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第三章

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 汚染獣の中でも上位の、二足歩行で人の様に歩く合成獣の一種、人狼を初めて目の当たりに、

「まるで人じゃないかァ!」

 しかしそれ以上に彼女を驚かせたのは、人狼たちがその身に纏い、手に持つ、淡い光を放つ「鎧」や「盾」。
 その輝きは、紋章の様な形を作って光り、
(ばっ、馬鹿なっ! あれは研究所で開発中の!)
 焦りを覚えていたその時、剣を構えるラディッシュは、
(ドロプさん達が戻るまで、僕が二人を守らないと……この数を相手にソレを実行するには!)
 先手必勝とばかり、姿を見せ始めた合成獣の群れに単身で突っ込んで行き、

『ダメだぁラディ!』

 悲痛な声を上げるプルプレア。

「ソイツ等に生半可な攻撃や、天法、天技の類いは通用しなァい! 逃げるんだぁあぁぁ!」

 交戦回避を叫び、
「なっ!?」
 驚き、絶句した。

 ラディッシュが特殊装備で身を固めた合成獣たちを、瞬く間に次々と斬り伏せていったのである。
 彼が無事であるのを喜ぶ半面、
「そっ、そんな……」
 言葉を失うプルプレア。
 実験室で目にした、装備品に対する過酷な耐久テストの数々を思い返し。

 天世より直々に、防具開発を一任されているカルニヴァ国。

 その技術の粋を集めて作った装備品が、まるでチーズでも切るように易々と切り落とされ、その信じ難い光景に、
(ば、馬鹿な……例え武器や身体に「天法による強化」を付与したとしても、あの装備は……)
 破壊出来る筈が無いと思っていたが故に、愕然と立ち尽くした。
 すると、

『へぇ~天法や天技が通用しない装備なんだぁ~♪』

(!)

 ハクサンの声に、ギクリとするプルプレア。
 気マズそうな顔を背ける彼女に対し、彼は戦場の真っ只中にありながら、からかい交じりのニヤケ顔して、
「そぉ~んな装備があるなんてぇ、天世は報告を受けてないけどぉ~?」
「ッ!」
 焦り、振り返るプルプレアは、
「そっ、それは!」
 答えに詰まった。

 人狼が纏う装備品はカルニヴァ国にとって国防の切り札となりうる物であり、フルール国が密かに開発していた「偽装の天法」と同様、天世にさえ秘匿していた物であったから。

 二人が目には見えない駆け引きを展開するさ中、戦闘中のラディッシュは、

≪立ち塞がる理不尽の全て……慈悲など不要……斬り払え……≫

 自身の内なる暗き意思に、声に、
(戦いを繰り返すうち、声? が強くなって来てる気がする……)
 剣を振るいながら、自分が自分でなくなって行くような感覚に怖れを抱いたが、

(でも!)

 抗い、自分を保ち、ひたすらに剣を振り続けた。
 仲間達を、中世の人々を、守る為の戦いを放棄する訳にはいかないから。
 外なる敵(合成獣)と戦いながら、内なる敵(心の闇)とも同時に戦っていると、

「ッ!」

 ラディッシュは新たなる敵の近づきを感じ取り、合成獣たちと剣を交えながら、

『二人ともぉ逃げてぇえぇぇえぇ!』

 血相を変えて叫び、

「「!」」

 ハッとするハクサンとプルプレア。
 戦場のただ中で、駆け引きなどしている場合では無かったのである。
 二人のすぐ背後に、開発中の鎧や盾を装備した、新たな合成獣たちが迫って来ていたのである。
「クッ!」
 咄嗟に剣を構えるプルプレア。
 とは言え、自身の攻撃が通用しないのは実験段階で検証済み。

『だからと言ってぇ!』

 異国の騎士(ラディッシュ)が戦っているのに、故国の騎士の自身が引き下がるは、カルニヴァ騎士の名折れ。
 初めて対峙した合成獣を前に、

(距離を詰められジリ貧に持ち込まれるより先ぃ少しでも有利な位置で!)

 押し潰されそうな戦意を奮い立たせ、
(行くぞォ!)
 玉砕覚悟で駆け迫ろうとした、その時、

『穿てぇーーーッ!』

 何処からともなく「勇ましい女性の声」が。
 同時に、高熱を放つ火球群が合成獣たちに降り注ぎ、

「ガァルァ!」

 野性的反射神経を以て、とっさに盾で防ぐ合成獣ではあったが、防御に使った盾は、真っ赤な光を放って破裂する様に爆発。
 それは盾で受け止めた合成獣たちに限らず、火球の直撃を鎧に受けた他の合成獣たちも同様に鎧が爆裂。
 まるで連鎖自爆でもしているかのような光景に、

「ばっ、馬鹿なぁ……許容越ぇ、だとぉ……」

 理由が分かるプルプレアは立ち尽くした。

 火球を放ったのは、ドロプウォート。
 左頬にキレイな紅葉マークを作って腫れさせたターナップと、パストリス、ニプルを従え戻って来たのである。

 プルプレアの想像を、遥かに凌駕する戦いを繰り広げるラディッシュ達。
 中でも彼女を驚かせたのはパストリス。
 容姿から、戦力的に最も脆弱に見えた彼女の放つ打撃攻撃は、カルニヴァ国の研究者が心血注いで開発した防具の防御力など関係なく、その威力は合成獣たちを体の内側から破壊し、次々と倒し、百人の勇者と見紛う戦いぶりであった。

 天法を放ち、剣を振るうニプルと、天技にて拳を振りかざすターナップも、噂に名高いドロプウォートと遜色ない鬼神の如き戦いぶり。
 プルプレアが「自らの死」をも覚悟した戦場は、物の十分と経たず、情け容赦なく襲い掛かって来た合成獣たちが死屍累々たる姿を晒す、墓場へと変貌を遂げていた。

 静かになった戦場で、周囲を窺うラディッシュ。

 合成獣の気配が消えたのを感じ取り、
「夜に動くのは危険だけど、場所は少し変えようかぁ?」
 頷くドロプウォート、パストリス、ターナップ、ニプル、ハクサン。
 放心のプルプレアは、山と横たわる合成獣たちの屍を前に、
(いったい誰が「機密の装備」を合成獣に……まさかビフィーダ様が自ら……?!)
 首謀者に思いを巡らせると同時、まざまざと見せつけられた、異世界勇者ラディッシュのみならず、エルブ国のドロプウォ―ト、フルール国のニプル、その実力に、
(我が国最高位の天法師の一撃さえしのいだ装備を、こうも易々と許容越えに……)
 息を呑み、

(エルブ国への侵攻を禁じたハクサン様の天啓により救われたのは、むしろ自分たちカルニヴァ国だったのではないのか……)

 井の中の蛙であったのを思い知り、開戦の口火を切れなかったのは「むしろ幸運であった」とも思うプルプレアであった。
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