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第二章

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 夕食を終え――
 
 片付けが終わるとニプルが早々に、
「ウチはちょいと野暮用があるんで、今日はもぅ宿に帰るよぉ」
 勝手口から外に出て、扉を閉めた。
 
 季節がら、星々が霞なく瞬く空の下、ぶるっと小さく身を震わせ、
(冬が近いさねぇ)
 誰に言うでもなく呟くと、温かい光のこぼれる扉をチラッと見返してから、
「…………」
 思い詰めた表情で、宿に向かって歩き始めた。
 
 しかし程なく、
 
『ニプルゥーーー!』

「!?」

 背後からドロプウォートの呼び声が。
 
 後を追って駆けて来た彼女に、ニプルはからかい口調で、
「「推しの作家」対決の、続きでもしに来たのかぁい♪」
「違いますわよぉ♪」
 笑いで返すドロプウォート。
 
 彼女が何故に追って来たのか、理由は容易に想像出来たが、あえて煙に巻く冗談を交え、
「んならぁ、」
 何かを言おうとしたが、先手を打つように、
 
「先程はラディに、何を言おうとして止めましたの?」

「…………」
(やっぱり気付いてたか……)

「何をって、そりゃあ、」

 体よく話をはぐらかそうとしたものの、彼女の真っ直ぐな眼差しに、
 
((ウチと似たコイツに)誤魔化しや、はぐらかしは通用しない、か……)

 苦笑交じりの辟易したため息を一つ吐き、
「ガラは互いに「こうも違う」のに、なんで分かったちまうのかねぇ~」
「それは、お互い様では無くて?」

 互いに似たような、人並み以上の苦労を重ねてきたが故の以心伝心。
 
「違いない」

 小さく笑い返すニプルは腹を括ると、
「コイツはフルール国の見解だが……」
 前置きした上で、
 
「ラディは、もぅ異世界勇者じゃない」

「え?!」

 唐突な宣言に面を食らうドロプウォート。
 誰に何を言われようが「勇者と誓約者(仮)」の関係が、ラディッシュとの確かな繋がりであり、彼女の「心の拠り所」であっただけに。
 その確信が揺らぎかねない発言を投げかけられ、動揺が隠せず、
 
「そっ、それはどう言う意味でぇすの!」

 答えを急くドロプウォート。
 するとニプルは静かに、
「いいかいドロプ、よく聞きな」
 落ち着くよう制すると、
「ラディは……」
「ラディは?」
 固唾を呑んで見守る彼女に、意を決し、
 
「「天世人」になりつつある」
「な!?」
「しかもラミウム様のチカラを引き継いだ「百人の天世人」だ」
「そんなぁ!」
「本人には黙ってろよぉ。ショック死しちまう」
 
 動揺する彼女を「宥める意味合い」も込めて冗談を交えたが、ドロプウォートは食い下がり、
 
「何か確証があっての話ですのぉ!」

 詰め寄り、ニプルは再度落ち着く様に促しながら、
「先の「地世との戦い」でのラディの身に起きた事は、オマエの国に居る協力者から一部始終を聞いた」
「きょ、協力者ですってぇ?!」
「何を驚いてんのさぁ。平和ボケしたアンタの国じゃ、無い話じゃないだろう?」
「!」
 思い出されるは「勇者召喚の儀」で、買収された者たちの手引きにより地世信奉者たちが闘技場に入り込んだ件。
 
「み、耳が痛い話ですわぇ……」
「まぁ協力者のヤツは知らなかったようだが、「チカラの継承について」の古い伝承がフルールには残っていてねぇ、その話と「今回起きた事」が酷似しているのさ」
「もしか、貴方が派遣された本当の理由とは……」
「あぁ。事の真偽を見極める為と、不足事態に備えてさ。まだ候補者とは言え、中世の世界で「百人の天世人」の身に何かあったら、ただ事じゃ済まないからな」
「…………」
(なんと素晴らしき判断ですの……)
 他国のことながら「先見の明」に感心し、言葉が出ないドロプウォート。
 
(それに比べ……)

 天世人降臨の地でありながら、勇者排出国である事に胡坐をかき、私欲にまみれた故国に改めて呆れを抱きつつ、
「それに致しましても、よくその様な伝承が、」
「「残っているな」と思ってか?」
「えっ?! えぇ……」
 するとニプルは不敵な笑みを浮かべ、
 
「フルールは、天世から「天法開発を任されているから」だけじゃなく、いつかエルブ国に「取って代わろう」と、虎視眈々と狙っているからねぇ」
「ッ!」
 咄嗟に鋭い眼光を放つドロプウォート。
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