上 下
210 / 706
第三章

3-37

しおりを挟む
 ターナップがフラれてしばし後――

『ワァ―ハッハッハッ!』

 夜空にこだまするのはクルシュの高笑い。
 共に焚き火を囲むターナップの背を、満面の笑顔でパシパシ叩き、

「いやぁ~残念だったなぁ、フラレ男くぅん♪」

 小馬鹿を含んだ慰めに、
(!)
 少々イラッと来るターナップではあったが、何処かスッキリとした笑顔を浮かべ、

「あの返事が返って来るってのは分かってたし、今まであやふやにして来た自分への「俺なりのケジメ」ってヤツをつけたかったんだよぉ。心変わりするまで待つ、とも伝えたしなぁ」

 心情を包み隠さず明かしたが、当のクルシュは「ライバルが一人減った」と御満悦。
「大丈夫だぁ大丈夫だ分かってるってぇ♪」
 話の内容に聞く耳を持つでもなく、
「何なら知り合いを紹介してやろぅかぁ♪」
 余裕の笑顔に、流石にカチンと来たターナップ。
「オマエぇ、俺が「フラれた理由」を分かってて喜んでんのかぁ!?」
「はぇ?」
 笑いが一瞬にして固まる彼に、仕返しの意味合いも含めて止めを刺すが如く、

『惚れてる男が居るからなんだぞ!』

『ッ!!!?』

 強烈な一撃。
 彼は笑顔を引きつらせ、現実を受け止めきれないのか、
「そ、それぁ「俺の事」……なんじゃ」
「んなぁ訳あるかぁ!」
 苦笑でツッコミ、ターナップ。
 そしてクルシュは思い知った。

 自身が、ターナップと同じ土俵に立つどころか、告白するチャンスすらなく「既にフラれている」事実に。

 有頂天から一転。
 この世の終わりの様な、沈んだ顔して焚き火を見つめ、
「その……パストリスちゃんの「好きな相手」って……」
 呟き問う所へ、パストリスがキラキラとした輝く笑顔で、誰かと会話をしながら料理を運んで来た。

(ッ!)

 その相手はラディッシュ。
 しかも傍らには彼女と同じ「輝きの笑顔」を見せる、ドロプウォートとニプルの姿も。

(ッ!!!)

 フラれた事で、期せずして恋愛経験値が上がった今の彼だからこそ分かる、パストリスが「思いを寄せている」のはラディッシュであり、ドロプウォートとニプルが、その恋敵であるのを。
(なんと妬ま、もとい羨ましいィ!)
 思い直したところで根が「ひがみである」であるのは変わらないが、気付かぬクルシュは腹立たし気に、
「勇者は、それを知っているのか!?」
「ラディの兄貴?!」
 ターナップは一考し、
「正直、それは分からねぇが……ラディの兄貴も兄貴で……」
 ラミウムの笑顔を思い浮かべて言葉尻をすぼめると、

「もしか勇者も勇者で、誰か「叶わぬ相手」に想いを寄せているのか!?」

(急に察しが良いなぁ?)

 少し驚きながらも、
「まぁ、そんな所だなぁ♪」
 苦笑しながら、お茶を濁した。
 叶う筈の無い相手と断じてしまっては、「ラミウムの死」を受け入れた事になってしまう気がしたから。
 そこへ、

『二人とも、お待たせぇ♪』
((!))

 似た者同士がラディッシュの声に振り向けば、いつの間に、テーブルの上には色とりどりの料理たちが所狭しと並んでいて、品数に圧倒されたクルシュが、

(なっ、何なんだぁこの料理の数々はぁあぁ?!)

 思わず息を呑むと、
「今手に入る、限られた食材で作ったから、味はちょっとアレかも知れないけどぉ」
 ラディッシュは照れ笑い。

(有り物で作ってコレだとぉおぉ!?)

 クルシュが内心で更なる衝撃を受ける中、一仕事を終えたヴェズィクローザがやって来て、
「これは凄い。勇者殿がお作りに?」
「まさかぁ♪」
 ラディッシュは謙遜気味に笑いながら、
「ドロプさん達と一緒にですよぉ。有り合わせの物で作ったので、味は申し訳ないですけど、」
「いやいや十分過ぎますよ。我が国は料理に少々疎く「腹を壊さず、膨れれば良い」の様な考えでして」
 続いてやって来たプルプレアも、
「そうだぞ、ラディ。極端な話し、この国の連中は「火が通っていて、量が多ければそれで良い」と言った感じなんだぞぉ」
 どこまで信じて良い話なのかは不明であったが、気遣いが含まれていない訳もなく、

「ありがとうございます」

 ラディッシュは一礼し、
「お口に合えば「なお良い」ですけどぉ♪」
 社交辞令的な会話が交わされるさ中、彼に対して「僻みに」にも似た感情を持つクルシュは、

(ケッ。モテ夫のぉイケメン勇者様が作った「お料理」なんぞぉ、どれほどのモンかぁ?)

 香りだけでも美味しいと分かる料理の一品を、歪んだ感情で無作法に一つまみ、

「あっ! クルシュ失礼ですよ!」

 ヴェズィクローザの苦言を歯牙にもかけずに、パクリ。
 同胞の非礼をひたすら詫びる彼を横目に、

(うっ、ウマイッだとぉおっ!)

 新たな衝撃を受ける。
 しかし、イケメンで、勇者で、美女たちに慕われる彼に賛辞を述べるは「こうべを垂れる」敗北宣言に等しく思え、手前勝手にプライドが許さなかったクルシュは、微かに感じた感想を、色を付けて大袈裟に、
 
「なぁ~んか、味付けが薄っいなぁ~まぁこんなモンなのかねぇ♪」

 するとパストリスが申し訳なさげに、
「ごめんなさい、なのでぇす……」
「へ?」
「それ……ボクが作った料理なのでぇす……」
(マジかァ!?)
 クルシュは慌てに慌て、大慌てで、

「嘘嘘嘘嘘ぉ冗談だよぉ!!!」

 必死に笑って誤魔化し、勢い任せに他の料理を一口パクリ。
 途端に、

『ナンジャこりゃーーーっ!? これぇ滅茶苦茶うめぇーーーぞッ!』

 両眼が飛び出そうな激しい衝撃を受け、それが彼の嘘偽りのない感想ではあったが、パストリスはそこはかとなく悲し気な笑顔で、
「それ……ラディさぁんの(手料理)なのでぇすぅ……」
(ゲ……)
 フリーズするクルシュと、
 
「「「「「「…………」」」」」」

 その場を支配する、何とも言えない冷えた沈黙。
 すると、静けさにいたたまれなくなったパストリスが、
 
『空気を悪くしてゴメンナサイなのでぇすぅーーーーーー!』

 半泣きで何処かへ逃げ出してしまい、
((((どっ、どどどどぅしようぅ!?))))
 狼狽するだけの男達。弱気、フラれたばかり、原因を作った張本人など、追えない理由はそれぞれであったが、女子三人は共通認識の下、
「「「…………」」」
 クルシュを断罪するような眼差しで見下ろし、
「!?」
 気付いた彼が振り返ると、

『『『最っ低ぇ!』』』

「!!!?」

 短く言い残して彼女の後を追った。
 
 自らの嫉妬が招いた自業自得の結果であったとは言え、女子達からの「総好かん」に、
「…………」
 大いに凹むクルシュ。
 顔から生気は失われ、うなだれ立ち尽くす姿は、形容するなら「枯れたゾンビ」。
 強気であった彼の信じられない程の「しおれ具合」に、苦笑するしかないラディッシュ、ターナップ、ヴェズィクローザの男子三人であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

処理中です...