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第三章

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 しばし後――
 
 カルニヴァ国国王直属騎士団団長四人衆が一人ルサンデュ団長を含めた「ルサンデュ騎士団」直々の護衛付きで、城を目指すラディッシュ達。

 人の噂とは伝わるのが早い物で、当の本人(ラディッシュ達)が城下に到着するより先、勇者の一行が村を救った話は「尾ヒレが乗算された美談」として、町の誰もが知る話となっていて、沿道は「同胞を救った英雄」たちの姿を一目見ようと集まった人々でごった返し、露店まで立ち並び、会話が出来ない程のお祭り騒ぎで沸き返っていた。
 
 その様な中へ、普通の荷馬車とは一線を画す、振動吸収用のバネが付いた高級キャリッジで乗り入れるラディッシュ達。
 正に、国賓クラスの扱い。

 と、そこまでは良かったのだがラディッシュ達の乗る高級キャリッジは、ルサンデュ団長の、

≪英雄たちの姿を、是非に、一人でも多くの人の眼に焼き付けてもらいたい!≫

 (本人的には)粋な計らいから、屋根無し、壁無しの、フルオープンタイプ。
 視線は三百六十度から降り注がれ、逃げ場無し。

 否応なく「晒し者」になるラディッシュ達。

 元々社交的とは言い難い気質の集まり故に、
(((((はっ、恥ずかしい……)))))
 羞恥の赤面顔でうつむいたが、プルプレアも故郷への凱旋であるにもかかわらず、
(…………)
 同じ赤面顔してうつむいている事から、これは「文化的な差」ではなく、明らかに計画した人物の「人となりの差」。

 それを表すように、パレードを先導する馬上のルサンデュはご満悦な表情で沿道に手を振り続け、そこから分かる「カルニヴァ国国王直属騎士団団長四人衆ルサンデュ」の人柄とは、腹黒い人物でないのは分かるが、

((((((派手好きな能天気ぃ))))))

 しかし能天気にも程がある。
結局ラディッシュ達は、城下町では町の人々に、城下では兵士たちに、城内では官司たちの好奇の目に晒され続けながら、謁見の間に辿り着き、憔悴しきった姿に、

『カァーカッカッ♪』

 大笑いする現カルニヴァ王。
 愉快げに笑う彼を前に跪くプルプレアは、

『笑い事ではありませぇん陛下ぁ! 自分は生きた心地がしませんでしたぁ!』

 延々と晒し物にされた「恨み言」をぶつけ、そんな彼女にカルニヴァは未だ笑いが収まらない様子で、
「それは悪かったなぁ♪ だが、アレ(ルサンデュ)はアレで、良かれと思ってやった事なんだぁ。まぁ、許してやってくれぇ」
 その笑顔と立ち振る舞いに、彼女の後ろでドロプウォート達と並び跪くラディッシュの第一印象は、

(豪快な人だぁ)

 とは言え、そこに「強引さ」を誇示する不快な印象は受けず、
(だから、みんな「ついて行こう」と思うのかな?)
 そんな事を考えていると、
 
『勇者殿ぉ!』

 唐突に、カルニヴァに呼ばれ、

「は、はっ、ハぁイ!」

 少し素っ頓狂な声が出てしまったが、彼は気弱を嘲ることも無く、冗談交じりの笑顔を真顔に一転させ、ラディッシュを玉座から真っ直ぐ見据えながら、
「此度の一連の件、全く以て何と詫びれば良いのか、言葉も無い」
 傍らに控えた燕尾服のじぃや共々、恭しく頭を下げた。
 天世が認めし大国を治める王の、突然の謝罪に、
(え!)
 驚いたラディッシュは慌てに慌て、
「いえいえ、そんな!」
 謙遜ではなく心から、

「そっ、それに! 僕に、もっとチカラがあれば……もっと沢山の村の人達を……」

 多くの死傷者を出してしまった現実にうつむき、

(((((…………)))))

 並ぶドロプウォート達も「後悔と悔しさ」から視線を落とすと、カルニヴァは、
「その件に関してなのだが……」
 部屋の隅に控えていた団長トムフォルに視線を送り、
「…………」
 受けた彼は隣室にスッと姿を消すや否や、何者かを伴い謁見の間に戻って来た。
 
「「「「「「!」」」」」」

 連れて来たのは、ビフィーダ。
 自ら出頭した話はヴェズィクローザから聞かされていて、「さぞや憔悴しているのだろう」と思っていたラディッシュ達であったが、六人の前に連れ出された彼は、
((((((?!))))))
 疲れている様子もなく、かと言って悪びれる訳でもなく、初対面の時に受けた「世間知らず」な印象も鳴りを潜め、平静に、既に自らの行く末を達観しているかの様であった。
 この数週間、幸福な幼少期を過ごしたとは言い難くも、温室育ちであった彼を取り巻く環境は目まぐるしく変わり、騙され、利用され、あまた臣民の命を散らしてしまった現実が、彼の心に変化をもたらしたのである。

 それが「良い変化」なのか、「悪い変化」なのか、他人が一概に決めつける事は出来ないが。

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