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第四章

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 すっきりと晴れ渡った青空の下――

 王城目指し、先陣切って歩くドロプウォート。
 その姿に、通りを行き交う王都アルブレスの人々は歓声を上げるでもなく、
(勇者様一行だ……)
(ハクサン様もいらっしゃるぞ……)
(だけど……)
 ヒソヒソと、そして一様に、

((((((((((声さえ掛け辛い……))))))))))

 ただならぬ空気に息を呑んだ。
 彼ら、彼女たちの表情には「堪え切れぬ怒り」が滲み出ていて、町の人々は気圧されたのである。
 白昼堂々「追われる身」でありながら、大通りのど真ん中を突き進むドロプウォート達。
 それには理由があった。

 一般の人々の眼が多くある中では、流石に面と向かって「中世を護る勇者一行」や「百人の天世序列一位」に手出し出来ないのを分かっていたから。
 しかしそれ以上に、

≪来るなら来てみろですわァアァ!≫

 むしろ迎え撃つ気が、満々。
 先鋒を務める怒れるドロプウォートの明王の如き眼が、続く仲間達の思いも含めた『真なる理由の全て』を物語っていた。
 もはや一分、一秒、怒りを堪える事が困難であり、裏通りを使い大きく迂回して戦闘を回避しつつ城を目指すなど、自身の心が許さなかったのである。

 それでも、怒り任せに全力疾走で城へ駆け込み「騒乱の主アルブリソ」を殴り飛ばしに向かわなかったのは、それぞれの「故国における立場」があったから。
 ハッタリ交じりに「縁は切った」と言いながらも、政治の世界における駆け引きにおいて「通用しないセリフ」であるのを、政(まつりごと)の近くに居た彼女たちは重々理解していたのである。

 今にも暴発しそうな感情を懸命に抑えながら、通りを最短で突き進むドロプウォート達。
 鬼気迫る気迫に押される町の人々の間を抜け、慄く城下の兵士たちを押し退けるように進み、触らぬ神に祟りなしと言わんばかり、見て見ぬフリする城内の官職たちの横を堂々通ると、

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 ドロプウォート達は「金」をふんだんに用いて豪奢な装飾が施された、重厚な扉の前に立った。
 静かに息を吐き、蹴破り怒鳴り込みたい気持ちをグッと堪えて扉を押し開け、
「な……」
 彼女は目に飛び込んだモノに、思わず驚きの声を漏らした。

 玉座の段下まで延々と続く毛足の長い赤絨毯の両脇に居並ぶ「数多くの重鎮たち」にではない。
 その先で玉座に座する、

(なんと幼く……そしてなんと儚げですの……)

 無表情の童児に対して。
 幼王であるのは聞いてはいた。
 しかし実物は聞いていた話以上に、キーメとスプライツよりもまだ幼く見え、性別不明な容姿な故に上に線が細く、触れるだけで今にも壊れてしまいそうな印象を受けた。
 そして幼王の右、傍らには目当ての「例の人物」が。

((((((((アルブリソッ!))))))))

 宰相としての威光を保とうとしているのか佇まいこそ毅然と、段の上からドロプウォート達を見下ろしていたが、その眼の奥には恐怖心がありありと浮かんでいた。
 許すまじ敵を目の当たりに、怒りを新たにしていると、幼王アルブルがすっと立ち上がり、
((((((((!))))))))
 無表情を変える事なく、声色も強弱無く平坦に、
「よくぞ参られた」
 良く言えば大人びた、悪く言えば感情が欠落しているかのような物言いに、容姿とのギャップから戸惑いを覚えたが、それ以上に、

(((((((え?!)))))))

 ドロプウォート達は驚いた。
 敵陣の真っ只中にありながら、
(((((((ハクサン!?)))))))
 彼が仲間たちを置き去りに、重鎮たちに挟まれた赤絨毯を踏みしめながら玉座に向かって一人歩き始めたのである。

 敵にとって、いくらでも証拠隠滅可能な場所であり、何が起きてもおかしくない状況下、無謀と思える彼の背に、制止を促すのを忘れるほど唖然とするドロプウォート達。
 しかし彼が次にとった行動が、

「「「「「「「なっ!?」」」」」」」

 仲間たちを更に驚愕させた。
 幼王アルブルが無表情のまま立ち上がり玉座の左に移動すると、空座に彼が、当然のように座したのである。
 さも当然のように。
 そしてハクサンに向かって、一斉に跪く重鎮たち。
 そして一斉に、

『『『『『『『『『『お帰りなさいませ、陛下』』』』』』』』』』

 目を伏した。
 その姿は従順であり二心を感じさせず、幼王アルブルと宰相アルブリソも彼に対して頭を下げると、彼はいつも通りの軽口で、

『ただいまぁ、みんなぁ♪』

 普通レベルのイケメン風スマイルで前髪をたなびかせたが、その「作ったような笑顔」をイチミリも変える事なく、
「アルブリソ」
 責める物言いではなかったが、呼ばれた本人には、何かしらの「責めを受ける覚え」があるらしく、動悸を隠し切れない様子で脂汗まで流し、
「はっ、はい……」
 強張った表情で返事を返すと、彼は口調こそ変わらぬ軽口で、
「ぼくぁキミに、留守の間の「軍の強化」を命じていたよねぇ?」

「そ!」

 視線を逸らして小さくカタカタと震え始める宰相アルブリソに、笑顔のまま追い打ちをかけるように、
「それが「カデュフィーユ暗殺」って何♪ 軍の精神的支柱を葬るって、どう言う了見なの♪♪ 弱体化させちゃってどうするつもりのさ♪♪♪」
「そっ、それはっ!」
 極刑が間近に迫った囚人の様な、青ざめた顔を彼に向けると、

「ッ!」

 そこには満面の笑顔を湛えたハクサンの顔が。
 顔こそ笑っていたが腹の中は怒りで煮えくり返り、それが分かるが故に、
「…………」
 蛇に睨まれた蛙、状態。
 弁解すら口に出来ず、怯え顔で固まり小刻みに震えていると、
「キミの命ごときじゃ、空いちゃった穴(軍の弱体化)を塞げないのは重々分かってるけどさぁ」
 前置きした上で、

「それでも責任は「命で」とってもらおうかなぁ~、最後の御奉公としてぇさ」

 視線を、愕然とした表情で立ち尽くす仲間たちに移し、
『チィックウィードちゃぁん♪ この人を好きにしちゃってもイイよぉ♪』
 目に捉えたのは、宝石のエメラルドの様な輝きを放つ瞳と髪を持ち、ラディッシュの足にしがみつく一人の幼子。

 
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