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第五章

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 話はハクサンが死してしばし後のアルブル国に――

 王都は壊滅し、国の象徴たる王族を失い、国政を担う重臣さえも失った彼(か)の国は指導者が不在となり、国民は周辺諸国からの侵略の危機に日々怯え、不安と混沌を抱えた中、防波堤となり、支えとなったのは「勇者ラディッシュ達」を中心とした、未だ復興のただ中にあったエルブ国、カルニヴァ国、そしてフルール国であった。

 天世より「中世の安寧」を託された「運命共同体の四国」にありながら、長らく続いた魔王の進攻が無い安穏たる日々により使命を忘れ、国益を優先するあまり不仲となってしまっていた四国ではあったが、エルブ国を始めとする三国はアルブル国に共同で臨時政府を立ち上げ、人的にも、経済的にも献身的に支援を行った。

 しかし「ハクサンの事変」により雨降って地固まり、長年のわだかまりが完全に消えた、訳では無い。
 支援活動には共同で従事しつつも、被災国アルブルに対してのみならず他国を快く思わない者も多数存在した。

 各国に敵視政策や教育があった訳ではないが、開戦寸前の緊張関係が長く続いていたのだから、風潮としてやむを得ないと言える。
 その「わだかまり」から生じるであろう作業の遅れや、不要のトラブル発生を未然に回避する為、各国の王から直々に白羽の矢を立てられたのは、ドロプウォートとニプルウォート、そしてカドウィードの三人。

 それぞれ自国の指揮官としてタクトを振るったが、少々問題があったのがカドウィード。
 ドロプウォートとニプルウォートに関しては自国で「名の通った実績」があるので、派遣された兵士や職人たちも協力的であったが、カルニヴァ国から派遣された者達にとって指示を出す彼女は、正直な話で「誰?」と言うのが率直な感想であった。

 だからと言って処刑された事になっている彼女が、正体を明かす訳には当然いかず「カルニヴァ王家の遠縁」と言う偽りの肩書の下、半ば強引に納得してもらって指揮を執り続けた。

 三人の連携の取れた陣頭指揮により、町の復興のみならず、国の立て直しを、一歩一歩着実に進めるアルブル国。
 その中でパストリスとターナップは、病院と呼ぶにはお粗末な仮設テント内で怪我人の治療に当たり、ラディッシュは幼いチィックウィードを助手に、派遣された料理人や町の人々と共に、戦渦に巻き込まれて、家や職を失った人々の為の「炊き出し」に従事していた。

 勇者一行の仲間でありながら、会って話す事さえままならない程の忙しい日々を、各々送るラディッシュ達。

 そんなさ中でも、七人には一つの約束ごとが。
 それは、

『ただいま帰りましてですわ♪』

 満面の笑顔で扉を開けたのはドロプウォート。
 厨房に立つラディッシュと、手伝いのチィックウィードが、
「お帰り♪」
「ママ、おかえりなぉ♪」
 笑顔で顔を覗かせると、続けて、
「いやぁ~腹減ったさぁ~」
「ニプルさぁん、アナタの言葉遣いはなってなくて、ですのよ」
「口調がヘンなトコに着地した、オマエさんに言われたくないねぇ♪」
「何ですって、ですのよぉ!」
 ニプルウォートとカドウィードが、モメながら帰って来て、
「うまそうなニオイがするっスねぇ♪」
「ただいま、なのでぇす♪」
 ターナップとパストリスも帰って来て、

『みんな、お疲れ様ぁ♪』

 笑顔のラディッシュが食卓に着く仲間たちの前に、
「今日は久々に新鮮な野菜が買えてね」
 出来上がった料理を、たどたどしく運ぶチィックウィードと共に並べ終えると、二人並んで着席し、

「いただきまぁす♪」
「「「「「「いただきまぁ~す♪」」」」」」

 七人揃っての食事を始めた。
 約束ごととは、

≪夕飯は七人揃って食べる≫

 例え、どれほど忙しくとも。
 目紛るしく過ぎ去る一日の中、その日にあった「笑い話」や「苦労話」を、食事をしながら語り合う。

 多忙な七人にとって「貴重な癒し」とも言える時間において、ニプルウォートがおもむろ、思い出したように、
「そう言やぁさ、最近、スパイダマグ達をすっかり見なくなっちまったさぁ」
「結構な事ですわぁ! 差別を助長する天世に行くなどぉまっぴら御免ですわぁ!」
 不機嫌顔するドロプウォートに、苦笑するラディッシュ達。

 ハクサンを倒して後の日々を思い返す。
『待って下さぁい、勇者様方ぁあ! 天世を守って下さった謝意を御伝え致したく! 是非に、是非に天世に来てはもらえぬでしょうか!!!』
 スパイダマグ達、天世の親衛隊に四六時中追い回された困惑の日々を。

 それぞれの故国からも「申し出を受けて欲しい」との「要請」はあったが強制ではなく、強制ではないが故にラディッシュ達も復興事業を理由に拒み続けていた。
 しかし「行きたくない理由」は、ソレだけでは無かった。

 ターナップが「天世の司祭」と言う立場にありながら、不愉快そうに小さく舌打ちしながら、
「いつもなら有無を言わさず「来い」って言いそうな連中がぁよ」
「強制じゃないなんて「怪しい」のでぇす」
 パストリスとヤレヤレ笑いを浮かべて首を横に振ると、カドウィードもため息交じり、
「まったく、なのですよぉ。関わりに合いになりたくない「内輪モメ」が透けて見えて、なのですよ」
 呆れ笑った。
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