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第四章

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 全身のいたる所の鎧が剥がれ落ち、傷だらけになりながらも、

『『ふぬぁあぁ!』』

 鬼気迫る表情で大斧を振るい続けるケンタウロスの二人に、
((そんなにまでも天世と中世を……))
 恨みの深さに同情を禁じ得ないラディッシュとドロプウォートではあったが、彼の肩には、彼女の肩には、エルブ国の、フルール国の、カルニヴァ国の、アルブル国の、中世と天世、全ての人々の笑顔が懸かっている。
 知り合った人たちの笑顔が脳裏をよぎり、

((だからと言ってぇ!))

 負けてあげる訳になどいかない。
 強い想いを以てラディッシュは、

≪我がチカラァ! 内なる天世のチカラをッ!≫

 その身を白き天世の輝きで包もうかと言う刹那、

 ドクッ!

 胸を瞬時に激しく脈打つ鼓動。
 それと同時、彼の心の中にあった針の穴ほどしかなかった「黒い何か」が、

≪立ち塞がる理不尽の全てを思うままに薙ぎ払えぇ!≫

 心を一気に黒で塗り潰し、第六感的悪寒から、
「「ッ!」」
「ッ!」
 一斉に飛び退く傷だらけのケンタウロス達とドロプウォート。

 ラディッシュから大きく距離取り、

『『なっ、何なのだァ!』』
『何が起きまして、ですのォ!』

 敵対も忘れて身構える三人の視線の先、赤黒き炎に包まれ、
「あ、あぁ……ああぁぁぁぁあぁあぁ!」
 凪のように穏やかであった笑顔が、みるみる汚染獣の様な赤黒い眼に鋭く、表情も犬歯を剥き出し、獣のように変貌していき、

『ラディイィ!』

 悲痛なドロプウォートの叫びの先に立ったのは、全身から赤黒き焔を立ち昇らせ、
「…………」
 優しさの塊であったかの様な彼からは程遠い、

『ガァルァァアァァ!』

 咆哮を上げながら無暗やたらと剣を振り回す、猛り狂った狂剣士、
≪バーサーカー≫
 であった。

 しかしケンタウロス達にとっては相手が誰であろうと、相手がどの様な状態になろうとも、ハクサンの大義を支える為に引き下がる訳にはいかず、大斧を振りかざし、

『『参るゥ!』』

 動きを止めたラディッシュに向かったが、
≪天技ィ! 炎空斬(えんくうざん)ッ!≫
 ドロプウォートの雄叫びにも似た声と共に、巨大な白銀の火柱が二人に迫り、

「「うのぉわぁ!」」

 咄嗟に回避。
 その間隙に、彼女はラディッシュへの二人の接近を阻む様に、

『近付けさせはしませんのですわァ!』

 立ちはだかったのだが、背にしたラディッシュは、

『グァルァルゥルラァ!』

 突如として彼女に襲い掛かった。
 闇雲に放たれた一刀を、
「ラディ!」
 ガァガキィーーーンッ!
 驚愕の叫びと共に受け止めるドロプウォート。

 しかし、
(なんてぇ重い一撃ですのぉ!)
 いなすので精一杯。

 堪らず、受けたチカラを流す為にバックステップしたが、我を失った彼の剣は退避を逃さず、彼女を追いながら二撃三撃四撃五撃と絶え間なく乱れ打ち、その同士討ちの様相を、
「「…………」」
 歓迎するかのように傍観していたケンタウロス達であったが、それは甘い考えであった。

 バーサーカーと化したラディッシュには、目に見えるモノの全てが敵。
 ドロプウォートと激しく剣を交えながらも二人を視界に捉え、

『グァラァ!』

 右手で剣を振るいながら、左掌を二人に向け、

「「「ッ!?」」

 異変を察知した二人に対してすかさず、

『ガァルァアァ!』

 幾つもの赤黒き火球を高速で放った。
 虚を衝かれたが故に、気付きはしたものの反応が半拍遅れるケンタウロス達。
 襲い来る火球に、

「「ふのぉうぉ!」」

 大斧による防御と回避を織り交ぜ、辛うじて致命傷を防いだが、

「「ッ!!!」」

 気付けばラディッシュが目の前に。
 戦いは三つ巴の乱戦と化したが、ドロプウォートには戦いにおける「大きな枷」が。
 それはバーサーカーに対して、攻撃できない事。
 当然である。
 その狂戦士は、謎のチカラに取り込まれ「正気を失ったラディッシュ」なのだから。
 
 彼からの容赦ない攻撃を回避や受け流しをしつつ、行く手を塞ぐケンタウロス達とも剣を交え、
「クッ!」
(一刻も早くハクサンの下へ向かわなければなりませんのに!)
 気ばかりが焦っていた。
 そんな中、

{今こそ誓約者としての務めを果たす時さぁねぇ}

(え?!)

 声がした気がした、次の瞬間、

『『『『ッ!?』』』』

 三つ巴の乱戦を繰り広げる四人の真横を「白銀の輝き」と「漆黒の輝き」を纏った何者か達が尋常ならざる速度で駆け抜けて行った。
 まるで我関せずと言わんばかりに。

 目まぐるしく急転する事態に、
(いったい何事ですの!)
 ドロプウォートは戸惑いを覚えると同時、
「!」
 襲い来る狂剣士ラディッシュの一刀をかわし、続けざまのケンタウロス達の斬撃を弾き返しながら、
(それに致しましても「誓約者の務め」とは……?)
 長らく忘れていた、彼女が自ら望んだ「本務」であり、「責務」であり、「立場」を、

「!!!」

 唐突に思い出し、羞恥にまみれた赤面顔して、

(誓約者の務めぇええっぇぇ!!!)

 心の中で絶叫した。
 それが何を意味するのかは、未だ不明であるが。
 彼女は恥じらいの滲んだ真っ赤な顔して戦い続けながら、
「…………」
(でっ、ですがぁ、そこにぃ、ラディを元に戻す可能性があるのでしたらぁ!)
 何かしらの決意に腹を括ると、

『やっ、やり遂げて見せますですわァ!』

 鼻息荒くケンタウロス達を見据え、

≪天技ィ! 炎弓連弾ッ!!!≫

 無数の火球を向け放ち、
「「うぉ!」」
 ほんの僅かな時間、遠ざけた間隙を縫い、

『ラディ!!!』
「グァルァ!」

 狂剣士ラディッシュの大振りの一刀をかわして瞬時に距離を詰め、
「いっ、今は、これで精一杯ですわぁ!」
 ケンタウロス達は真剣勝負の最中に突如見せつけられた何かに、

『『なぁあぁぁあんとぉ!』』

 驚愕した。
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