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第二章

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 高く強固な壁に囲まれながらも敷地内に広い庭を有するフルール城――

 冬の足音が近づく季節なれど、未だ多彩な花が咲き誇る庭園内を、ラディッシュ達はリブロンの先導で歩き、やがて木造二階建ての建物が何棟も並ぶ一角へとやって来た。
 彼女はそのうちの一棟の扉を開け、
「この建物群は有事の際、騎士たちが寝泊まりする兵舎です。有事に備え、必要な物は揃っていると思いますが、不足の品がありましたら申し出て下さい」
 いつの間に口調は、無感情で事務的な物に戻っていた。

 先の「ハクサンの申し出」を考えれば、当然の反応であろうか。

 建物は無骨な木造な上、有事の際にしか使わないとの説明であったが、ターナップの村の職人が作業小屋として使っていた建物のような「雨風をしのげれば感」は全く無く、「手入れが行き届いている感」があり、女性主体の国ならではの細やか気配りも感じられ、
(ここが僕たちの、少しの間だけど「家」になるんだぁ……)
 ラディッシュ達が感慨深げに室内を見回していると、

『ハイハ~~~イ! リブロンちゃん、早速不足しているものがありまぁ~す!』

 軽薄な声を上げたのはハクサン。
「なんでしょう」
 内心の嫌悪が滲み出た事務的口調であったが、彼は気にする風も無く、
「女子成分が不足していまぁ~す! なのでコレから町に、」

『申し訳ありませんが!』

 強い口調で二の句を遮り、
「陛下からは「賓客として丁重に」とは命じられておりますが、貴方方には、城内を勝手に歩く事、また「町へ出る事」を禁じさせていただきます」
 体の良い「軟禁」である。「賓客として」と言われれば聞こえは良いが。

「「「「「!?」」」」」

 ラディッシュ達に加え、巻き込まれた感のあるニプルも驚きを隠せず、ハクサンが不服顔をする中、リブロンは動じた様子も見せずに彼を睨みながら、
「小動物の群れの中に「悪食の肉食獣」を放つ訳にはいかないでしょうから」
「「「「「あぁ~」」」」」
 大きく頷くラディッシュ達と、この国でも「前科がある」だけに笑って誤魔化すハクサン。

 すると「十把一絡げ感」を否めないドロプウォートが不服気に、
「ならば(軟禁は)「彼だけ」で良いのでは?」
 もっともな問いに、リブロンは小さくため息を吐き、
「貴方方が出掛けてしまったら、誰が「コレ(ハクサン)」を見張るのです」
「これ……」
 苦笑するハクサン。
 そんな彼を尻目に、
「この国は「女性主体」の風土が故に「男性の数」が圧倒的に少なく、その……男性免疫の少ない女性が過度に多いので……その……」
 チラッとラディッシュを見た。
 
 ハクサンには使わなかった気遣いを見せるリブロン。
 目で、ラディッシュにも問題があるのを訴え、
「「「「「あぁ~」」」」」
 ハクサンを含め、大きく頷くドロプウォート達。
 ラディッシュの容姿と、噂に名高きイケメンスキルにより、虜にされてしまう女性多発を「懸念して」と理解し。
 一方、
「?」
 何故にチラッと見られたのか、どうしてみんなが頷いたのか、分からない無自覚ラディッシュであった。

 やがて「伝えるべき事」を全て伝え終えたリブロンは、
「では、また明日に。ニプル、後の事はお願いします」
 早々に立ち去ろうとすると、

『あっ、あの!』

 ラディッシュが声を上げ、
「何か?」
 事務的口調で振り返った彼女に、
「いっ、今から「フルールの天法」を教えてもらえないでしょうか!」
「!」
「「「「「!」」」」」
 唐突な申し出に戸惑うリブロンと、彼の「やる気」に驚くドロプウォート達。

 弱腰に見えた彼の、意志を感じる強い眼差しに、
(何か「急く理由」があるのですね……)
 リブロンが心中を察する一方で、彼がやる気を出せば出すほど、

(また「ラミィ」ですの……)

 胸に小さな棘が刺さって行くドロプウォート。
 しかし彼女の秘めた想いなど知る由も無いリブロンは、
「この国フルールは「研鑽を積むが美徳」とされる国……」
 短く一考すると、
「良いでしょう」
「ありがとう♪」
 笑顔のラディッシュに向き直り、
「ただし、やはり本格的な稽古は明日からとし、今は「貴方様の実力」を見せていただけますでしょうか?」
「ぼ、僕の……」
「はい。それにより、明日からの稽古内容を検討させていただきます」
(僕の、今の実力……)
 ラディッシュは、かつてないほど真剣な表情で腹を括った様子を見せ、その姿に、
(勇者様は本気の様ですね……)
 息を呑むリブロン。
(異世界勇者でありながら、ラミウム様のチカラを受け継いだ、新たな「百人の天世人候補」……その実力はいったいどれ程の……)
 そんな中、
 
(((((あ……)))))

 とある「重大事実」を思い出すドロプウォート達。
 とは言え緊迫した状況下、既に、その事実を今さら彼女に告げられる空気ではなく、
(((((…………)))))
 五人は庭へ出る二人の後に黙って続き、事の成り行きを見守った。

 庭の真ん中で、緊張した面持ちで佇むラディッシュ。
 両手を胸の前に突き出し重ね、
「じゃ、じゃぁやってみるね」
 意識を集中。
「…………」
 やがて周囲の植物たちなどから、キラキラとした白銀の光が流れ出し、ラディッシュの重ねた両手に集まり始め、
「…………」
(まずは天法の基礎中の基礎、初歩ですね……)
 リブロンが「次は何か」と見つめていると、

『ふぅ~上手くいったぁ♪』

 ラディッシュの「今の実力」の披露終了。

「・・・・・・え?」

 フリーズするリブロン。
 百人の天世人になろうかと言う人物が、天法開発が盛んなフルール以外の国の、幼子でも出来る「天法の初歩中の初歩」でよもや終了とは思いもよらず、
「な……」
 やっと開いた重い口で、見守るドロプウォート達に、
「何かの冗談……ですよねぇ?」
 機械仕掛けの人形のように振り向き問うと、

(((((…………)))))

 彼女たちはバツが悪そうに、一斉に視線を逸らした。

 その一方で(本人的には)やり切ったラディッシュは満面の笑顔で、
「リブロンさぁん、どうだったかなぁ♪」

『どぅもこぅもありませぇんわぁあぁぁぁあああぁ!!!』

 発狂リブロン。
「貴方は「異世界勇者」なのでしょ!」
 驚愕の表情で詰め寄り、
「ラミウム様から「チカラを継承された」のでしょ!!」
「あ、はい」
「何故にぃ! 何故に「中世の幼子」ですら息を吸う様に出来る事しか出来ませんのぉおぉぉ!!!」
 感情をあまり表に出さない印象であった彼女の咆哮に、
「あははは……」
 苦笑しながら頭を掻くラディッシュと、
(((((…………)))))
 恥ずかしながら、返す言葉も無いドロプウォート達。

 しかしその「あまりの無力さ加減」が、

『ならば、イイでしょう!』

 リブロンの中の「何か」に火を点け、
「私が明日から「みっちり」しごき倒してぇ差し上げますゥ!」
 あまりの気迫に、自ら特訓を志願しておきながら、
「え……」
 少々引き気味のラディッシュ。

 そして「彼の天法教育」に苦悩した経験を持つドロプウォートは、彼女の気迫に触発され、
(私の教育方針は「甘かった」のかも知れませんわ!)
 思い改め、恭しく彼を差し出すように、
「煮るなり焼くなり、よろしくお願い致しますわ」
「任せて下さァい! 「特級の天法使い」に仕上げて見せますゥ!」
 ともすれば他者に冷徹と思えるリブロンの両目は、炎のような決意で真っ赤に燃え上がり、ラディッシュは今さらながら、
(言わない方が良かったかな……)
 後悔するのであった。
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