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第四章

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 人が獣と化す様を、幾度となく見て来たラディッシュとドロプウォート。

 しかしそれは、あくまで地世のチカラに取り込まれた「中世の人々」の変化(へんげ)であり、天世人の「天世の光を纏う変化(へんげ)」など知識として無く、その様を眼にするのは初めて。
 特異と思える光景を目の当たりに、正しい言葉が見つけられず、
「「ごっ、合成獣ッ?!」」
 間違っていると分かりながらも呼称が口を衝き、思わず息を呑むと、

「アレは違う」

 サジタリアは断じ、グラン・ディフロイスも続けるように、
「ホント、あれは百人の天世人序列一位が与えられたギフトの一つ……『天獣化』だねぇ……」
(実物を見るのは私も初めてだけどぉ)
 合成獣への変化とさして変わらぬ光景にありながら、神々しい輝きは畏怖を抱かせ、
「「てんじゅうか……」」
 変化(へんげ)中の攻撃を、本能的に躊躇わせた。

 知識のある古参の二人が手出ししない所から「対策は万全に取られている」と推察は出来るが、その一方で、目の前の光景に圧倒され、事の成り行きを見守る事しか出来ない新参のラディッシュとドロプウォート。
 そんな四人の前に、ついに完全なる姿を現したのは、
「なん……なのですの……これは……」
「僕……見覚えがある気がする……」
 白き輝きを全身から放つ、巨大な獣。

 見上げるサジタリアとグラン・ディフロイスも天獣化は知識として持ち合わせながらも、実物を目の当たりに圧倒され、息を呑み、言葉短に、
「「キツネ……」」
 顕現したのは、

≪妖狐≫

 四つ足で地に立ち、静かに四人を見下ろす。
 しかし戦う前から気持ちで飲まれていては、端(はな)から勝機は希薄。
 それが分かるグラン・ディフロイスは強がりを多分に含んだ皮肉笑いで、
「ホントぉ、人を化かすのが好きなハクサンには、とぉ~ってもお似合いの姿だねぇ♪」
 するとサジタリアも、怯んだ気持ちを奮い立たせるように、

『もはや四の五の言っておれぬ!』

 神殺しを決意したような、腹を括ったかのような、鬼瓦をより鬼瓦らしく眉間にシワを寄せて妖狐ハクサンを睨み、

「四人同時で斬り掛かるぞォ!」

 奮起を促すと、意外にもグラン・ディフロイスは素直に、
「ホント、それしかなさそうだねぇ♪」
 同意を示し、

((え?!))

 意外そうな顔を向ける、ラディッシュとドロプウォート。
 てっきり反目し合いながら、最初に「本誓約(キス)を強要される」と思いきや、二人からのお誘いは、玉砕覚悟の共闘依頼。
((いっ、良いんだ……))
 ホッとしつつも、互いにほんの少し、残念そうな思いを抱いていると、察したようにサジタリアが変わらぬ鬼瓦で、

「心の通じておらぬ誓約など無意味。そんな代物は仮誓約と、なんら変わらぬ」

 切って落とし、グラン・ディフロイスも変わらぬ愛らしい笑みのまま、
「ホント、だよねぇ。そんな「無意味な濡れ場」を見せつけられても、こっちが困るよねぇ♪」

((ぬっ、濡れ場ぁあっぁ?!))

 大人な表現に二人は羞恥で赤くなり、初々しくも互いの顔を見られずうつむいてしまったが、グラン・ディフロイスは御構い無し。
 右手に持った「白い剣」を床に突き立て、腰に残した「刀身が黒い剣」を手に持ち、
「新人君に、あげるよ♪」
 ラディッシュの体に押し付けた。
 命を預ける相棒の一振りを、平然と渡すグラン・ディフロイス。
 率直な感想として、

(なんで僕に……)

 素直に謝意を伝えるべきか、深読みして警戒すべきか、困惑と戸惑いを覚えていると、
「剣が無いと戦えないでしょう? それに私は「二刀流を卒業」なんでねぇ♪」
 冗談めかした物言いで見せつけるように、残された右腕一本で床に突き刺した「白い剣」を引き抜き肩に担ぎ、
「この剣の名は「天流虚空丸(てんりゅうこくうまる)」と言って、対を成すその剣は「地流閻魔丸(ちりゅうえんままる)」。二剣一振りの双子剣なんだから大事にしてね♪」
 愛らしい笑顔を見せた。

 しかし、グラン・ディフロイスは、エルブ国を混乱の渦に叩き落としたパトリニアと同じ「地世の七草」の一人。
やはり疑心は拭い去れず、だからと言って「大切な二振りの剣」の内、一振りを託してくれたのは事実であり、
(お礼を言わないのは、道に反するよね……)
 戦士である以前に、人として思い改め、
「あ、ありがとうございます」
 美しい黒き光沢を放つ刀身に、
「「…………」」
 ラディッシュとドロプウォートは思わず見入った。

 それは、名刀たちが放つ「特有のオーラ」の様な物。
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