274 / 706
第四章
4-48
しおりを挟む
まかりドロプウォートが立方体に触れていたならば、当たった箇所が空間ごと消え去り、ただで済まなかったであろう事は綺麗にえぐり取られた「艶めく断面」からも火を見るより明らかで、半身を一瞬にして掻き消されて絶命する自身の姿を想像し、
「・・・・・・」
ゾッとするドロプウォート。
得も言われぬ悪寒を感じたのは彼女だけではない。
ラディッシュ達も、「攻め手」を見出せなくなってしまった。
策も無しに猪突猛進で突っ込んで行き、まかり立方体に触れたら、その時点で何も出来ずに終了。
それは正に犬死である。
戦場(いくさば)で生きる武人のサジタリアとグラン・ディフロイスにとって、捕縛されて捕虜として処刑される以上の屈辱であり、自分たちの攻撃は防がれ、妖狐ハクサンからの攻撃は回避するしかない現状に、
(こんなの、どうやって戦えって言うんだよぉおぉ!)
ラディッシュは内心で嘆き、心で頭を抱えた。
手詰まり感に、背後からヒタヒタと、確かな足音を立てて忍び寄る、死の気配。
そんな四人に妖狐ハクサンは更に絶望を下す様に、
『今のは、ほんの御挨拶なんだよん♪』
その言葉通り、
「「「「ッ!!!」」」」
先程とは比べ物にならない圧倒的数の立方体を、
「今度は、速度も上げるよぉん♪」
自身の周囲に浮かびあがらせた。
突き付けられた不可避の死の死を前に、剣豪サジタリアは鬼瓦を、苦虫を噛み潰したような顔して歪ませ、
「ワレは敵を前にィ一太刀も浴びせられぬのか」
悔しさを滲ませ、グラン・ディフロイスは愛らしい笑みを見せながらも、
「ホントぉ、ここまでかぁ♪」
達観したように笑って見せたが、
『まだですわァ!』
「「「!」」」
声を荒げたのは、根っからの負けず嫌いのドロプウォート。
戦う姿勢を崩さず、
「私達は、まだ生きていますわ! 生きてこそいれば、何かしらの手段が見つけられる筈ですわァ! 最後の指先一つ動くならばァアァ!」
気休めでしかないのは、分かっていた。
分かってはいたが、吹き込まれた新風に、
「よもや、新人に尻を叩かれるとはなぁ」
「ホント、場馴れって嫌だねぇ♪」
古参の二人が気持ちを少し軽くした一方、絶望感に苛まれるラディッシュは外的知覚の全てを遮り、真っ暗な自身の世界に入り込み、
(みんな死んじゃう……このままじゃ……)
喊声を上げた彼女の思いさえ届かず、
(僕たちが死ぬと言う事は中世や天世の人達も……)
何も見えない、聞こえない、闇の沼へ沈んで行くと、
ドクン!
彼の鼓動は激しく脈打ち、地流閻魔丸も呼応し、
ドクッ!
そして、
≪世は理不尽なり。ならば立ち塞がる理不尽の全てを、≫
彼の心の奥底に身を潜めていた「仄暗き想い」が一気に湧き上がり、黒一色に染まったラディッシュは、
『斬り払えぇえぇぇ!』
同調して高々と咆哮。
あれほど拒絶していた存在を「自らの意思」で受け入れ、それを象徴するが如く、見開いた両眼は赤黒く変質、全身から黒いオーラを不規則に、無差別に、太陽の紅炎の様に噴き放ち、
『ガルラアァアァァアァアッッッ!!!』
一瞬にしてバーサーカー状態と成り果てた。
ドロプウォートは瞬時に距離を取り、
「こっ、これはアノ時の!」
(いえ、先回以上の禍々しき気配ですわァ!)
慄き、同様に飛び退いたサジタリアとグラン・ディフロイスも、二人がケンタウロス達と死闘を繰り広げていた一場面を思い出し、
「なんと、おぞましきチカラか!」
「いやホントぉ、あの時以上に相当ヤバイねぇ♪」
変わらぬ鬼瓦と愛らしい笑顔でこぼした途端、バーサーカーラディッシュは、
『ッ!!!』
その眼に妖狐ハクサンを捉え、
『ガァルァアァ!』
空間を激しく震わせる咆哮を上げると、強者を求める本能の赴くまま、
『ラディ!』
ドロプウォートが届かぬ距離にありながら反射的に伸ばした手の思いを足蹴にする様に、彼は一瞬にして妖狐ハクサンとの距離を詰め、
『ガァルァッ!』
チカラ任せと思えぬ剣速で地流閻魔丸を振るった。
しかし妖狐ハクサンの周囲は、彼が作り出した「無数の立方体」で囲まれている。
迂闊に接触しようものなら空間ごと消される危険をはらみ、無謀としか思えない踏み込みに、
『ラディイィ!』
ドロプウォートは悲鳴にも似た、制止の呼び声を上げたが、
「そんなぁ!?」
何かを目撃して続ける言葉を失い、
『なんとぉ!』
『ホント、嘘でしょ!』
疲労の色濃いサジタリアとグラン・ディフロイスも驚愕した。
「・・・・・・」
ゾッとするドロプウォート。
得も言われぬ悪寒を感じたのは彼女だけではない。
ラディッシュ達も、「攻め手」を見出せなくなってしまった。
策も無しに猪突猛進で突っ込んで行き、まかり立方体に触れたら、その時点で何も出来ずに終了。
それは正に犬死である。
戦場(いくさば)で生きる武人のサジタリアとグラン・ディフロイスにとって、捕縛されて捕虜として処刑される以上の屈辱であり、自分たちの攻撃は防がれ、妖狐ハクサンからの攻撃は回避するしかない現状に、
(こんなの、どうやって戦えって言うんだよぉおぉ!)
ラディッシュは内心で嘆き、心で頭を抱えた。
手詰まり感に、背後からヒタヒタと、確かな足音を立てて忍び寄る、死の気配。
そんな四人に妖狐ハクサンは更に絶望を下す様に、
『今のは、ほんの御挨拶なんだよん♪』
その言葉通り、
「「「「ッ!!!」」」」
先程とは比べ物にならない圧倒的数の立方体を、
「今度は、速度も上げるよぉん♪」
自身の周囲に浮かびあがらせた。
突き付けられた不可避の死の死を前に、剣豪サジタリアは鬼瓦を、苦虫を噛み潰したような顔して歪ませ、
「ワレは敵を前にィ一太刀も浴びせられぬのか」
悔しさを滲ませ、グラン・ディフロイスは愛らしい笑みを見せながらも、
「ホントぉ、ここまでかぁ♪」
達観したように笑って見せたが、
『まだですわァ!』
「「「!」」」
声を荒げたのは、根っからの負けず嫌いのドロプウォート。
戦う姿勢を崩さず、
「私達は、まだ生きていますわ! 生きてこそいれば、何かしらの手段が見つけられる筈ですわァ! 最後の指先一つ動くならばァアァ!」
気休めでしかないのは、分かっていた。
分かってはいたが、吹き込まれた新風に、
「よもや、新人に尻を叩かれるとはなぁ」
「ホント、場馴れって嫌だねぇ♪」
古参の二人が気持ちを少し軽くした一方、絶望感に苛まれるラディッシュは外的知覚の全てを遮り、真っ暗な自身の世界に入り込み、
(みんな死んじゃう……このままじゃ……)
喊声を上げた彼女の思いさえ届かず、
(僕たちが死ぬと言う事は中世や天世の人達も……)
何も見えない、聞こえない、闇の沼へ沈んで行くと、
ドクン!
彼の鼓動は激しく脈打ち、地流閻魔丸も呼応し、
ドクッ!
そして、
≪世は理不尽なり。ならば立ち塞がる理不尽の全てを、≫
彼の心の奥底に身を潜めていた「仄暗き想い」が一気に湧き上がり、黒一色に染まったラディッシュは、
『斬り払えぇえぇぇ!』
同調して高々と咆哮。
あれほど拒絶していた存在を「自らの意思」で受け入れ、それを象徴するが如く、見開いた両眼は赤黒く変質、全身から黒いオーラを不規則に、無差別に、太陽の紅炎の様に噴き放ち、
『ガルラアァアァァアァアッッッ!!!』
一瞬にしてバーサーカー状態と成り果てた。
ドロプウォートは瞬時に距離を取り、
「こっ、これはアノ時の!」
(いえ、先回以上の禍々しき気配ですわァ!)
慄き、同様に飛び退いたサジタリアとグラン・ディフロイスも、二人がケンタウロス達と死闘を繰り広げていた一場面を思い出し、
「なんと、おぞましきチカラか!」
「いやホントぉ、あの時以上に相当ヤバイねぇ♪」
変わらぬ鬼瓦と愛らしい笑顔でこぼした途端、バーサーカーラディッシュは、
『ッ!!!』
その眼に妖狐ハクサンを捉え、
『ガァルァアァ!』
空間を激しく震わせる咆哮を上げると、強者を求める本能の赴くまま、
『ラディ!』
ドロプウォートが届かぬ距離にありながら反射的に伸ばした手の思いを足蹴にする様に、彼は一瞬にして妖狐ハクサンとの距離を詰め、
『ガァルァッ!』
チカラ任せと思えぬ剣速で地流閻魔丸を振るった。
しかし妖狐ハクサンの周囲は、彼が作り出した「無数の立方体」で囲まれている。
迂闊に接触しようものなら空間ごと消される危険をはらみ、無謀としか思えない踏み込みに、
『ラディイィ!』
ドロプウォートは悲鳴にも似た、制止の呼び声を上げたが、
「そんなぁ!?」
何かを目撃して続ける言葉を失い、
『なんとぉ!』
『ホント、嘘でしょ!』
疲労の色濃いサジタリアとグラン・ディフロイスも驚愕した。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる