292 / 706
第五章
5-6
しおりを挟む
特別扱いの新人に嫌がらせのつもりで、「研修先」としての受け入れを承諾した筈のキャシート・フィリィフォーム。
しかし、その浅はかとしか言えない短慮は、ミトラを精神的に成長させ、密かに子供たちを守ろうと画策する彼の前で「思うままの実験」がやり辛くなり、自らの首を絞める結果となった。
両者は事ある毎に意見を衝突。
対立の構図は日増しに深まったそんな折、青天の霹靂が。
A四サイズ程の紙を手に、
「そ、そんな……」
わななくのは、ミトラ。
そんな彼の姿を目にしたキャシート・フィリィフォームは「グシッシッシッシッ」と下卑た笑いを一つすると、
「軍上層部からの「直々の命」では、流石のチュウイも逆らえまぁい?」
あえての疑問形の質問に、彼は苛立ちを以て睨んだが、キャシート・フィリィフォームは「日頃のうっぷん晴らし」とでも言わんばかりの余裕の笑みで、
「さぁどうするねぇ、チュウイ殿ぉ?」
「クッ!」
堪え切れぬ怒りが、声となって短く漏れ出、
「こんな「無謀な作戦」に二人を推薦したのは、所長なのかァ!」
「さぁ~てぇ?」
卑しい笑みを睨み付けたが、キャシート・フィリィフォームは変わらぬ余裕の半笑いで、
「口を慎みなさぁい、チュウイ」
苦言を呈し、
「新人如きが、上層部が立てた作戦を「こんなモノ」呼ばわりして、タダで済むと思うのかねぇ~?」
(!)
軍属の身、故に反論できず、悔し気に視線を落とすと彼は満足げに、
「まぁ心優しき吾が輩は「聞かなかった事」にしてやるがぁ、」
皮肉を多分に含んだ前置きをしてから、
「この二体の使用を許可したのは吾が輩だが……逆に問うが中尉」
「…………」
「この作戦を成功させ、無事に帰還を果たせる可能性のある実験体二体が、他に居ると思うのかねぇ?」
(ッ!)
即答の否定は出来なかった。
キャシート・フィリィフォームが使用を許可した二人とは、厳しい訓練を受ける幼子たちの中にあって、歴戦の兵士並みの突出した戦闘センスを見せる双子であり、現時点においての成績順位、不動の一位と二位の二人であったから。
(他の子供たちを守る為に、二人を犠牲にするのか?!)
幼い命の天秤に眉をひそめつつ、
(だからと言って上層部の意に逆らい異動させられたら、いったい誰があの子達を守ると言うんだ!)
そのジレンマは苦悶に満ちた表情以上に、指令書を裂けんばかりに握り震える手からも窺え、ミトラは声を絞り出す様に、
(じ……自分も……了承……します……)
返答に、勝ち誇った笑みを浮かべるキャシート・フィリィフォームであったが、優位に立ったダケでは飽き足らず、
「はぁ? 聞こえませんなぁチュウイ殿ぉ?!」
底意地の悪い、嫌味なダメ押しで答えを迫ったが、自身の無力さに打ちひしがれるミトラは反骨を見せる事無く、
「…………」
手の中でシワくちゃになった指令書を、机の上で整え直す様に伸ばし広げながら、
「……了承します……」
『グゥシッシッシッシィ!!!』
満足気な下卑た高笑いを背に、彼は部屋から出て行った。
机に残された指令書に書かれた作戦名、それは、
≪カデュフィーユ暗殺計画≫
カリスマ的国王が病に急逝して国全体が浮足立つアルブル国の、精神的支柱で、国民的英雄である彼の暗殺計画は、それによって生じる混乱に乗じて攻め入ろうとする「国盗りの企て」の初手である。
しかし、その浅はかとしか言えない短慮は、ミトラを精神的に成長させ、密かに子供たちを守ろうと画策する彼の前で「思うままの実験」がやり辛くなり、自らの首を絞める結果となった。
両者は事ある毎に意見を衝突。
対立の構図は日増しに深まったそんな折、青天の霹靂が。
A四サイズ程の紙を手に、
「そ、そんな……」
わななくのは、ミトラ。
そんな彼の姿を目にしたキャシート・フィリィフォームは「グシッシッシッシッ」と下卑た笑いを一つすると、
「軍上層部からの「直々の命」では、流石のチュウイも逆らえまぁい?」
あえての疑問形の質問に、彼は苛立ちを以て睨んだが、キャシート・フィリィフォームは「日頃のうっぷん晴らし」とでも言わんばかりの余裕の笑みで、
「さぁどうするねぇ、チュウイ殿ぉ?」
「クッ!」
堪え切れぬ怒りが、声となって短く漏れ出、
「こんな「無謀な作戦」に二人を推薦したのは、所長なのかァ!」
「さぁ~てぇ?」
卑しい笑みを睨み付けたが、キャシート・フィリィフォームは変わらぬ余裕の半笑いで、
「口を慎みなさぁい、チュウイ」
苦言を呈し、
「新人如きが、上層部が立てた作戦を「こんなモノ」呼ばわりして、タダで済むと思うのかねぇ~?」
(!)
軍属の身、故に反論できず、悔し気に視線を落とすと彼は満足げに、
「まぁ心優しき吾が輩は「聞かなかった事」にしてやるがぁ、」
皮肉を多分に含んだ前置きをしてから、
「この二体の使用を許可したのは吾が輩だが……逆に問うが中尉」
「…………」
「この作戦を成功させ、無事に帰還を果たせる可能性のある実験体二体が、他に居ると思うのかねぇ?」
(ッ!)
即答の否定は出来なかった。
キャシート・フィリィフォームが使用を許可した二人とは、厳しい訓練を受ける幼子たちの中にあって、歴戦の兵士並みの突出した戦闘センスを見せる双子であり、現時点においての成績順位、不動の一位と二位の二人であったから。
(他の子供たちを守る為に、二人を犠牲にするのか?!)
幼い命の天秤に眉をひそめつつ、
(だからと言って上層部の意に逆らい異動させられたら、いったい誰があの子達を守ると言うんだ!)
そのジレンマは苦悶に満ちた表情以上に、指令書を裂けんばかりに握り震える手からも窺え、ミトラは声を絞り出す様に、
(じ……自分も……了承……します……)
返答に、勝ち誇った笑みを浮かべるキャシート・フィリィフォームであったが、優位に立ったダケでは飽き足らず、
「はぁ? 聞こえませんなぁチュウイ殿ぉ?!」
底意地の悪い、嫌味なダメ押しで答えを迫ったが、自身の無力さに打ちひしがれるミトラは反骨を見せる事無く、
「…………」
手の中でシワくちゃになった指令書を、机の上で整え直す様に伸ばし広げながら、
「……了承します……」
『グゥシッシッシッシィ!!!』
満足気な下卑た高笑いを背に、彼は部屋から出て行った。
机に残された指令書に書かれた作戦名、それは、
≪カデュフィーユ暗殺計画≫
カリスマ的国王が病に急逝して国全体が浮足立つアルブル国の、精神的支柱で、国民的英雄である彼の暗殺計画は、それによって生じる混乱に乗じて攻め入ろうとする「国盗りの企て」の初手である。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる