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第二章

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 驚く彼女の視線先、迫るミノタウロス達に向かって対峙する、ラディッシュの背が。
 一見すると「正気の沙汰とは思えない勇ましさ」を見せる彼ではあったが、この時、彼の頭の中には何者かの「声?」「言葉?」「思い?」が響き、意識はそちらに囚われていた。
 それは以前に聞こえた自身の声より仄暗く、感じる闇は更に深く、

{世の全ては理不尽……ならば立ち塞がる理不尽の全て、思うままに斬り伏せろ……}

 悪魔の様な囁きに、
 
『違う!』

 ラディッシュは強く拒絶を示し、
「僕は「守る為」に戦うんだ!」
 絡みつく怨念を浄化させるような思いで叫んだが、

{それを見ても同じ事が言えるのか?}

 ハッと我に返った彼は、
「ッ!!!」
 絶句した。

 目の前には、いつの間に斬り倒したのか、ミノタウロス達の亡骸の山が。
 血の池に佇み、
(こ、これを……全部……僕が……)
 折れた剣を握る血染めの両手を見つめ、愕然とするラディッシュ。
 意識がある中で行われた諸行であれば、また違った反応であったのかも知れないが。
 そんな中、多量の赤に染まった地面に転がる、開いてしまったペンダントに目が留まる。
 仲睦まじい男女の姿が。
 そして思い出される、
(そうだ……この牛人(うしびと)達は……)
 エルブ国の惨事に、

(中世の人達じゃないかぁあぁ!)

 自らの所業に恐れ、震撼した。
 無意識下で、何人もの中世人を手に掛けた現実に。
 わななく彼の下へ、

『今近づくのは危険だ!』

 誰かが叫ぶ制止声と、その声を振り切るように駆け近づく足音が。
 目に映ったのは、

(!)

 ペンダントの中の女性。
 悲しみの涙を流し駆け迫る姿から、彼が斬り伏せたミノタウロスのうちの一体が、寄り添う男性の変わり果てた姿と容易に想像でき、
「…………」
 掛ける言葉が見出せない。
 何を言っても「言い訳にしか聞こえない」と思えたから。

 面罵される覚悟を以て、
「あ、あぉ、僕……」
 声を絞り出した途端、彼女は悲しみに歪めた唇をギュッと噛み締め、

『ありがとうございましたぁ! あの人を救ってくれて!』

 それは痛哭を必死に堪えた上での謝意。
(え……)
 思考が停止するラディッシュ。
 よもや感謝されるなど思ってもおらず、戸惑いを隠せずにいる中、
「斬っていただいていなかったら、我を失った彼は町の人達を何人その手に掛けていたか知れませぇん!」
「ち、違……」
(僕は感謝されるような思いで剣を振ってなんか、)
 いなかったと思いかけた矢先、
「ありがとうございました!」
「助かりました!」
「九死に一生を得ました!」
「ママをたすけてくれてありがとう!」
 鳴り止まぬ感謝の声が続々と。

 町の人々は彼を恐れて近づかなかった訳では無かった。
 汚染獣の脅威が日常である「この世界」において、恐怖していたのは「ミノタウロス達が活動を停止したかどうか」であり、活動停止が確認された今、逃げ惑っていた人々は四方八方から集まり、ラディッシュに感謝を捧げた。

 しかし、感謝をされればされるほど、
(違う、違う違う違うんだぁ!)
 正体不明の「心の闇」に囚われ剣を振るっていたダケの彼は、

(違うんだぁあっぁぁぁあぁぁあ!)

 自責の念に駆られ苦悶するのであった。
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