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第三章

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 波乱の一夜が明け――

 プルプレアの先導で街道を進むラディッシュ達。
 団長の一人ヴェズィクローザは村の復興の陣頭指揮や周辺警備の為に、救援部隊と共に村に残った。怯えた表情でドロプウォ―トとニプルの背に隠れるパストリスに、執拗に、迫る様に謝罪した、もう一人の団長クルシュと共に。

 しばし歩くと、気心の知れた顔ぶれに戻ったお陰か、パストリスが落ち着きを取り戻した様子でおずおずと、
「あっ、あのぉ……みなさぁん……」
「「「「「?」」」」」
「取り乱してぇご迷惑をお掛けしてぇなのでぇすぅ!」
 出立の折、混乱を招いた謝罪を口にすると、

『パストは何もぉ全く以て悪くありませんでぇすわァ!』

 当事者より、むしろ未だ怒りが収まらない様子のドロプウォート。
 早口で憤慨を露わにすると、同調する様にニプルまでもが、
「ホントさ! 何なんだアイツは! 謝罪まで押し付けがましくてさぁ!」
 そんな三人に、

『すまぬぅ!』

 プルプレアは平身低頭、
「もはや何と詫びれば良いのかぁ」
 申し訳なさげに頭を下げつつ、
 
「ただぁ擁護する訳ではないのだがぁ、あんなヤツでも良い所も沢山あってだなぁ、慕ってる連中も多くいる「根はイイ奴なんだ」と言うのはぁ知っておいてもらえると……」

 勇者パーティーの一人と変わらぬ存在となった彼女にそこまで言われては、流石に当事者を差し置いて、いつまでも腹を立てている訳にもいかず、
「「…………」」
 二人はヤレヤレ交じりの呆れ笑いを見合わせ、
「分かりましてでぇすわぁ」
「分かったよぉ」
 怒りの矛を収め、
「助かるよ……」
 プルプレアは小さな安堵を返しつつ、
「ヤツには陛下から直々に、きつぅ~く釘を刺してもらうので……パストも……それで許してもらえないだろうか?」
 お伺いを立てたが、パストリスはフルフルと首を横に振って、

「元ぉ元ぉボクが騒ぎ過ぎたせぇいなのでぇすぅ」

 ニコリと笑い、
「あまり厳しく怒られないようにしてあげて下さぁい、なのでぇす」
 逆に気を遣われてしまい、
(イイ子だなぁ……硬派な二人(ターナップとクルシュ)が骨抜きになったのが、分かる気がする……)
 染み染み思うプルプレアであった。


 正午から数時間が過ぎて後――

 早くも野営の準備を始めるラディッシュ達。
 時間的にも体力的にも早過ぎる設営ではあったが、城への到着を「陽のある時間」にする為の、時間調整の意味合いを持った措置であった。
 色々な事が怒涛の様に起きたので、城に着く前に、気心の知れた仲間だけで「一度心を落ち着けたい」との思惑もあってではあるが。

 城や首都である城下町が近づいたお陰か、周辺に強い汚染獣の気配は感じられず、焚き火を囲んだ「まったりモード」の中、穏やかな笑顔のラディッシュがおもむろに、
「こう言うのぉって……なんか久々な気がするねぇ♪」
 ドロプウォート達も思いを同じく、

「確かにですわねぇ♪」
「カルニヴァに入ってからさぁ、ほんとバタバタ続きだったからさ♪」
「でぇすでぇすねぇ♪」
「そぉっスねぇ。てぇか、尻から根でも生えそうっスねぇ♪」

 そんな中にあって、
「…………」
 表面上は平静を装いつつ、心中、穏やかで居られなかったのはプルプレア。
 カルニヴァ王のこと、そしてビフィーダのこと。
 幼馴染みの二人の「行く末」に不安を募らせ、揺らめく炎を眺めていると、

『プレアさぁん』

 ラディッシュの柔らかな呼び声が。
(!)
 呆けていた自身に気付き、

「すっ、すまない、ラディ?! 何か、言ったのか?」

 慌てた様子で振り返ると、彼は笑みを浮かべたまま小さく首を横に振り、
「ううん。何も」
「そ、そうか……それなら良かった」
 安堵の表情と共に、仲間たちに不要な心配をさせまいと、

「少し考え事をしていてなぁ♪」

 返した笑みにラディッシュは、
「今は「導き」を信じて待とうよ、プレアさん♪」
(え?)
 見透かされた気がした。
 しかしそれ以上に、

「導き?」

 気になったキーワードに小首を傾げると、
「うん。僕が勝手に「そう思ってること」なんだけど」
 前置きをした上で、
「人がね、心から是(ぜ)を求めた時、その人は「正しい道」へ自然と導かれたり、導いてくれる誰かに「出会える」って」
「それは「ラディのいた世界」の、その……思想的な物なのか?」
「うぅ~ん、どぅだろぅ? 記憶が無いから何とも言えないけどぉ」
 苦笑しながら焚き火を見つめ、

「人って不完全でさ……失敗したり、間違えたり、誰でもするのに……もし「やり直しが許されない」としたら……それってちょっと悲しいよね……」

 ビフィーダの事の匂わせに、
「…………」
 気遣いと察したプルプレアは、あえて「彼の名」は口にせず、
「その間違いのせいで……多くの血が流れたとしてもか?」
「許されない行為だったとしても「償いの機会」は必要だと、僕は思う」
「…………」
「その人が、本当に、心から悔い改めているなら……」
 プルプレアをチラリと見ると、彼女は何か思う所があったのか、

「…………」

 はたまた心の整理をしているのか、思い耽った表情で焚き火を見つめていて、そんな彼女にラディッシュは、

「なんかゴメンねぇ、説明するだけのつもりが、なぁんか偉そうに語っちゃったりしてぇ」

 照れを交えた苦笑をすると、彼女は微かな笑みと共に、
「いや……」
 首を小さく横に振り、
「ただ漠然と悩むだけじゃなく……自分が何をなすべきなのか、おぼろげながらも見えた気がする……これがラディの言う「導き」と、言うヤツなのかもなぁ」
 その微笑みに、
 
「「「「「…………」」」」」

 何故か漠然と、一抹の不安を覚えるラディッシュ達であった。

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