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第五章

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 一夜明け――

 うららかな春を思わせる陽気にも似た陽の光が降り注ぐ青空の下、船頭役のスパイダマグに続き、天世の中心地である天宮(てんきゅう)の門前町、聖都「プロンズアルピニス」をそぞろ歩くラディッシュ達。
 案内役の船頭と言えば聞こえは良いが、ようは七人の動向監視と行動制限を元老院から命じられた「御目付け役」であった。

 エーゲ海に浮かぶサントリーニ島の街並みを彷彿とさせる、白亜の家々。
 道にはごみの一つも落ちておらず、純白で彩られた美しき町の景観も特筆すべき光景ではあったが、それ以上に感じた中世との違いとは、

((((((露店が無い?))))))

 天宮の門前町と言う、華々しい肩書を持っているにもかかわらず。
 小売店らしき建物は軒を連ねている。

 しかし売り子の威勢の良い掛け声が飛び交う事も無く、だからと言って「買い物客が居ないのか」と言うと、その様な訳でもない。
 中心地として相応の人出があり、多くの人々が行き交ってはいるのだが、各々声を上げる事も無く黙々と歩き、買い物を済ませ、町の印象を総じて言うなら、

((((((異様に静か……))))))

 無数の足音だけが耳に残った。
 大都会らしい、他人を寄せ付けない、ピリピリとした空気が漂っている訳では無い。
 むしろ町を行く人々の表情は穏やかに見え、単に「会話を交わす必要性を感じていない」ように思えた。

 悪し様に言うなら「好奇心」が、感情から欠落していると。

 同じ色の眼に、髪の色、そして男女に多少の差はあるものの同じ服。
 あげく表情まで一様で、ハッキリとした違いが窺えるとすれば、髪型と身長差くらいであろうか。

 コピー&ペーストで増やした様な人々の中を歩く、「髪の色」も「目の色」も、その他マチマチなラディッシュ達。
 服装こそ天世人に揃えて来たが、町から完全に浮いた存在で、

((((((なんか場違い……))))))

 居心地の悪さを抱いていた。
 その一方で、一人興奮気味で居たのはチィックウィード。

 眼にする物の全てに興味を示し、両手を繋ぎ歩く当惑笑いのラディッシュとドロプウォートが手を放そうモノなら「迷子は確定」であるのを窺わせた。
 落ち着かせる為にもスパイダマグから許可を得て、店の一つでも入ってみれば良いのだが、そこは対人関係に些か問題を抱えた一団。
 得体の知れない店に「自ら足を踏み入れる」のに躊躇いを覚える以前に、

(ぼ、僕達、ヘンに見えてないかなぁ……)
(わ、私達、絶対に浮いて見えてますわよねぇ……)
(め、目立たないようにするのでぇすぅ……)
(う、ウチらぁやっぱぁ目立つのさぁ……)
(ら、ラディからの視線でしたら歓迎ですのにぃ……)
(な、何かぁ尻がむず痒いっスぅ……)

 自意識過剰的に周囲をチラ見。
 挙動不審に陥ると、元より好奇心が薄くラディッシュ達にさえ気付いていなかった町の人々の意識も、目の端でそんな動きをされれば向かわない筈がなく、
「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」
「「「「「「ッ!?」」」」」」
 眼が合ってしまったラディッシュ達がギョッとした途端、物静かであった町に、

『あっ、あの御方は!』

 女性の声が高らかに響き続けざま、

『本当だぁ!』
『間違いない!』
『救世主さまだ!』
『天世を守って下さった御方だぁ!』

(え?! ぼっ、僕たちの事ぉ?!)

 上がる歓声にラディッシュが嬉し恥ずかし、仲間たちと照れ交じりの困惑笑いを向け合っていると、

『『『『『『『『『『救世主様ぁ~~~~~~♪』』』』』』』』』』

 町の人々が好感を以て一斉に駆け寄って来て、
(あは、あはははは。こんな時って、どんな顔して受け答えれば良いんだろぉ♪)
 嬉しさを隠し切れずにいた中、駆け寄って来た町の人々は満面の笑顔で、

『『『『『『『『『『ありがとうございました、スパイダマグ様ぁ♪』』』』』』』』』』

 スパイダマグに一斉に群がり、
(((((((へ?!)))))))
 勇者一行は呆気にとられる間も無く、素気無く弾き飛ばされ、

(((((((どぉ、どういうことぉ???)))))))

 訳が分からずキョトンとしていると、満面の笑顔の民衆に囲まれ「もみくちゃ状態」の彼は慌てた様子で、
「ちっ、違うのです皆様ぁ、聞いて下さい! 本当に天世を守って下さったのは、そちらに御座す勇者様方御一行で、自分は!」
 訂正を表明したが民衆は、

「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」

 冷めた眼差しで勇者たちを一瞥するなりスグさま向き直り、再び満面の笑顔で、

「「「「「「「「「「過ぎた謙遜は嫌味ですよ~救世主さまぁ♪」」」」」」」」」」

 全く聞く耳を持たず、
『だからぁ違うのですよぉ~~~~~~!!!』
 彼の虚しい嘆きが青空にこだました。
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