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第三章

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 救った親子と共にとある村に入るラディッシュ達――

 防壁で、一周グルリと囲まれた村。
 そこはプルプレアが目指していた最初の村であり、二人はこの村の住人であった。
 奇しくも住人を救った事で、排他的と聞かされながらも快く迎え入れられ、村長宅の夕食にまで招かれた七人。
手厚いもてなしを受けた上に宿屋まで用意された一行は、朝を迎えると、不足品の買い出しに出掛けた。

 国境の町では「夜逃げ同然」で慌ただしく買い足しをした為、買い忘れが何点も生じていたのである。

 しかしながらこの日の「買い出し」は、一転した、のんびり観光ムード。
 ビフィーダの目から逃れたのもあり、全員揃って散策気分で村を巡った。
 別行動(※ナンパ)を取ろうとしたハクサンも、ニプルに首根っこを捕まれて。

 そんな中、行き交う村人たちから笑顔で挨拶されるラディッシュ達。
 村人親子を救った話が、既に「周知の英雄譚」として伝わっているらしく、そこに「よそ者扱い」は感じられず、ラディッシュは青空に向かって大きく背伸びしながら、

「うぅ~ん♪ なんか気持ちが良いね~。こぉんな穏やかな気分はぁ久々な気がするよぉ」

 清々しい笑顔にドロプウォートも、
「ですわねぇ~「誰かさんの悪事」も、ここまで及んでいなかったよぅですしぃ♪」
 それとなく責める視線で、笑顔のニプルに拘束されるハクサンをチラリと見ると、

「酷いなぁ~」

 ハクサンは困惑笑いを浮かべ、
「それってぇ、まるでぼくぁ「モメ事ばかり起こしてる」みたいじゃないかぁ~」
((((その通りでしょ))))
 心の中でツッコミを入れる苦笑のラディッシュ達ではあったが、一人、浮かない顔の人物が。
 気付いたパストリスが、

「どうかしたでぇす?」

 気遣いを交えた笑顔で覗き込んだのは、ターナップの横顔。
(!)
 ハッと我に返った彼は、少し慌てた様子で後退りながら、

「い、いやぁ、何でもねぇっスぅ♪ ホント、何でもねぇんスよぉお嬢ぉ♪」

 明らかな誤魔化しで「ははは」と笑って見せ、その狼狽ぶりに、
「…………」
 パストリスは「自己解決を望む悩みである」と感じ取り、
(無暗に人の心に立ち入るのはぁ、失礼なのぉでぇすねぇ……)
 それ以上の追及を思い留め、

「それなら良かったでぇす♪ タープさんにはぁ笑顔が一番なのでぇす♪」

 その笑みは優しくも、今の彼の胸には痛かった。
(人の為に、こんな笑顔を見せてくれるお嬢が……汚染、)
 そこから先の「蔑称」は、思いたくなかった。
 思いたくは無かったが、頭がそれを許さない。

 彼は「天世の司祭」であり、地世の影響が色濃い「汚染人(おせんびと)」と蔑称される妖人(あやかしびと)は最も忌み嫌う存在であったのだが、それ以前に、彼は地世絡みで両親を亡くしていたから。
 繊細な悩みなど無縁そうに見える彼が、内なる苦悩を人知れず積み重ねて行く中、

『でも……』

 ラディッシュがおもむろに足を止め、笑顔から一転、村を一周グルリと取り囲む深い森を不安げに見回し、
「昨日、村長が言っていた通り……本当に「(地世の)チカラの強い汚染獣」たちに、囲まれてるね……この村は……」
 懸念を口にすると、
「「「「「「…………」」」」」」
 ドロプウォート達六人も、昨夜の村長の話を思い返した。

≪この村は、かつて縁(えにし)を持った「百人の天世人」様が作られた特殊な宝玉で護られておりますじゃ。それ故に、強い汚染獣に囲まれていても襲われず、囲まれているが故に、資源豊かなこの村に「ちょっかいを出そうとする輩」を遠ざける役にも立っておりますのじゃ≫

 それは綱渡りの如く危うく、よそ者のラディッシュ達にとっては諸刃の剣と思える、隔絶された村の繁栄であった。
 実際に「村の親子」が襲われた実例を出し、リスクが高過ぎるのをラディッシュ達が説いて聞かせてはみたものの、村長から返って来た答えは、

≪子供は時として、大人の想定を上回る「何か」をしでかすモノじゃてぇ≫

 ルールを守っている限りは大丈夫と言わんばかり、笑い飛ばすばかり。
 しかし、今まで問題無かったからと言って「これからも大丈夫」と言う保証はどこにも無く、村の広場で楽し気に遊ぶ子供たちや、井戸端会議に話を咲かせる大人たちを、ラディッシュが憂いた眼差しで見つめていると、ドロプウォートも納得していない表情は見せつつ、
「ですが、これは「この村で生きる人々」が望んでの事。明日に出て行く私達が、とやかく口出し出来る話ではありませんのですわ……」
「そう……なんだよね……」
 悲し気に、
(結局、僕たちは、よそ者でしかない……)
 小さく頷いた。

 村の平和が永く続く事を、七人は祈るばかりであったが、その願いは皮肉にも「村人自身の手」によって瓦解する事となる。
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