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第六章

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 インディカ達が村から抜け出した少し後――

 昼食が近いにも関わらず一向に姿を見せない我が子に不安を募らせた親たちが、大司祭の下を訪ね、

「大司祭様、私達の子らが帰って来ないのですが……」
「聞けば最近僧になられたインディカさんと、たいそう仲が良いそうで……」
「何か、心当たりはありませんでしょうか?」

 問われたものの、当然の如くインディカも不在。
 大司祭は困り、

「居れば尋ねも出来たのじゃがぁ、何せアヤツの姿も見当たらぬ故にのぉ……」
(修行をサボって、何処に行ったのじゃ「あの戯け」は!)

 頭を抱えると、親の一人が、
「まさか「不帰の森」に行ったんじゃ……」
 不安をこぼすと他の親も、

「そう言えば、そんな話をコソコソしているのを耳にしたような……」
「私も聞いた!」

 慄き顔を見合わせ、根拠も無しに不安を急く親たちに、

『待つのじゃ!』

 大司祭は一先ずの平静を促し、
「今の村は至る所で拡張工事が行われ、子供が「隠れ遊ぶ」には事欠かんじゃろぉ。村の入り口には門兵も居る。先ずは、村内を探すが優先で、」
『『『ですが!』』』
 不安を拭えぬ親たちが尚も食い下がると、

『森は俺が見て来てやるぜぇ!』

 声を上げたのはターナップ。
 祖父の物言いに苛立ちを覚えた様子で、
「んなぁ悠長な事を言ってぇ手遅れにでもなっちまったらぁどぅすんだぁ、ジジィ!」
 啖呵を切ると、

『そうだね』

 ラディッシュ達も頷きを見せ、
「「「勇者様がたぁ!」」」
 親たちは歓呼の声を上げ、大司祭も、

「ありがとうございますじゃ。宜しくお頼み申します」

 安堵した様子で深々と頭を下げた。
 手早く用意を始めるターナップ。

『行きやしょうぜぇ、ラディの兄貴!』
「そうだね。あの森は暗くなるのも早いから」

 ラディッシュと仲間たちも、引かれる様に準備を始めた。


 汚染獣の群れに付かず離れず追われるインディカ達――

 脚にしがみ付く幼子たちを守りつつ、汚染獣の群れから少しでも離れ、距離を作り、あわよくば逃げ切ろうと考え派手な移動はせず、ゆっくりと、静かな足取りで移動を続けていた。
 向かうべき方角が定まっている訳では無かったが。
 しかし、

(クソがぁ! 一定の距離でぇ付いて来やがるぅ!)

 汚染獣たちは、まるで「邪除けの香炉」の効果が切れるのを待っているかの如く、距離を詰めるでもなく、ひたすらに跡を追って来ていた。

(このままじゃ「ジリ貧」じゃねぇかよ!)

 とは言え、短気を起こす訳にはいかない。
 独り身であったならば「野となれ山となれ」的な発想でも構わないかも知れないが、今は「幼い三つの命」を守るのが最優先。

(突破口が見つかるまでぇぁ逃げの一手ぇのみぃ!)

 改めて腹を括るインディカ。
 しかし、
「な?」
 彼は不思議な光景を目の当たりにした。
 付かず離れず四人の後を移動していた汚染獣の群れが、急に立ち止まったかと思うと、モーゼの十戒のワンシーンを思わせる、海を二つに裂くが如く集団が真ん中から左右に分け広がり始め、

(なっ、なんなんだ?!)

 その知性を感じさせる「統制の取れた動き」に、得も言われぬ薄気味悪さを感じて息を呑むと、開かれた真ん中の花道を通って、

『ごっ、合成獣だとぉ?!!! ウソだろぉオイッ!!!』

 人狼が姿を現したのである。
 人とは明らかに違う、鋭い爪に、鋭い牙、そして赤黒く光る三白眼。
 銀色の体毛を怪しく光らせる、異形の姿。
 初めて眼にした、その禍々しき姿に、その圧倒的存在感に声も出ない子供たちと、

「ばっ、なっ、何でぇ!」
(ここはぁ安全な森じゃなかったのかよぉ?!)

 慄きを隠せず、
(こいつぁヤベェ……マジやべぇ……あの数の汚染獣が相手でもヤベェのに合成獣なぁんてぇ冗談じゃねぇ……)
 後退りかけたが、足にしがみ付く幼子たちの震えで正気を取り戻し、
(ぶるってんじゃねぇオレっち! ガキどもぉ守れぇんのはぁオレっちしか居なぇんだぁ!)
 思考を高速で巡らせ、

「!」

 何かに思い至ると、

(生き残れる可能性は低きぃがぁ喰われるのをジッと待つよりマシだぁ!)
「オラムッ!」

 自身と似た気質を持つ、快活な男の子「トロペオラム」の目線まで屈み、彼の眼を真っ直ぐ見つめ、
「コレを持って二人と逃げろや! 時間は、このオレっちが命に代えて稼いでみせぇる!」
 邪除けの香炉を強引に握らせたが、幼子トロペオラムは当然、

『ムリだよぉ! 兄ちゃんもいっしょに、にげようよぉ!』

 心細さとが相まって懇願したが、インディカはニッと笑って、
「弱音を吐くんじゃねぇよ、オラムぅ。オレっちが「漢(おとこ)」と見込んだオメェが二人を守らねぇでぇ、いったい誰が二人を守んだぁ? それにオレっちぁ、んなぁ簡単にくたばるかよぉ♪」
 額を拳で軽く小突くと、満面の笑顔で一方向を指差し、

「向こうを目指してぇ真っ直ぐ走れぁ。絶っ対ぇ振り向くんじゃねぇぞぉ!」

 背中を軽く押した。
 生き残れる当てなど、ある訳では無かった。
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