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第四章

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 まかりドロプウォートが立方体に触れていたならば、当たった箇所が空間ごと消え去り、ただで済まなかったであろう事は綺麗にえぐり取られた「艶めく断面」からも火を見るより明らかで、半身を一瞬にして掻き消されて絶命する自身の姿を想像し、
「・・・・・・」
 ゾッとするドロプウォート。

 得も言われぬ悪寒を感じたのは彼女だけではない。
 ラディッシュ達も、「攻め手」を見出せなくなってしまった。

 策も無しに猪突猛進で突っ込んで行き、まかり立方体に触れたら、その時点で何も出来ずに終了。
それは正に犬死である。

 戦場(いくさば)で生きる武人のサジタリアとグラン・ディフロイスにとって、捕縛されて捕虜として処刑される以上の屈辱であり、自分たちの攻撃は防がれ、妖狐ハクサンからの攻撃は回避するしかない現状に、

(こんなの、どうやって戦えって言うんだよぉおぉ!)

 ラディッシュは内心で嘆き、心で頭を抱えた。
 手詰まり感に、背後からヒタヒタと、確かな足音を立てて忍び寄る、死の気配。
 そんな四人に妖狐ハクサンは更に絶望を下す様に、

『今のは、ほんの御挨拶なんだよん♪』

 その言葉通り、

「「「「ッ!!!」」」」

 先程とは比べ物にならない圧倒的数の立方体を、
「今度は、速度も上げるよぉん♪」
 自身の周囲に浮かびあがらせた。

 突き付けられた不可避の死の死を前に、剣豪サジタリアは鬼瓦を、苦虫を噛み潰したような顔して歪ませ、
「ワレは敵を前にィ一太刀も浴びせられぬのか」
 悔しさを滲ませ、グラン・ディフロイスは愛らしい笑みを見せながらも、
「ホントぉ、ここまでかぁ♪」
 達観したように笑って見せたが、

『まだですわァ!』
「「「!」」」

 声を荒げたのは、根っからの負けず嫌いのドロプウォート。
 戦う姿勢を崩さず、

「私達は、まだ生きていますわ! 生きてこそいれば、何かしらの手段が見つけられる筈ですわァ! 最後の指先一つ動くならばァアァ!」

 気休めでしかないのは、分かっていた。
 分かってはいたが、吹き込まれた新風に、

「よもや、新人に尻を叩かれるとはなぁ」
「ホント、場馴れって嫌だねぇ♪」

 古参の二人が気持ちを少し軽くした一方、絶望感に苛まれるラディッシュは外的知覚の全てを遮り、真っ暗な自身の世界に入り込み、
(みんな死んじゃう……このままじゃ……)
 喊声を上げた彼女の思いさえ届かず、
(僕たちが死ぬと言う事は中世や天世の人達も……)
 何も見えない、聞こえない、闇の沼へ沈んで行くと、

 ドクン!

 彼の鼓動は激しく脈打ち、地流閻魔丸も呼応し、

 ドクッ!
 そして、

≪世は理不尽なり。ならば立ち塞がる理不尽の全てを、≫

 彼の心の奥底に身を潜めていた「仄暗き想い」が一気に湧き上がり、黒一色に染まったラディッシュは、

『斬り払えぇえぇぇ!』

 同調して高々と咆哮。
 あれほど拒絶していた存在を「自らの意思」で受け入れ、それを象徴するが如く、見開いた両眼は赤黒く変質、全身から黒いオーラを不規則に、無差別に、太陽の紅炎の様に噴き放ち、

『ガルラアァアァァアァアッッッ!!!』

 一瞬にしてバーサーカー状態と成り果てた。
 ドロプウォートは瞬時に距離を取り、

「こっ、これはアノ時の!」
(いえ、先回以上の禍々しき気配ですわァ!)

 慄き、同様に飛び退いたサジタリアとグラン・ディフロイスも、二人がケンタウロス達と死闘を繰り広げていた一場面を思い出し、

「なんと、おぞましきチカラか!」
「いやホントぉ、あの時以上に相当ヤバイねぇ♪」

 変わらぬ鬼瓦と愛らしい笑顔でこぼした途端、バーサーカーラディッシュは、
『ッ!!!』
 その眼に妖狐ハクサンを捉え、

『ガァルァアァ!』

 空間を激しく震わせる咆哮を上げると、強者を求める本能の赴くまま、

『ラディ!』

 ドロプウォートが届かぬ距離にありながら反射的に伸ばした手の思いを足蹴にする様に、彼は一瞬にして妖狐ハクサンとの距離を詰め、
『ガァルァッ!』
 チカラ任せと思えぬ剣速で地流閻魔丸を振るった。

 しかし妖狐ハクサンの周囲は、彼が作り出した「無数の立方体」で囲まれている。
 迂闊に接触しようものなら空間ごと消される危険をはらみ、無謀としか思えない踏み込みに、

『ラディイィ!』

 ドロプウォートは悲鳴にも似た、制止の呼び声を上げたが、
「そんなぁ!?」
 何かを目撃して続ける言葉を失い、

『なんとぉ!』
『ホント、嘘でしょ!』

 疲労の色濃いサジタリアとグラン・ディフロイスも驚愕した。
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