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第三章

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 唖然とし、カルニヴァが続ける言葉を見つけられずに居ると、ルサンデュは取り急ぎ、
「幸いにも、陛下が出していた「全域戒厳令」のお陰で兵がスグに、」
 対処に当たっている現状を説明しようとしたが、もがき苦しむウトリクラリアとプルプレアを目の当たりに、

「なっ!? コイツはいったい!」

 焦り、問う眼差しに、
「分からん! コッチが聞きたいくらいだァ!」
 誰もが答えを見出せず、苦しむ二人を前に、すべき事さえ見つけらない混乱のるつぼのさ中、
 
『やぁやぁ皆さぁん御揃いでぇ♪ 何やらお困りの様ですねぇ~』

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 ラディッシュ達にとっては、嫌と言うほど聞き覚えがある男の呑気声が。

「「「「「ハクサン!」」」」」

 今まで、何処で、何をしていたのか、毎度のことながら全く不明ではあるが、突如現れた彼は急を要する事態にありながら、いつも通りの普通レベルのイケメンスマイルで前髪を一撫で。
 
 苦しむ女子二人の下に、やおら歩み寄り、おっとりがてらしばし見つめた後、
「へぇ~禁句をキーワードに、プルプレアちゃんの体を使って、国中の「隠れ合成獣」を一斉覚醒させた訳ねぇ~♪」
 見ていたように、見て来たように語るハクサンに、

『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』

 驚きを隠せないラディッシュ達。
 そんな彼らを前に、彼はひょうひょうと、
「でも、まぁ、このままだと残念だけど、禁句を言おうとしたこの子(ウトリクラリア)と一緒に、プルプレアちゃんも死んじゃうねぇ」
「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」
「だって、中世人(ちゅうぜびと)の普通の体で「カルニヴァ全域に信号を送り続ける」なんて、無茶ブリもイイとこだからねぇ」
 衝撃の事実に耳に、誰もが落胆を隠せない中、
 
『何とかならないのぉハクさぁん!』

 ラディッシュの悲痛な叫びに、

「なるよぉん」

((((((((((へ?))))))))))

 彼は平然と、
「こんな地世の「しょっぱい術」なんか、序列一のぼくぃ掛かれば、」
「ならぁ早くお願いだよォハクさぁん!」
 するとハクサンは、
「ふぅむ」
 短く一考した後、
 
「オッケぇー」

 軽いノリで、
「ぼかぁ女子の味方だからねぇ♪」
 笑みを浮かべて前髪をたなびかせ、

≪我がチカラァ! 天世のチカラを以て我は訴える!≫

 その身を白き輝きで包むと、苦しむ二人に手をかざし、

≪浄化ァ!≫

 輝きは二人をも包み込み、やがて彼女たちの体から「黒い稲光」は中和されるが如くに消えて行き、二人は未だ苦悶を残しつつも、
「「…………」」
 徐々に苦痛から解放されつつはあるのか、表情が、次第に安寧を取り戻しつつある様に見受けられ、
 
((((((((((良かった……))))))))))

 誰もが胸を撫で下ろすと、先に意識を取り戻したのはウトリクラリア。
 ゆっくり目を開けると上体を起こし、集まる無数の眼差しに、
「ッ!」
 怯えた表情を見せ、視界にカルニヴァが入るや否や、
 
「お兄様ぁ! これはいったい何事ですのぉ!」

 そこに男装女子としての立ち振る舞いは見る影もなく、

((((((((((!?))))))))))

 謁見の間にいた誰もが違和感を抱く中、彼女は傍らで横たえるプルプレアに気付き、

「プレアちゃんどぅしちゃったのぉ! 何があったのぉ! お願い怖いよ! 眼を開けてぇ!」

 異変は明らかであった。
「はっ、ハクさぁん、コレは……」
 唖然とするラディッシュ達を前に、彼は平然と、
「(地世の)術の反動だねぇ」
((((((((((えっ!?))))))))))
「察するに、幼少に戻っちゃったみたい。記憶も大半が、ふっ飛んじゃってるみたいだねぇ♪」
((((((((((なっ!?))))))))))
 驚きと共に、全員の不安は「より重篤」であると思われる、未だ目覚めぬプルプレアに、
「は、ハクさぁん! それならプレアさんは!! プレアさんはどうして目覚めないの!!!」
「ん? プレアちゃん?」
 ハクサンは、未だ身動き一つしない彼女をしばし見つめ、
「空っぽだね♪」
((((((((((から?!))))))))))
 あっけらかんと、
「人の形をした「空の器」だね。端的に言えば、生きているダケ」
「そんな……」
 脳裏をよぎる彼女の笑顔と、共に過ごした日々。
 
 受け入れ難い現実を前にラディッシュが言葉を失うと、ドロプウォートが堪らず、

「何とかなりませぇんの!」

 すると彼は意外にも、

「なんで?」

((((((((((……え?))))))))))

 聞き間違いかと思える問い返しに、一同が唖然とする中、ハクサンは平然と、
「だって彼女を見てごらんよぉ」
 いつの間、カルニヴァに怯えた表情ですがりつくウトリクラリアを指し示し、
「記憶の一部を失って、あぁ~なったのは術の反動だけじゃなく、彼女が望んだ結果だよ?」
 当然の事のように、
「そしてプルプレアちゃんもね」
「そんな……」
「でも、むしろ良かったじゃなぁい」
「え……?」
「意識が戻らないままの彼女を、彼女の望み通りの「火刑台送り」にすることが出来てぇさぁ」

((((((((((!))))))))))

「誰も苦しまず、みんなの願い通りじゃない♪」

 笑顔さえ見せ、
「それともぉ、意識が戻ったプレアちゃんを火刑台送りにした方が良かったぁ?」
 首傾げに、ドロプウォートは責めるような呟きで、
「そ、その様な「酷なこと」を……よく平然と、とくとくと語れますわね……」
「そお? だって、どぅ言葉を取り繕ってみても事実じゃない?」
 不思議そうな顔した問い返しに、うつむくラディッシュも、

「ハクさぁん……それはプレアさんが、選びたくて選んだ結果じゃないよ……誰にでも「幸せになる権利はある」と、僕は思う……」

 批判を口にした二人のみならず、周囲の空気からも「完全アウェイ」であるのを悟るハクサン。
 
「なぁ~んかぁ、本当の事を言ったぼくぁけ「悪者扱い」みたいなんですけどぉ~」

 口先を尖らせたが、
「でぇもまぁどの道、このままじゃ結果は、ぼくぉ言った事と何ら変わらないけどね♪」
((((((((((…………))))))))))
 それは「手痛い真実」であった。

 誰かが責任を取らなければ「人々の怒り」が収まらないのは明白で、かと言って利用されていたダケであり、後悔から精神退行までしてしまったウトリクラリアを火刑台に上げるなど、何も知らない無垢な少女を火炙りにするも同義。
 しかし、王家の血筋の信頼を維持しつつ事を収めるには、犠牲者が不可避であり、苦渋の選択の後、全ての事件の「真なる首謀者」として、この日より数日後、プルプレアは火刑台に送られた。
 堪え難い民衆の怒りと、明かされる事の無い真実と共に。
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