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第五章
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自席で執務に当たるクスキュート。
ミトラの苦悩を知ってか知らずか、気に病む様子も、気にする風もなく、変わらぬ無骨な無表情で書類にペンを走らせていると、
『彼は使えそうかね?』
その手を止めたのは、ソファーで茶をすすりくつろぐミナー。
卑劣な企ての首謀者は、
「機関の設立に時間をかけていては、他国に先を越されるやも知れぬぞ。それでなくとも我が国は敗戦により諜報員の多くが捕えられ、情報戦において後れを取っておるからな」
辟易顔を見せたが、クスキュートは平然とした様子で書類に再びペンを走らせながら、
「大丈夫でしょう。良くも悪くも少佐は責任感の強い兵士です」
「?」
「動き出した作戦は「もはや歩みを止めない」のを知っている賢い少佐は、子供たちを守ろうと考え、名乗りを上げるでしょう」
「そうであると良いのだがな。何せ、前の施設で重責を担っていた職員の多くは処刑され、処刑を免れた者も、未だ監獄の中だ。キャシート・フィリィフォームが生きておれば……」
困った様子のボヤキをこぼすと、クスキュートがペンを止め、
「施設を立ち上げた当事者でありながら、司法取引で彼を差し出し生き残った私達が言えた義理ではないでしょう?」
闇を感じる微かな笑みを口元にのみ浮かべると、ミナーも、
「確かにぃ」
不敵な笑みを返した。
従属国扱いした近隣諸国から幼子をさらい、兵士としての育成や、人体実験を行っていた施設を立ち上げたのは、この二人であった。
しかし用心深い二人は立ち上げ当初より施設との関係を窺わせる証拠を残さず、作らず、戦後に戦犯捜査をしていたアルブル国の調査団は、二人の罪を問う裁判の公判を維持するのは証拠不十分で不可能と断念。
分かり易い成果を手っ取り早く上げ、近隣諸国の荒ぶる民意を鎮めようと、二人に司法取引を持ち掛け、結果としてキャシート・フィリィフォームを始めとする施設職員たちが取引材料として差し出されたのであった。
まかり、ミトラがその事実を知っていたならば、先の会談は悍(おぞ)ましき惨状と化したであろう事は想像するに難くない。
クスキュートは、
「それより……」
ペンを静かに置くと、
「アチラの方々は大丈夫なのだろうか?」
真上を見上げた。
それは、アルブル国に侵攻する事による「天世の怒り」を懸念してのモノであったが、
「大佐は、エルブ国が襲撃を受けた時、天世が示した「天啓」を気にしているのかね?」
ミナーは彼の危惧を笑い飛ばす様に、
「心配し過ぎだろう、大佐。そもそも天世は「アルブルに手を出すな」とまでは言っていない」
「…………」
子供染みた「揚げ足取り」としか思えない物言いを、クスキュートが黙って聞いていると彼は更に、
「天啓を示したのはエルブが「勇者降臨の地」だからであって、元より天世は中世に興味など無いのだよ。副都心の如き立ち位置程度のアルブルに何かあったところで、まぁ気に入らなければ文句の一つでも言って来るだろう?」
何処から来る余裕なのか流暢に天世を軽んじ、批判するかの様な皮肉まで言ってのけた。
思い上がりとしか思えない口振りに、
「…………」
表情にこそ出さなかったが、言い知れぬ不安が増すクスキュート。
そんな様な折、
(?)
急に騒がしくなり始める窓の外。
「何事だ?」
不審に思い、不遜な一人語りを続けるミナーに、
「ちょっと失礼」
一礼してから窓辺に立ち、
「…………」
階下を見下ろした。
(なんだ?)
そこには、空を指差し、戸惑いの声を口々に上げる兵士たちの姿が。
するとミナーも気になったのか、立ち上がって窓辺に近づき、
「どうかしたのかね、大佐?」
「さて、何なのでしょう?」
兵士たちが見つめる空を見上げ、
『なっ!?』
驚愕の声を上げ、釣られて見上げたミナーも、
『何なのだ、あの「光」はぁあ!』
愕然を以て空を見た。
首都パラジクス上空の全てを、巨大な「白き輝き」が覆い尽くしていたのである。
自室で猛り狂っていたミトラも部屋が上階ゆえに、空の異変に気付いて窓を開け放って上空を見上げ、堪える事が出来なかった怒りも流石に忘れ、
「なっ、何が起きようとしてるんだぁ!?」
慄きを隠せない中、天を覆う「白き輝き」の中から、
≪愚かなるかな中世人よ。これは天世の意に背きし罪人に対する「天罰」なり!≫
声が降り注ぐと同時、その巨大な輝きは徐々に高度を下げ始め、
『にっ、逃げろぉおぉぉぉおぉ!』
蜘蛛の子を散らす様に、一斉に走り出す町の人々。
しかし町全体を覆って更に余りある巨大な輝きからなどから、いったい何処へ、どのように逃れようと言うつもりのか。
折しも「天世を嘲る会話」を交わしていたクスキュートとミナーは徐々に迫る光を畏れ慄いた表情で見上げて固まり、一方で自室のミトラは徐々に迫る輝きを前に、
「ふはは……ふぁはははっははははっはぁははははあははぁははあはっは♪」
狂気の笑顔で笑い出し、
『ありがとう天世様ぁあぁ!』
自身の全てを捧げるように天を仰いで両腕を広げ、
『こんな国を世界から消し去って下さってぇええっぇぇえぇえぇぇえぇーーーーーー♪』
やがて光はパラジクスの全てを覆い、町を、人々を、一瞬にして灰燼に帰し、その場には巨大なクレーターだけが残った。
最初から町など存在していなかったかのように。
ミトラの苦悩を知ってか知らずか、気に病む様子も、気にする風もなく、変わらぬ無骨な無表情で書類にペンを走らせていると、
『彼は使えそうかね?』
その手を止めたのは、ソファーで茶をすすりくつろぐミナー。
卑劣な企ての首謀者は、
「機関の設立に時間をかけていては、他国に先を越されるやも知れぬぞ。それでなくとも我が国は敗戦により諜報員の多くが捕えられ、情報戦において後れを取っておるからな」
辟易顔を見せたが、クスキュートは平然とした様子で書類に再びペンを走らせながら、
「大丈夫でしょう。良くも悪くも少佐は責任感の強い兵士です」
「?」
「動き出した作戦は「もはや歩みを止めない」のを知っている賢い少佐は、子供たちを守ろうと考え、名乗りを上げるでしょう」
「そうであると良いのだがな。何せ、前の施設で重責を担っていた職員の多くは処刑され、処刑を免れた者も、未だ監獄の中だ。キャシート・フィリィフォームが生きておれば……」
困った様子のボヤキをこぼすと、クスキュートがペンを止め、
「施設を立ち上げた当事者でありながら、司法取引で彼を差し出し生き残った私達が言えた義理ではないでしょう?」
闇を感じる微かな笑みを口元にのみ浮かべると、ミナーも、
「確かにぃ」
不敵な笑みを返した。
従属国扱いした近隣諸国から幼子をさらい、兵士としての育成や、人体実験を行っていた施設を立ち上げたのは、この二人であった。
しかし用心深い二人は立ち上げ当初より施設との関係を窺わせる証拠を残さず、作らず、戦後に戦犯捜査をしていたアルブル国の調査団は、二人の罪を問う裁判の公判を維持するのは証拠不十分で不可能と断念。
分かり易い成果を手っ取り早く上げ、近隣諸国の荒ぶる民意を鎮めようと、二人に司法取引を持ち掛け、結果としてキャシート・フィリィフォームを始めとする施設職員たちが取引材料として差し出されたのであった。
まかり、ミトラがその事実を知っていたならば、先の会談は悍(おぞ)ましき惨状と化したであろう事は想像するに難くない。
クスキュートは、
「それより……」
ペンを静かに置くと、
「アチラの方々は大丈夫なのだろうか?」
真上を見上げた。
それは、アルブル国に侵攻する事による「天世の怒り」を懸念してのモノであったが、
「大佐は、エルブ国が襲撃を受けた時、天世が示した「天啓」を気にしているのかね?」
ミナーは彼の危惧を笑い飛ばす様に、
「心配し過ぎだろう、大佐。そもそも天世は「アルブルに手を出すな」とまでは言っていない」
「…………」
子供染みた「揚げ足取り」としか思えない物言いを、クスキュートが黙って聞いていると彼は更に、
「天啓を示したのはエルブが「勇者降臨の地」だからであって、元より天世は中世に興味など無いのだよ。副都心の如き立ち位置程度のアルブルに何かあったところで、まぁ気に入らなければ文句の一つでも言って来るだろう?」
何処から来る余裕なのか流暢に天世を軽んじ、批判するかの様な皮肉まで言ってのけた。
思い上がりとしか思えない口振りに、
「…………」
表情にこそ出さなかったが、言い知れぬ不安が増すクスキュート。
そんな様な折、
(?)
急に騒がしくなり始める窓の外。
「何事だ?」
不審に思い、不遜な一人語りを続けるミナーに、
「ちょっと失礼」
一礼してから窓辺に立ち、
「…………」
階下を見下ろした。
(なんだ?)
そこには、空を指差し、戸惑いの声を口々に上げる兵士たちの姿が。
するとミナーも気になったのか、立ち上がって窓辺に近づき、
「どうかしたのかね、大佐?」
「さて、何なのでしょう?」
兵士たちが見つめる空を見上げ、
『なっ!?』
驚愕の声を上げ、釣られて見上げたミナーも、
『何なのだ、あの「光」はぁあ!』
愕然を以て空を見た。
首都パラジクス上空の全てを、巨大な「白き輝き」が覆い尽くしていたのである。
自室で猛り狂っていたミトラも部屋が上階ゆえに、空の異変に気付いて窓を開け放って上空を見上げ、堪える事が出来なかった怒りも流石に忘れ、
「なっ、何が起きようとしてるんだぁ!?」
慄きを隠せない中、天を覆う「白き輝き」の中から、
≪愚かなるかな中世人よ。これは天世の意に背きし罪人に対する「天罰」なり!≫
声が降り注ぐと同時、その巨大な輝きは徐々に高度を下げ始め、
『にっ、逃げろぉおぉぉぉおぉ!』
蜘蛛の子を散らす様に、一斉に走り出す町の人々。
しかし町全体を覆って更に余りある巨大な輝きからなどから、いったい何処へ、どのように逃れようと言うつもりのか。
折しも「天世を嘲る会話」を交わしていたクスキュートとミナーは徐々に迫る光を畏れ慄いた表情で見上げて固まり、一方で自室のミトラは徐々に迫る輝きを前に、
「ふはは……ふぁはははっははははっはぁははははあははぁははあはっは♪」
狂気の笑顔で笑い出し、
『ありがとう天世様ぁあぁ!』
自身の全てを捧げるように天を仰いで両腕を広げ、
『こんな国を世界から消し去って下さってぇええっぇぇえぇえぇぇえぇーーーーーー♪』
やがて光はパラジクスの全てを覆い、町を、人々を、一瞬にして灰燼に帰し、その場には巨大なクレーターだけが残った。
最初から町など存在していなかったかのように。
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