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第六章

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 ラディッシュ達が入村手続きの番となり――
 
 かつて村人たちが交代で行っていた門番を、今は国から派遣された「正規の兵士」が担い、関所の兵士は槍を手に御者台へ近づくと、

『「手形」をみせなさい』

 少々上から目線の物言いではあったが、
(門番は、これくらい威圧的じゃないと務まらないよねぇ。世の中にはヘンな人も多いし)
 ラディッシュは理解を示し、不快を抱く事は無かったが、
(……てがた?)
 思いもしなかった指示に、

「「「「「「…………」」」」」」

 仲間たちと顔を見合わせた後、六人は揃って兵士に、

「「「「「「どうぞ♪」」」」」」

 掌を開いて見せた。
 当然の如く、

『誰が「手相(てそう)を見せろ」と言ったぁあ!!!』

 マジギレされ、
「「「「「「あっ!」」」」」」
 勘違いに気付いたが、融通が利かなそうな面立ちの兵士は「類が友を呼び天然を見せただけ」などと生温かくは思ってくれず、馬鹿にされたと思い込んでいきり立ち、

『惚(とぼ)けおってぇキサマ等ァ! 「入村手形」に決まっておろうがぁあっ!!!』

 しかしその様に面罵されても「手形の存在」など初耳で、ラディッシュは素直に、
「すっ、すみません、持って無いんですけどぉ?」

『持って無ければ入れる筈がなかろうが! 怪しい奴らめぇ!』

 すっかり不審者扱い。
 矛先まで向けられると、騒ぎを聞きつけた他の兵士たちが、

『『『モメ事かァ!』』』

 続々とやって来て、行列に並ぶ人達もサワサワと騒ぎ出し、事は次第に大ごとになり始め、
(困ったなぁ~僕たちは、タープさんの村に入りたいだけなのにぃ……それにしても王様もオエナンサ卿も酷いよぉ~教えてくれないなんてぇ~)
 嘆いてみても現状が好転する訳もなく、
(困ったなぁ~)
 どうしたものかと困惑していると、兵士の一人が荷馬車の側面に描かれた紋章に目を留め、

『こっ、この紋章はオエナンサ家の!』

 驚愕し、
(やったぁ♪ これで身の証しが、)
 立てられると、仲間の誰もが安堵したのも束の間、門兵たちは迷い無く、

『『『『何処から盗んで来た不埒者めぇ!!!』』』』

 一斉に槍先を向け、今度はドロボー呼ばわり。
 すると、
『ぬぅわぁんですってぇえ!』
 怒りのオーラを立ち昇らせ、ゆらりと立ち上がったのはドロプウォート。
 手相を見せた「自身の不敬」は棚に上げ、盗っ人扱いされた事に腹を立て、御者台の上から、

『穏便に済ませようとラディに任せていましたのに……貴方たち調子に乗り過ぎですわぁ!』

 鬼神如き爛々とした眼光で兵士たちを睨み見下ろすと、見下ろされた兵士たちは、
((((ひぃ!))))
 思わす怯んだが、
((((わっ、我らはこの村を守る兵士ぃだぁ!))))
 高き誇りを胸に、

『てっ、抵抗する気かぁ!』
『ほっ、捕縛するぞぉ!』
『わっ、我らに歯向かうは逆賊を意味するぞ!』
『たっ、タダで済むと思うなよぉ!』

 己を奮い立たせ必死の威嚇を試みた。
 しかしドロプウォートも、自らの家名を使って「泥棒呼ばわり」されては、エルブ国四大貴族が一子である自負からも、おいそれと引き下がる訳にはいかず、

『オエナンサ家の一人娘であるワタクシに良い度胸ですわぁ!』
「ひっ、怯むなぁ!」

 凄んで見せると兵士の一人が「気声」と呼べる気勢を上げ、

「俺はオエナンサ家の奥様と話した事がある! あの様に気品あふれる方の御息女が、この様な「下品」である筈がなぁい!」
『げひっ?!』

 何気にショックを受けるドロプウォートと、噴き出し笑いを必死に堪えるニプルウォート達。
 笑ってしまっては「流石に彼女に悪い」と思っての配慮ではあったが、堪え切れずに小さく噴き出し、ラディッシュも堪え切れずに小さく噴き出すと、

『ッ!』

 悔し気に振り返るドロプウォート。
 瞬時にサッと目を逸らす仲間たち。
 素知らぬ顔してソッポを向き、笑った事を誤魔化していると、

『これは「何の騒ぎ」じゃなぁ!』

 関所の奥から、聞き覚えのある男性の声が。
「「「「!」」」」
 兵士たちが振り返るが先か、

『ジジィイィ♪』

 ターナップが満面の笑顔で、兵士たちが制止する間もなく馬車から飛び出し、関所の奥からは、この村の大司祭である彼の祖父が、負けず劣らずの笑顔満面で、

『小僧ぉおぉ♪』

 駆けて来て、祖父と孫の久々となる感動の再会であったが、満面の笑顔の「二人の距離」が近付くや否や、二人の目つきはギラリと急変し、

『まだ生きてやがったのかクソジジィイイィイイィィイィイ!』
『ぬかせぇ、この馬鹿孫がァアァッァァァァ!』

 互いに渾身の右拳を放ち合い、周囲が騒然とする中、二人の拳は「互いの左頬」をしかと打ち抜き、

「むぐくっ!」
「チッ!」

 互角のダメージで互いに少し膝を落とすと、サッと距離を取り合い、

『痛ぇなぁこの妖怪ジジィ! さっさと落ちぶれやがれぇってんだァ!』
『ぬかせぇ! 青二才の馬鹿弟子がぁ!』

 殴り合いを再開しそうな罵り合いを展開したが、そこはかとなく嬉しそうにも見える二人。
 狼狽するラディッシュが、

「ど、どうしようぉ、ふ、二人を止めなきゃぁ」

 オロオロしていると、ニプルウォートが呆れ笑いを浮かべながら、
「脳筋一家なんだろう? 好きにやらせときゃぁイイのさぁ」
 カドウィードも、
「あれが二人流の「心の交流」なのでぇありんしょぉ」
 妖艶な呆れ笑いを浮かべると、門兵の一人がおずおずと、

「あ、あのぉ、大司祭さま……」

 大司祭の知人と思しき一団を、犯罪者集団扱いしてしまったが為に、何とも気マズそうに、
「こちらの方々は、そのぉ……」
 すると大司祭は「ふぉふぉふぉ」と一笑いしてから、
「何を隠そうワシの「馬鹿孫」なのじゃよ」

((((わ、若司祭さまぁ!!!?))))

「「馬鹿」は余計だ、ジジィ!」

 慄く門兵たちと、即でツッコミを入れるターナップ。
 その気心の知れたやり取りに、門兵たちには共通の気掛かりがあった。
 それは、

((((お、大司祭さまの御孫さまの「若司祭さま」って確か……))))

 自分たちが「とんでもない相手」に、「とんでもない無礼」を働いた事実に気付きながらも、その現実から目を背ける様に、一縷の思い違いに望みを託し、

「お、大司祭さまの「お孫様」はぁ、確か勇者様御一行として旅に出られたのではありませんかぁ?」

 大司祭の冗談話として済ませようとしたが現実は容赦なく、それまで気さくな物言いであった大司祭は恭しく、

「そちらに御座(おわ)すが、勇者様御一行じゃ」

 即座に、
『『『『申し訳ございませんでしたぁぁぁああぁあぁ!』』』』
 一斉土下座の門兵たち。

 その余りの変わり身の早さに、猛るドロプウォートも面を食らい、
「まっ、まぁ分かれば良いのですわぁ分かればぁ。こちらに不手際があったのも否めませんですしぃ」
 お茶を濁すと、入村を許可されたラディッシュ達は、ターナップの故郷へと足を踏み入れた。

(あんな「顔だけイケメン」の弱そうなのが、勇者?)
(豊満だけど鬼女みたいなのが、四大様の御令嬢?)
(勇者一行が、幼女に子連れ?)
(娼婦みたいのとか、素行が悪そうなのとか、あれが本当に勇者一行なのか?)

 未だ信じられぬ様子の門兵たちに見送られながら。
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