上 下
115 / 706

1-115

しおりを挟む
 二人の少女の活躍によりエルブ軍に再び勝利の光が見え始めた頃――
 
 一進一退を繰り返す、ラミウムと黒狼パトリニア。
≪ガルァ。ったく、どぅしたよラミっちぃ、動きが随分鈍くなって来てねぇかぁ? 光もさっきより弱まってぇよ。まぁ聖具が無けりゃこの程度、≫
「好き勝手ぇ妄想こいてんじゃないさぁねぇ、パトリニアぁ!」
 余裕を見せる黒狼を追撃するラミウムであったが、強気を見せる裏側で、
(コイツぁ、いったいどう言う事だぁい……)
 異変を感じ始めていた。

(確かにヤツ(パトリニア)の言う通り、今のアタシにぁ「聖具」も無けりゃ、体も本調子からは程遠く、二重三重のハンデを背負って戦っているようなモンさぁね……に、したってぇ……何でヤツには疲れが見えない?)

 一旦距離を取ろうと後退する黒狼パトリニアを追うさ中、
「ッ!」
 ラミウムを突如襲う、激しい動悸。

 心臓を鷲掴みにされた様な苦しさから、胸を押さえて地面に手を着き、
(マジかぁい! ついに(限界が)来ちまったってのかぁいぃ!?)
 額に薄っすら脂汗まで流し始めたが、痛み以上に、

「なぁっ!? こっ、コイツはぁ!」

 とある異変に気付き驚いた。
 戦場に、無数に横たわる敵味方問わずの亡骸から、地世のエネルギーの様な物が黒狼パトリニアに向かって延々流れていたのである。
 ジリ貧の中で生まれた偶然の発見とは言え、
(地に手を着く機会が無かったら、アタシぁ死んでも気付けなかったんじゃないのかい?!)
 膝を突く機会を得たのを、幸運に思っていると、
≪ガルァラァ! ったく今頃気が付いたかぁラミっちぃよ! ソイツ等(亡骸)は、言わば俺っちの地世のチカラを補う電池よぉ!≫
 愉快そうに言ってのける黒狼パトリニアに、
「アンタは、その為ダケに……」
 怒りのオーラを立ち昇らせるラミウム。
 胸を押さえてゆっくり立ち上がり、

「アンタを信じた信奉者たちにぃ、この場所での無策な自爆攻撃を繰り返させてたのかァい!」

 苦し気な表情で黒狼パトリニアを睨んだが、
≪ガァルァ! 笑止ィ! そもそも「中世の人間」や「この世界(中世)」など不要ォ! 天世に攻め入る障害物でしかねぇんだよォ!≫
「んだとぉ!」
 人を人として見ない暴言の数々に激怒。

 その心の内では、
(コイツ(パトリニア)は、こんな風に人を差別して見下すようなヤツじゃなかった……)
 昔馴染みの変わりようにショックを受けていた。
 しかし、表面上は怒りを維持し、

「彼らは「この世界」に生きて、」
≪「ソレを作った側」の人間が言えた事かァア!≫
「!」

 思わず黙するラミウム。
 何か「後ろ暗い核心」を突かれたのか、気持ちを立て直す様にグッと奥歯を噛み締め、言葉に出来ぬ何かを飲み込んでから、

『神話の時代の話なんざぁアタシの知ったこっちゃないさぁねぇ! アタシは「今の話」をしてるのさぁねぇ!』

 纏わる何かを振り切る様に言い放ち、
「プエラリアの本意は知らないがねぇ、アンタだけは全力で止めて見せるさぁねぇ!」
 ラミウムは決死の表情で両手を合わせ、

≪我がチカラァ! 天世のチカラを以てこの地を、人々を、我、護らァァァん!≫

 次第に白き輝きを増大させて行く姿に、
(残りのチカラの全てを使って、俺っちごと「この地を浄化」する気かぁ?! 一歩違えりゃ死ぬぜぇ!?)
 驚く黒狼パトリニアであったが、不敵に、かつ愉快そうに口元を緩め、

≪ガァルゥ! 面白れぇ! ったく面白れぇよラミっっちぃ! ラミっちのそぅ言うイチかバチかの大博打な所が、俺っち昔から大嫌い(大好き)だったぜぇ!≫

 自身も黒き輝きを爆発的に拡大させていくと、徐々に拡大していく白き輝きの中で、
「あぁ知ってるさぁねぇ♪」
 ラミウムは胸の痛みに苦しいながら、
(忘れる筈がないさぁねぇ)
 二人の記憶は遥か彼方へ。

 楽し気に笑うラミウムと、少年の様な笑顔を口元に浮かべる一人の騎士。

「真白」と「漆黒」の世界は二人の間でせめぎ合い、やがて戦場全体を包み込み、

「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」

 人を、モンスターを、全てを飲み込み、やがてパァンと弾ける様に世界から一瞬色が消えた後、色が戻った世界で人々が目にしたのは、

「「「「「「「「「「ッ!」」」」」」」」」」

 二人の死闘が繰り広げられていた地に立つ、導師の姿に戻った「パトリニア」であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】天候を操れる程度の能力を持った俺は、国を富ませる事が最優先!~何もかもゼロスタートでも挫けずめげず富ませます!!~

udonlevel2
ファンタジー
幼い頃から心臓の悪かった中村キョウスケは、親から「無駄金使い」とののしられながら病院生活を送っていた。 それでも勉強は好きで本を読んだりニュースを見たりするのも好きな勤勉家でもあった。 唯一の弟とはそれなりに仲が良く、色々な遊びを教えてくれた。 だが、二十歳までしか生きられないだろうと言われていたキョウスケだったが、医療の進歩で三十歳まで生きることができ、家での自宅治療に切り替わったその日――階段から降りようとして両親に突き飛ばされ命を落とす。 ――死んだ日は、土砂降りの様な雨だった。 しかし、次に目が覚めた時は褐色の肌に銀の髪をした5歳くらいの少年で。 自分が転生したことを悟り、砂漠の国シュノベザール王国の第一王子だと言う事を知る。 飢えに苦しむ国民、天候に恵まれないシュノベザール王国は常に飢えていた。だが幸いな事に第一王子として生まれたシュライは【天候を操る程度の能力】を持っていた。 その力は凄まじく、シュライは自国を豊かにするために、時に鬼となる事も持さない覚悟で成人と認められる15歳になると、頼れる弟と宰相と共に内政を始める事となる――。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中です。 無断朗読・無断使用・無断転載禁止。

処理中です...