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第三章

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 一夜明けて陽が昇り始め――
 
 早々に、移動を開始するラディッシュ達。
 朝靄が立ち込める街道をプルプレアの先導で進み、雲一つない晴天の下、やがて六人の視界に「高く連なった石壁」群が入って来た。
 それはカルニヴァ王の居城をも内包して立つ、巨大城下町をグルリと一周囲んで守る「頑強な防壁」であり、目的地への到着を意味すると同時に、プルプレアとの「別れの時間」の近づきをも意味していた。
 しかしプルプレアは生まれ育った故郷を、とある決意を以て眺め、

(着いたな……)

 すると背後からラディッシュがおずおずと、
「おっ、王様との謁見が終わっても、多分、その……しばらく……城下に居る事にはなると思うんだけど……その……」
「?」
 声を掛けられた意図が見えない様子の不思議顔に、彼は意を決し、
 
『プレアさんに会いに行っても良いのかなぁ!』
(え?!)

 思いも寄らない問い掛けに驚くと、ドロプウォート達も続く様に、

「ですわねぇ。今までの「御決まり」ですとぉ」
「あぁ。最低でも、あの男(ハクサン)が顔を出すまでだろぅさ」
「でぇすでぇすねぇ」
「まぁ、んなぁトコだろうなぁ」

 笑い合う、別れ間近の仲間たちからのお誘いに、

(自分は結局、守られたり、教えられたりばかりで……道案内意外、何の役にも立たなかったと言うのに……)

 感謝を抱きながらも、素直になれないプルプレアは、
「なぁんだぁやっと「お役御免」だと思ったのに、仕方ないねぇ~」
 呆れたフリして振り返り、

「今回の件は残務処理がかなりありそうだから暫く忙しくはあるが、それでも好きな時に訪ねて来ると良い」

 ヤレヤレと言った態度を見せ、その「いつもと変わらぬ口振り」に、ラディッシュ達は抱いた懸念が「杞憂であったか」と、内心で胸を撫で下ろした。


 そそり立つ防壁の前まで歩みを進めた六人――
 絶壁の如き巨壁を前に、

「「「「「凄ぉ…………」」」」」

 首に痛みを覚える程、あんぐり見上げるラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ニプルとターナップ。
 
 驚愕の高さであるのは、遠目で見て重々分かったつもりであったが、直下に立って見上げて見ると、壁はなお一層高く見え、高層ビルの高さに換算していったいどれ程あるのか。
 石をそこまで積み上げた土木技術もさることながら、カミソリの刃一枚入る隙間も無い程に加工された巨石群は「頑強な壁」であるのを物語り、流石は≪防御の研究開発を天世から任された国≫と、称すべき物であった。

 その一角に、関所と思しき入り口が。

 荷馬車を引いた行商人らしき一団が列を作り、カルニヴァの兵士たちが荷物検査や書類の確認作業をしているのが窺える。
 そんな中、警備兵の一人がラディッシュ達に気付き、

『ッ!?』

 慌てた様子で他の兵士たちに何事か伝え、気付かされた他の兵士たちも驚きと共に右往左往、関所の奥へと駆け消えて行き、

「「「「「「?」」」」」」

 六人が「何事か」と相談する間さえ無く、関所の奥から鎧騎士の一団が、装備をガシャガシャ鳴らしながらワラワラと駆け出し向かって来た。

(((((いつもの「お約束」っ!?)))))

 ハクサンが居ないにもかかわらず、捕縛、投獄を連想するラディッシュ達。
 もはや新天地に足を踏み入れた時のトラウマか。

 しかし、今度ばかりは事情が違っていた。

 例の如く取り囲まれ、青ざめるラディッシュ、ドロプウォート、パストリス、ターナップ、ニプルの五人であったが、騎士の一人が無言のうちに跪き、
 
「「「「「へ?」」」」」

 否や、他の騎士たちも一斉に跪き、驚く五人を尻目にプルプレアが、
「騎士団団長自らの出迎え、ご苦労様ですルサンデュ団長殿」
 労をねぎらうと、

「滅相も御座いませぬ」

 先陣切って跪いた「ルサンデュ」と呼ばれた騎士が、跪いたまま小さく頭を下げた。
 
 彼がカルニヴァ国国王直属騎士団団長四人衆の残る一人、「ルサンデュ」である。

 ルサンデュは恭しく跪いたまま、
「故国のゴタゴタに巻き込んでしまったにもかかわらず、村を、村人たちを、救って頂いた勇者様方が到着されるとなれば、出向かぬ訳にはいかんでしょう」
 二ッと笑って、「ターナップ」を見上げた。
 
(((((?)))))

 どうやら「ターナップが勇者である」と思い違いをしている様であり、察したラディッシュ達が思わず苦笑し合うと、プルプレアがすかさず「こほん」と咳払い。
 ルサンデュの意識に「違う」と呼びかけるアイコンタクトを送ったが、自身が思い描く勇者像と見紛う体躯を持ったターナップを「勇者である」と思い込んで疑わぬ彼は、彼女の咳払いに、
 
「ん? プルプレア殿? 煙に喉をやられたか?」

 全く気付かない様子。
(これ以上の放置は「身内の恥」の上塗り!)
 プルプレアは堪らず、あえて大袈裟に、

『此方がぁ、勇者である『ラディッシュ』様だぁ!』

 誇張する事で少しでも「恥」を薄めようと、強めの口調で紹介したが、

『えぇ!? このヒョロイのがぁ?!!!』

 驚きのあまり、思わず素が出るルサンデュ。
 努力虚しく、大きく恥を上塗りされてしまったプルプレアは、
(…………)
 苦悶の表情で額を押さえ、
 
「重ね重ね……誠に……粗忽者の集まりで、本当に申し訳ない……」

 しかし、言われ慣れているラディッシュは「勘違いされても当然」とまで思っていたので憤慨する事も無く、
「あははは。誰でもそぅ思っちゃうよねぇ♪」
「すまぬぅラディ……気遣い感謝するぅ……」
 謝意を口にした一方で、彼女はルサンデュを責める事が出来なかった。
 自身にも、嫌と言うほどの覚えがあるだけに。
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