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第五章

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 勇者一行の雄姿に、御歴歴一同は「動じた心」を期せずして救われ、ほっと胸をなでおろす。
 地世の七草の一人と言えど、拘束具を着せられた状態で勇者一行に行く手を阻まれては逃れる術は無く「問題は早期解決を見る」と思ったから。
 しかしフリンジは、両眼をつぶったままの口元に笑みさえ浮かべて平然と、

「残念ですが、今はソチラに構っている暇などないのですよ」
(((((((?!)))))))

 真意を測りかねるラディッシュ達。
 一戦も交えず、彼はこの状況から如何に逃走しようと言うのか。
(どう言うつもりなんだろぉ……)
 得も言われぬ不気味さを感じていると、彼は突然、

 ドカァ!
『『『『『『『ッ!』』』』』』』

 証言台をラディッシュ達に目掛けて激しく蹴り飛ばし、七人が飛び退きかわすと同時、
≪出(い)でませ出(い)でませ我らが地世王のチカラァ!≫
 地法の詠唱を早詠みし、

(((((((しまったぁ!)))))))

 焦る七人を尻目に、その身を漆黒の輝きで包むと拘束具を黒い炎で焼き尽くして、

≪開門!≫

 右手を足下に向けて振り下ろし、そこには「ごみ箱」が。
 いつから証言台の裏に、隠し置かれていたのか。

 しかし今は考えを巡らせている時では無く、しかも、
(((((((!)))))))
 投入口から黒煙が勢いよく噴き出し、地世のチカラを感じ取るドロプウォートたち勇者組。
 即座に天法を各々発動して元老院の御歴歴一同の前に展開、白銀の輝きを放つ障壁を構築し、襲い来る「地世の黒煙」から護り、正体が「妖人」であるパストリスも、

(ボクの中の「地世のチカラ」が解放されないように気を付けるでぇす!)

 ラミウムに施された、内なる「天法の鍵」が外れない程度に天法を使い、障壁を構築して御歴歴を護った。
 事前の示し合わせなど無いにもかかわらず、流れるように繰り出された連携対応に、黒煙のただ中に立つフリンジは、

『素晴らしいよ、現「勇者」諸君!』

 手を叩いて拍手し、賛辞を贈り、小馬鹿にしている感が否めない中、彼は両眼をつぶったまま恭しく頭を下げ、
「ではまた、いずれ何処かで」
 逃避を窺わせたが、

『逃がさなァい!』

 煙幕の如き「地世の黒煙」から飛び出して来たのは、天流護聖剣を手にした、白き輝きを放つラディッシュ。
 勢い任せに、漆黒の輝きを放つフリンジに大上段から斬り掛かったが、

 ギィキィイーーーン!

 彼はいとも容易く、よける動作も無く、袖の下に隠したナイフで受け止め、

『『ッ!』』

 せめぎ合う「白」と「黒」の輝き。
 ほとばしる雷光。
 二つの異なるチカラが激しくぶつかり合う中でフリンジは、余裕の笑みで以て、

『その様に腰の入っていない「苦し紛れの一刀」など、当方の身に通りはしない』

 皮肉を言ってのけると、続けるように小声で、
(〇〇〇〇〇〇〇?)
 何事かを問うた。

「な?!」

 思わず動揺を見せてしまうラディッシュ。
 フリンジはそれを見逃す事無く、

 ギャァリン!

 弾き返し、弾かれたラディッシュは体勢を立て直す為に一旦距離を取り、
「くっ!」
 隙を見せてしまった自身への腹立ちも込みで、悔し気に彼を睨んだ。

 とは言え今は、凄みを利かせている場合では無い。

 何故なら敵は、逃走を企てているのだから。
 その様な相手に時間的アドバンテージを与えるのは愚策でしかなく、黒煙のただ中で漆黒の輝きを放つフリンジは当然の如くひょうひょうと、
「では、これにて失礼」
「しまった!」
 白き輝きを放つラディッシュは慌て、

『まっ、待てぇ!』

 追撃の一刀を放とうと駆け迫ったが、
「あっ!」
 あと一歩及ばず、彼は全ての黒煙と共に投入口へ吸い込まれる様に消えて行った。
 ドロプウォート達が張った障壁で守られる「新たな旗頭チョウカイ」に、閉じた目で一瞥くれながら。
「くぅ!」
 床に手をつき、奥歯を噛み締めるラディッシュ。

 怒りの感情を露わにすることの少ない彼が見せた憤怒の背を、仲間たちが不安げに見守る前で、
 ダァン!
 床を激しく叩くと、やおら立ち上がり、
「…………」
 犠牲になった天世の人々の姿を思い起こしながら、静まったごみ箱を睨み、

 サァキィイィィイイイィィン!

 瞬速の一刀。
『フリンジ! 次は逃がさなぁい!』
 決意を新たにした。
 真っ二つに斬り裂かれて床に転がる、ごみ箱を見下ろしながら。

 するとチョウカイから、予想もしなかった一言が。

≪やはり貴方たちは危険だわ≫
(((((((え?!)))))))

 ラディッシュ達が振り向くが先か、

『近衛ぇ!』

 彼女は近衛隊を呼び寄せ、

「勇者一行に、今すぐ御帰りいただきなさい!」
「「「「「「「なっ!」」」」」」」

 元老院において唯一友好的と思われた彼女の、突然の反旗。
 ラディッシュ達に「何故」と問う間も与えず、

「やはり貴方たちを天世に招くべきでは無かったのです!」
(((((((そっ?!)))))))

『貴方たちが天世に足を踏み入れたが故に、これまでの事態は起こったのです!』
(((((((そんな!)))))))

 失意の七人はそのまま、近衛隊に責付(せつ)かされるように、天世に入ったゲートを使って中世に送り返された。
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