177 / 706
第三章
3-4
しおりを挟む
跪いたままのスパイダマグは、ハクサンの中に「底の見えない闇」を見た気がし、
(いったい、この方は……いったい何を考えていらっしゃるのだ……)
息を呑んだが、元老院に至誠な彼は、
(然るに今は!)
思い新たに、
「でしたら尚の事ぉ! 其方の御人(ラディッシュ)と共に元老院へ御出でいただかねば!」
しかしハクサンはいつも通りの「普通レベルのイケメンスマイル」で、
「無用だよぉ♪」
「ですが地世の影響を!」
「その為に、ぼくぁ同行して「聖具集め」に回っているだろぅ?」
「「「「「「…………」」」」」」
黙るしかない白装束の一団。
彼の言っている事は、表の意味で全て正論であったから。
裏の意味で、元老院への忖度を欠いている物ではあるが。
反撃の一手さえなく無言で跪く彼らを前に、ハクサンは特段勝ち誇った様子もなく、
「じゃあ、ぼくぁは行くねぇ。御歴歴によろしくね」
先陣切って歩き始め、
「それじゃ、みんな行こうかぁ♪」
未だ剣を構えたままであったドロプウォートも、
「…………」
残心しつつ、中型マッチョの首元から静かに刃を引いたが、
『まだ終わってないよぉ!』
ラディッシュが声を荒げた。
日頃は争いを好まぬ彼が、怒りを以てスパイダマグを見下ろし、
「謝って!」
「「「「「「?」」」」」」
理解出来ていない様子に苛立ちを露わ、
「何を謝るべきかも分からないの!」
それでも彼らは「百人の天世人候補様に怒られている」といった認識らしく、何を謝れば良いのか戸惑いを見せ合っていると、ラディッシュの怒りは堰を切り、
『彼女は「兵器」なんかじゃなァい!』
「「「「「「!」」」」」」
気弱そうに見えた少年の「怒り処」にマッチョ集団は驚きを隠せず、「兵器と言われる自分」を受け入れてしまっていた感が少なからずあったドロプウォートが、
(ラディ……)
感動し、心を震わせ、彼の熱い言葉にパストリス達も笑顔を見せ合うと、マッチョの一人が逆ギレするが如くに、
「事実を言って何が悪いぃ!」
それは「自分たちに否がある」と知った上でなお、隊長を庇っての発言であるのは明らかであった。
しかし、その様な気遣いは押し付けでしかなく、それを受け入れてしまっては、武人として、リーダーとして、恥の上塗りにしかならないのをスパイダマグも重々承知し、
「構わぬ」
「!」
彼の二の句を制すると、跪いたままドロプウォートに向き直り、
「不穏当な発言、大変失礼した。改めて発言を撤回させていただく」
深々と頭を下げると、後ろに控える隊員たちも苦渋を以て頭を下げ、ラディッシュはその姿を黙って見ていたが、当のドロプウォートはよほど照れ臭かったのか、
「もっ、もぅ結構ですわぁ! 十分ですわぁ!」
羞恥の赤面顔で、
「いっ、行きましょうでぇすでぇすわぁ!」
促されたラディッシュも、気持ちを切り替える様に小さく息を吐き、
「うん!」
笑顔で頷き、顔を上げたスパイダマグ達に、
「僕は元老院って人達の所に行く気も無いし、「百人の天世人」になる気も無いから、新しい人を募集して」
笑顔をだけ残し、ドロプウォート達と共に去って行った。
次第に遠ざかって行く六つの背を、立ち上がり、静かに見つめるスパイダマグ。
そんな彼の下に、隊員の一人が歩み寄り、
「百人の天世人は、百人のみ。チカラの受け渡しでしかなれない事を、彼は知らないのでしょうか?」
「…………」
返らぬ返事に、
「隊長?」
不思議に思い、見上げた隊員は恐怖で顔を引きつらせた。
一枚布の隙間から見えた彼の顔は、堪えた憤怒で、血の様に赤黒く染まっていたのであった。
(いったい、この方は……いったい何を考えていらっしゃるのだ……)
息を呑んだが、元老院に至誠な彼は、
(然るに今は!)
思い新たに、
「でしたら尚の事ぉ! 其方の御人(ラディッシュ)と共に元老院へ御出でいただかねば!」
しかしハクサンはいつも通りの「普通レベルのイケメンスマイル」で、
「無用だよぉ♪」
「ですが地世の影響を!」
「その為に、ぼくぁ同行して「聖具集め」に回っているだろぅ?」
「「「「「「…………」」」」」」
黙るしかない白装束の一団。
彼の言っている事は、表の意味で全て正論であったから。
裏の意味で、元老院への忖度を欠いている物ではあるが。
反撃の一手さえなく無言で跪く彼らを前に、ハクサンは特段勝ち誇った様子もなく、
「じゃあ、ぼくぁは行くねぇ。御歴歴によろしくね」
先陣切って歩き始め、
「それじゃ、みんな行こうかぁ♪」
未だ剣を構えたままであったドロプウォートも、
「…………」
残心しつつ、中型マッチョの首元から静かに刃を引いたが、
『まだ終わってないよぉ!』
ラディッシュが声を荒げた。
日頃は争いを好まぬ彼が、怒りを以てスパイダマグを見下ろし、
「謝って!」
「「「「「「?」」」」」」
理解出来ていない様子に苛立ちを露わ、
「何を謝るべきかも分からないの!」
それでも彼らは「百人の天世人候補様に怒られている」といった認識らしく、何を謝れば良いのか戸惑いを見せ合っていると、ラディッシュの怒りは堰を切り、
『彼女は「兵器」なんかじゃなァい!』
「「「「「「!」」」」」」
気弱そうに見えた少年の「怒り処」にマッチョ集団は驚きを隠せず、「兵器と言われる自分」を受け入れてしまっていた感が少なからずあったドロプウォートが、
(ラディ……)
感動し、心を震わせ、彼の熱い言葉にパストリス達も笑顔を見せ合うと、マッチョの一人が逆ギレするが如くに、
「事実を言って何が悪いぃ!」
それは「自分たちに否がある」と知った上でなお、隊長を庇っての発言であるのは明らかであった。
しかし、その様な気遣いは押し付けでしかなく、それを受け入れてしまっては、武人として、リーダーとして、恥の上塗りにしかならないのをスパイダマグも重々承知し、
「構わぬ」
「!」
彼の二の句を制すると、跪いたままドロプウォートに向き直り、
「不穏当な発言、大変失礼した。改めて発言を撤回させていただく」
深々と頭を下げると、後ろに控える隊員たちも苦渋を以て頭を下げ、ラディッシュはその姿を黙って見ていたが、当のドロプウォートはよほど照れ臭かったのか、
「もっ、もぅ結構ですわぁ! 十分ですわぁ!」
羞恥の赤面顔で、
「いっ、行きましょうでぇすでぇすわぁ!」
促されたラディッシュも、気持ちを切り替える様に小さく息を吐き、
「うん!」
笑顔で頷き、顔を上げたスパイダマグ達に、
「僕は元老院って人達の所に行く気も無いし、「百人の天世人」になる気も無いから、新しい人を募集して」
笑顔をだけ残し、ドロプウォート達と共に去って行った。
次第に遠ざかって行く六つの背を、立ち上がり、静かに見つめるスパイダマグ。
そんな彼の下に、隊員の一人が歩み寄り、
「百人の天世人は、百人のみ。チカラの受け渡しでしかなれない事を、彼は知らないのでしょうか?」
「…………」
返らぬ返事に、
「隊長?」
不思議に思い、見上げた隊員は恐怖で顔を引きつらせた。
一枚布の隙間から見えた彼の顔は、堪えた憤怒で、血の様に赤黒く染まっていたのであった。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
気がついたら異世界に転生していた。
みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。
気がついたら異世界に転生していた。
普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・
冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。
戦闘もありますが少しだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる