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第二章

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 数分後――

 女子三人の姿は、昼であるにもかかわらず、人通りが極端に少ない、むしろ見かけない、仄暗ささえ感じる裏通りにあった。
 怯え顔で周囲を見回すパストリス。
 ドロプウォートの腕にしがみつき、
「な、なんかコワイでぇすぅ……」
 そこに「並外れた巨漢のサイクロプス」を叩きのめした雄姿は見られない。
 ドロプウォートも初めて目にする村の暗部に、
「この様な「危うい通り」が村にあったなんて……」
 歩きながらも驚きを隠せず周囲を見回し、メモを手に前を行くニプルの背に、
 
「道を間違えていませんこと? 私たちが目指すのは「書店」であって「闇市」ではありませんのよ?」
「失礼な事を言うな、先祖返りぃ!」

 ニプルは苦笑しながら振り返り、
「ウチはこれでも「地図を読む」のには定評があってだな、」
「どなたにですの?」
「ふ、」
 口にしかけた何かを、慌てて噤んだ。
 
 自身の身分が「フルール軍にある」と、未だ打ち明けていなかったから。
 それを打ち明けてしまうと、今の関係が壊れてしまうとも感じ。
 なんだかんだと文句を言いながらも、今の関わり方、距離感が、気に入っていたのである。
 
 とりあえず、疑いを持たれかけた現状を打破しようと、
「ふ……ふ、ふわぁ~と、その辺の連中だぁよ!」
「何ですの、ソレは?」
 呆れ笑うドロプウォートに、
 
「うっ、うるさねぇ!」

 下手な言い訳による羞恥を憤慨で誤魔化し、
 
「ホラぁ、目的地に着いたよぉ!」

 とある一軒の、建物の前で立ち止まった。
「「…………」」
 何とも言えない、物言いたげな表情で建物を見上げるドロプウォートとパストリス。
 
 三人の前にあったのは、今の季節が秋と言う事もあり「枯れた蔦」で覆われた、木造平屋建ての民家に見える建物で、目的の店と判別できる物と言えば「掲げられた看板」のみ。
 魔女でも出て来そうな、怪しげな雰囲気の店構えに、流石のニプルも入店をためらっていると、
 ギィ……
 木戸が軋みを立てゆぅっっっくりと開き、薄暗い闇の室内にぼんやり浮かんだのは、青白く、病的な男の顔。

「ヒィ!」

 短い悲鳴を上げるパストリス。咄嗟にドロプウォートの背に隠れると、闇に浮かぶ男の顔は、
 
「入るなら早く入ってよ……後から来るお客さんの邪魔になるし、日差しで本が傷むでしょ……」

 至極まっとうな苦言。
「「「…………」」」
 女子三人は互いの意向を目と目で確認し合った後、
 
「しっ、失礼致しますわ……」

 ドロプウォートが先陣切って「闇の中」に足を踏み入れ、二人も後に続いた。

 闇へと消えて行く、三つの背。

 扉は、
 ギッギぃギギギィ……バタぁン……
 奇怪な音を立てながらゆっくりと閉まった。
 あたかも、女子三人を幽閉するかのように。

 彼女たちが闇の中で目にしたモノ――
 それは、
 
『凄い数の本ですわぁ!』

 驚きの声を上げたのはドロプウォート。
 
 薄明りの照明で照らされた店内は、天井につきそうな高さの本棚が壁と言う壁、加えて部屋を細かく間仕切るように幾つも置かれ、棚の中も隙間など皆無。
 カテゴリーとジャンルごとに棚で細分化された品揃えは、彼女が城下で目にした書店を遥かに凌駕していたらしく、圧倒された様子で呆然と立ち尽くしていた。
 
 それは「本好き」を自称するニプルも同じ。
 母国フルールでもお目に掛かった事の無い「蔵書の数」であったのか、ドロプウォートと同じ顔して立ち尽くし、パストリスも店構えからは到底想像出来なかった本の数に、
「スゴイでぇすぅ……これが全部、恋愛小説でぇすぅ……?」
 恐怖していたのも忘れて見回していると、
(……色々ですよ……)
 背後から霊、ではなく「例の」店員が。
 
「ひぃ!」

 驚き、飛び跳ねる様に、再びドロプウォートの背に隠れるパストリス。
 
 その姿にドロプウォートは苦笑い。
「貴方(店員)のソレは「わざと」ですの? 暗い店内で足音を忍ばせて」
 すると男は小声で、
(……失敬な……)
 病的な青白い顔を不愉快で歪ませ、
(……大きい声で話すと、本に唾が飛ぶでしょ……ドタバタ歩いて本が棚から落ちたら傷むし……)
「「「…………」」」
 男の奇行の全てが「異常な本愛ゆえ」と知る女子三人。
 
 そんな中、同じ本好きであるが故にニプルは何か通ずるモノでもあったのか、緊張の表情を安堵に変え、
 
「それで、この店にはどんな本があるのさ?」

 問いに男は再び小声で、
(……種類なんか言ってたら……ヒッヒッヒッ……夜が明けますよ……)
 不気味にニヤリ、
(……「十八禁」もあるし、「同人」も、ねぇ……)
 ゾッとする程の笑みを浮かべたが、
 
『『ドウジン!?』』

 驚きの声を上げたのはドロプウォートとパストリス。
 二人の唐突な驚きに、
 
「なっ?! なんだ二人して??!」

 慄くニプルに二人は詰め寄る様に、
「ラミィがパストによく言ってたんですわぁ!」
「何をさ?」
「よく言われたでぇす!」
「だから何をさぁ?」

『『「あのドウジンみたいに引ん剥くぞ」って!』』

 興奮気味に訴える二人であったが、意味が分からないニプルにとって要領を得ない話であり、
 
「何だいそりゃ?」

 首を傾げると、
 
『ヒャーハッハッ!』
「「「ッ!」」」

 それまで「病的ボソボソ声」だった男が急な高笑い。
 
「なっ、何事ですぉ唐突にぃ???!」

 驚くドロプウォートたち女子三人に、
(ソレが見たいならぁ、見せて差し上げますよぉ♪)
 舌なめずり。
 その卑猥な表情に、
(((え………)))
 嫌な予感しかしない女子三人。
 
 しかし、ラミウムが言っていた「引ん剥く」と言う言葉の響きから、
「「「…………」」」
 密かな好奇心が抑えきれず、
 
(((何かあっても、(腕に覚えのある)この三人でなら……)))

 対処可能と思い、男の、
(……どうぞぉ、コチラへ……)
 更なる暗がりへの「招き」に従った。
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