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第二章

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 数日後――

 謁見の間に集められたラディッシュ達と、主要な騎士たち。
 彼ら、彼女らを前に、女王フルールの傍らに立つ毅然とした表情のリブロンは、
「先だって発生した「牛人騒ぎ」の件、落ち着きを取り戻した「関係者の女性」から詳細を聴取出来ましたので報告します」
 凛たる佇まいを見せたが、そんな彼女の胸元には、チャームに黒猫をあしらったペンダントが揺れていた。
 彼女の「秘めた決意(自ら身を引く)」に居た堪れなくなったニプルが、黒猫好きのリブロンの為に、訳が分かっていないラディッシュに無理矢理買いに行かせたモノである。
 当然のことながら「無理矢理買いに行かせた」のくだりは、リブロンに秘密であるが。
 贈り物の話は一先ず置き、彼女の話は事件発生時の少し前にさかのぼる。


 窓から穏やかな陽が差し込むとある一室――

 整然と並べられた家具の上には塵一つなく、部屋の中央に置かれた小ぢんまりとした丸テーブルの上には、愛らしい花が飾られた一輪挿しが。
 慎ましやかな生活の中にも、確かな幸せが感じる部屋に、

『もぅあの人達と関わるのは止めてぇ!』

 突如響く、女性の叫び。
 泣訴の声に、若い男は眉間に深いしわを刻んで、

「俺はこの国を変えたいんだよォ!」

 例の団体の制服である「学ランの様な上着」を羽織りながら言い返すと、
「あの人達が町で何て言われてるか知ってるでしょ!」
「!」
「口先で文句を言っているだけじゃ何も変わらないのよ!」
「クッ……」
 今日までの彼らの活動を見ていれば彼女の言う事は的を射ており、痛い所を衝かれた男は返す言葉に詰まったが、

『確かに「今日までは」なァ!』
「え? それ、どう言う意味なの!?」

 不穏を感じ、慄く彼女を前にして逆上気味に、

「俺達は今日この日ィ! この町で革命を起こすのさぁ! 今まで俺たちを散々嘲笑った町の連中に目に物見せてやる!」
(か、革命ぇ?!)
「そんな事は止めてスティンク!」
「俺はぁ「この国」にも、「この国の体制」にも、もぅウンザリなぁんだよォ!」
 泣きすがる彼女を振り払い、

『俺たちの「本気ってヤツ」を見せてやるゥ!』

 捨て台詞を吐くと部屋から飛び出し、「革命」と言う不吉なワードを残された女性も、
「待ってぇ!」
 慌てて部屋から駆け出し後を追った。

 町の雑踏の中に、今にも駆け消えそうになる彼の背を、
(待ってぇ!)
 足がもつれそうになりながらも懸命に追う。
 しかし若い成人男性の駆け足に、アスリートでもない女性の足で追いつくなど容易ではなく、彼女は走りながら胸を押さえ、
(く、苦しい……)
 息を切らせ、それでも走り続けた。
 彼との小さな幸せを失いたくなかったから。
(!)
 脇道に曲がった背を追い、しばし遅れて曲がった頃には、

(もっ、もぅ……ダメ……)

 流石に体力が限界を迎え、壁に手をつき足を止め、
「ハァハァハァハァ」
 激しく息を切らせるさ中、

『スミマセン遅れました!』

 数メートル先の物陰から、彼の声が。
(!)
 女性は未だ苦しい胸を押さえながら、
(い、行かないで……)
 壁を杖代わりに、疲労で重くなった足を引きずるように歩みを進め、「やっと追い着けた」と思ったのも束の間、

『我らが革命の狼煙を上げる「祝い日」に、些末な文句など野暮と言うモノォ!』

(っ!?)

 幾度となく耳にした「あの暑苦しい声」が。

 例の団体の「団長の声」に女性は歩みを止め、一先ず呼吸を整えた。
 ひと気の無い場所で存在に気付かれては、例えその場に彼が居合わせても、何をされるか分からなかったから。
 そして物陰から、彼らに気付かれない様にそっと様子を窺い、
(あれは何?)
 何かに目を留め、訝しんだ。
 それは「見た者を不快にさせる笑顔」の団長の手に握られた、黒いガラス球。
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