人の村」を視界に捉え、

(((こうも簡単に着くなんて……)))

 複雑な思いを胸に、
(((あの日の苦労はいったい……?)))
 今となっては「懐かしき」と言える日々を思い返して苦笑せずに居られない中、村の入り口に辿り着くと馬から降り、付近の木に繋ぎ、

「「「「…………」」」」

 再訪となる三人は、感慨深げに村の奥を見つめた。
 実の姉のように慕うパストリスが生まれ育った村と予め聞かされていて、興味津々、目を丸くする幼子と共に。
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