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第三章

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 数日後――

 カルニヴァ国の首都を、城ごと一周グルリと囲んでそそり立つ巨壁を、複雑な思いを胸に見上げるラディッシュ達。
 その手には、カルニヴァ国の特級鍛冶職人の手により作られた逸品の「聖具の盾」が握られ、それは同時に「この国からの旅立ち」を示した。

 得た物より、失ったモノの方が大きく感じられる町に、
(いつまでも引きずってる場合じゃないよな……)
 ラディッシュ達が悲しくも、思いを改めた途端、

『ナニぃナニぃ、みんな辛気臭いよねぇ~♪』

 耽る思いをブチ壊す、軽薄男の軽口が。
 普通レベルのイケメンスマイルで前髪をたなびかせる、ハクサン。

 変わらぬ呑気にラディッシュ達が苦笑する中、
「ぼくぅ達のぉ「新たな旅立ち」なんだよぉ~? もぉっと前向きに行こうよぉ~新たな仲間も加わったんだしさぁ~♪」
 とある女性の肩に、さり気に手を回し、回した途端、

『痛ぁぁぁあ!』

 手の甲を酷くつねられ、涙目で、
「痛いじゃないかぁ「ウィード」ちゃ~ん」
 つねられた部分を擦り擦り。
 そんな「懲りる」と言う言葉を知らぬ彼に、皮肉を込めた「素敵な笑み」を見せたのは、青空と呼ぶにふさわしい、スカイブルーな「薄水色の髪と瞳」を持った少女、カドウィード。
 
 彼女が新たな勇者パーティーの一人としてハクサンから指名を受けたのは、プルプレアが謁見の間で「自らの死を宣言」したあの日、遷延性意識障害に似た状態に陥り、彼から「空」と言われたあの時、その後の事である。


 時はあの日にさかのぼり――

 意識の無いプルプレアを前に立ち尽くすラディッシュ達。
 何の罪も無い彼女を火刑台送りにする選択肢しか選べない「非力な自分たち」に幻滅し、打ちひしがれていると、

『プルプレアちゃんを助ける手なら有るけどぉ♪』

 ドヤ顔ハクサンに、

((((((((((ッ!))))))))))

 藁にも縋る思いを向けるラディッシュ達。
 カルニヴァも、怯え顔のウトリクラリアに抱き付かれたまま、

「ハクサン様! それは真か!! 如何なる方策かァ!!!」

 思わず立ち上がったが、幼児退行したウトリクラリアは彼の気迫に怯え、
「こ、コワイです、お兄様ぁ……」
 身を屈めて震えだし、
「あっ、あぁ、すまぬクラリア。怖がらせてしまったなぁ」
 狼狽交じりに謝りながら、
「しかし……」
 答えを求めてハクサンをチラリと見ると、彼は「ふふん」と一笑い、
「その代わり、カルニヴァ王にはぁ、プルプレアちゃんと背格好が同じ位の女性を一人、用意して欲しいかなぁ♪」
 それは素人でも思い付く「身代わりを立てる」と言っているのに他ならず、あまりに安易と思える発想に、

((((((((((…………))))))))))

 ラディッシュ達は再び視線を落とし、カルニヴァも彼らの落胆を代弁するが如く、
「ハクサン様……仰りたい事は分かります。しかし、いくら背格好を似せ、遠目で誤魔化せはしても、中世の民がそれぞれに持つ「天世の恩恵の差」までは……」
 「天世の恩恵」とは、中世人ならば誰もが内に持っている天世のエネルギーの様な物で、質や容量は千差万別、持って生まれた天世の影響や、地世の影響、それに加えて天世に対する信仰の歳月、成長過程でも変化するなど、要因は多種多様。
「差」とは、その違いであり、故に、指紋の様に個人を特定するのも可能であった。

 天世人の、それも「百人の天世人」の「序列一位の提案」を無下に扱う訳にはいかず言葉尻を濁したのだが、ハクサンはキョトン顔して、
「反王政派の中に、個人の「天世の恩恵」を見抜ける鑑定眼(かんていがん)を持つ「鑑定士」が居るのを心配してるの?」
「…………」
 すると彼は、さも当然と言った口振りで、
「まぁ確かにねぇ~。刑を執行された後なら、天世の恩恵も消えて鑑定は出来なくなるけど、その前だとバレちゃうよねぇ~」
 自ら提案しておきながら、それを覆す同意を見せたが、ニヤっと小さく笑い、

「でもその「天世の恩恵」を、偽装出来るとしたらぁ?」

 苛立ちを覚える「ニヤつき顔」に、ハッと気付かされるラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ニプルとターナップ。
 五人の脳裏に浮かんだのは、とあるキーワード。

(((((偽装の天法!)))))

 気付き顔に、ハクサンは「声に出すな」と笑顔のアイコンタクト。
 プルプレアの前でこそ披露してしまった「フルール国秘匿の天技」ではあったが、その詳細はカルニヴァ王の耳にまで届いていなかったから。
 
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