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第二章

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 声にならない感嘆を漏らすラディッシュ達――

 そこは町の広場に面した、地球で言う所の「大型のコミュニティーセンター」を彷彿とさせる建物で、内部も広く、エルブ城やフルール城で目にした、国賓を招いての「晩餐会を催す会場」よりも大きく、既に多くの人々が設営作業に入っていた。

 髪の色、目の色、肌の色、着ている服も様々で、色々な国の人々が集まっているのが容易に分かる。
 ライバル国の懐の深さを目の当たりに、
「凄いですわぁ……」
 素直に感銘を受ける、エルブ国四大貴族オエナンサ家次期当主ドロプウォート。
 その傍らでニプルは、
「まぁ、これも「今のフルール様」の、尽力の賜物ってヤツなんだけどなぁ」
 そこはとなく自慢げな笑みを見せながら、
「さぁて、ウチらも始めちまおうぜ。(作家三人分の)組み分けは……」
 視線は自然とラディッシュに。
 当然の如く女子三人は、

≪ラディッシュと組みたい≫

 加えて「ターナップも」ではあったが、その半面、ターナップの中には「パストリスと組みたい気持ち」も。
 何故、自分の中に「パストリスと組みたい気持ち」があるのか、未だ分からない彼ではあったが。

 組み合わせは公平を期す為「くじ引き」となり、ニプルが用意した袋の中には、小さいメモ紙が五枚。

  ・オミナエシ先生  二枚
  ・オトコエシ先生  二枚
  ・マツムシソウ先生 一枚

 四人が息を呑んでくじ引くさ中、ラディッシュはと言うと、
(ちょぉ、何かぁ、人がぁ、尋常じゃない勢いで、増えて来てるんですけどぉおぉ……)
 人の多さに圧倒され、恐れ戦き、カタカタと震えていた。
 今更ながら念を押しておくが、彼は「魔王討伐の為」に、異世界より召喚された「勇者」である。

 
 くじ引きが終わり――

 運命とは、時に、イタズラに、思いも寄らぬ結果を生み出すもの。

 売り子の組み合わせは、次のようになった。
  ・オトコエシ先生(BL系):ラディッシュとターナップ
  ・オミナエシ先生(GL系):ドロプウォートとニプルウォート
  ・マツムシソウ先生:パストリス
 奇しくも、神(推しの作家)の聖典(新作)を求めてやって来た信者(愛読者)達にとって、最高の組み合わせ。

 見知らぬ土地で、多くの信者たちを相手に一人で立つ事になってしまったパストリス。

「ひっ、ひぃうぅ! ボク一人でぇすぅうぅぅ!」

 半泣きで頭を抱えたが、時は容赦なく、ヒトの多さに怯えるラディッシュをも嘲笑うよう、瞬く間に開催の時刻を迎えた。
 とは言え、いざ始まってみれば、「人の多さ」に、「一人仕事の不安」に、苛まれている余裕など皆無。
 入口のゲートが開くなり、
 
『走らないで下さぁい! 一列に並んでぇ!』

 運営係の絶叫が響いた時には、既に各ブースは長蛇の列。
 当然、人気作家の上に「超」が付く「オミナエシ先生」、「オトコエシ先生」、「マツムシソウ先生」の机の前にも。
「三部くださぁい!」
「僕は布教用と合わせて六部くださぁい!」
「私にもぉ!」
 無数の人々の「熱い喚声」が激しく飛び交い、ラディッシュ達はただただ圧倒され続け、会計処理やら贈り物の受け取りやら、売り子二人の関係の説明に、そして何故か拝まれたり、「握手してください」まで。

 配送で送られて来ていた「山の様な在庫」は午後を待たず、
『すっ、すまねぇッスぅ! 完売っスぅ!』
『ワリィーッさぁ! 完売さぁ!』
『ゴメンナサイでぇすゴメンナサイでぇす! 売り切れなんでぇすぅ!』
 怒涛の勢いで完売した。

 それぞれの店先に「完売札」を立てた五人は一ヵ所に集まり、椅子に座って、

『『『『『…………』』』』』

 ただただ放心。
 疲れたのかどうかも分からず呆ける中、ラディッシュがポツリと、

「全部売れた……」

 呟くと、ドロプウォートも、

「ですわねぇ……」

 呟き、五人はゆっくり顔を見合わせ、
「「「「「…………」」」」」
 放心顔を、湧き上がる満面笑顔へと急変させ、

『『『『『完売だぁーーーっ!』』』』』

 歓喜の叫びでハイタッチ。
 アシスタント作業は過酷を極めていたが故に、
「自分のチカラじゃないのは分かってるけどぉ!」
「分かりますわ分かりますわぁ! 何でしょう、この充実感は!」
「やり遂げた気持ちが、とってぇもするでぇすぅ!」
「何つぅーか! カァーーーッて気持ちっスねぇ!」
「ウチも売り子は初めてだけどさァ達成感がハンパねぇさぁあっぁ!」
 興奮冷めやらぬ五人。
 勢いそのまま片づけを行い帰路に就き、道中も「即売会で起きた出来事」を笑顔で語り合った。
 そんな中、ふと気になる露店に目を留めるラディッシュ。

 引き止められる様に足を止め、
「「「「?」」」」
 振り返ったドロプウォート達に、
「ぼ、僕、ちょっと見たいお店を見つけたから、みんなは先に帰ってて」
 しかし、ヘタレ男子を繁華街に一人残す事に、

((((ダイジョウブ?))))

 不安を隠せない四人。
「「「「…………」」」」
 その微妙な表情から、自分が不甲斐無い故に「心配させている」と悟ったラディッシュは、四人の不安を軽減させようと、
「ちょ、ちょっと見たら僕もスグに帰るよ♪」
 陰りの無い笑顔を見せ、弱腰勇者が即売会を経て見せた小さな進化に、
「分かりましたわ♪」
 ドロプウォートは笑顔で頷き、
「ラディの荷物は、私が持って帰っておきますわ」
 歩み寄ると、
「ありがとうドロプさん♪」
 持っていた荷物を手渡したが、
「で、でも、ドロプさんの分もあるのに、重くない?」
 気遣いに、
 
「貴方は「誰に」モノを言ってますのぉ♪」

 からかい交じりの笑顔を返し、
「そうですね。無用な心配でしたね、四大貴族の首席誓約者(仮)様には♪」
「(仮)は余計ですわ♪」
 笑い合うと、パストリスも笑顔で、
「ボクたちもいるから大丈夫でぇすぅ♪」
 そこへターナップも、
「そぅっスよ♪ ただ年末の祭りに浮かれ気分のバカもいやスからぁ、それだけ気をつけ……って、それこそ無用の心配っスかね? ドロプの姉さんと剣術でタメはれる「今の兄貴」には?」
「アハハハ。そんな事ないよぉ。でも気を付けるね」
 ラディッシュは笑いながら、
「ニプルさん、フルール様には、そう伝えてもらえるかな?」
「分かったさ」
 ヤレヤレ笑顔で了解する彼女であったが、
「ただタープの言う通り、このフルールにおいて「浮かれたバカが出る」ってのも、みっともない話だが、事実は事実さ。十分、気は付けるんだよ」
「うん」
 ラディッシュは、城に戻るドロプウォート達を見送ると、
「さて」
 先ほど目が留まった露店に向かった。
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